離婚したのに、元夫が離してくれません

離婚したのに、元夫が離してくれません

ハニー結

5.0
コメント
1.3K
クリック
143

結婚して2年。夫は一度も家に足を踏み入れず、“醜い妻”の顔すら見ようとしなかった。そのくせ、外では毎日のように芸能人たちと浮き名を流していた。 彼女は、もううんざりだった。だからこそ、彼を解放することにした。――ここからは、お互い別々の道を行きましょう、と。 ところが離婚を切り出したその後…… 彼は、会社のデザイナーに妙に目を引かれるようになる。 少しずつ、彼女の“仮面”を剥がしていく彼。そしてついに、本当の姿を知ったその日―― 彼は、後悔することになる。

チャプター 1 離婚を切り出す

新川市の夏の夜は、静まり返っていた。

水野紗奈はソファに腰を下ろし、スマートフォンでニュースを眺めていた。

「川崎グループ社長・川崎峻介、人気女優・戸田沙耶とともに公式イベントへ出席。二人はその後、ホテルで一夜を共にし、親密な様子が撮影され……」

そのニュースはたちまちSNSでトレンド入りし、ネット中を駆け巡っていた。

水野紗奈は黒縁の眼鏡を押し上げながら、無表情のまま写真に視線を落とした。

画像はぼやけていたが、それでも窓辺で抱き合い、唇を重ねる男女の姿ははっきりと確認できた。

その男こそが、彼女の夫――新川市随一の名家、川崎家の後継者、川崎峻介だった。

新川市の経済の要を握る、極めて高貴で特別な存在。

――滑稽な話だ。

二人は結婚してすでに二年が経つというのに、川崎峻介は一度も家に戻ってきたことがなかった。

結婚の届け出すら、本人は現れず、 彼の弁護士が双方の身分証を持って役所に出向き、すべてを済ませたのだった。

水野紗奈にはわかっていた。川崎峻介がこの結婚をずっと拒んでいたことくらい。

彼が結婚に応じたのは、ただ川崎おばあさんのため。

かつて祖父が川崎おばあさんの命を救った縁で、水野家に衣食住に困らない人生を与えてやってほしい――そう頼まれたのだった。

本当は、少しだけ期待していた。二人の関係が、いつか変わるかもしれないと。

けれど、そんな願いは儚く散った。この二年間、川崎峻介はたびたび若い女優たちとのスキャンダルを起こし続けていた。

水野紗奈は唇を引き結び、スマートフォンを取り出すと、彼の連絡先を探し出した。

――自分から電話をかけるのは、これが初めてだった。

まもなく、呼び出し音が止まり、通話がつながった。

「……もしもし、水野紗奈です」

「水野紗奈? どの水野紗奈?」

電波越しに響く男の声は、低く、よく通る。 たとえ冷ややかでも、その響きには妙に惹きつけられるものがあった。

水野紗奈はかすかに笑みを浮かべ、スマートフォンを握り締めた。

――やっぱり。彼は、自分の妻の名前すら覚えていない。

「あなたの結婚証明書に記載されているもう一人、よ」

「……で?用件は?」 男の声は、さらに冷たくなった。

水野紗奈は眼鏡の位置を直しながら、静かに口を開いた。「離婚しましょう」

通話の向こうが、一瞬沈黙した。

そして川崎峻介が問った。「本気でそう思ってる?」

「ええ、もちろん」

「条件があるなら、言ってくれ」

「必要ないわ。川崎社長のお金なんて、欲しくもない。 それに、誰かと“同じ人参”を分け合うなんて、まっぴらごめん。 離婚届は用意してあるし、財産も一切いらない。私は何も持たずに出ていくから」 一息で言い切ると、彼女はそのまま電話を切った。

二人の間に残ったのは、一枚の結婚証明書だけ。それ以外は、見知らぬ他人と何ら変わらなかった。

これからは、橋は橋、道は道。交わることも、重なることもない――もう、何の関わりもない。

水野紗奈は階段を上がると、黒縁の眼鏡を外した。その下から現れたのは、息をのむほど美しい顔立ち。

あらかじめ用意していた離婚届をテーブルに置くと、きちんと荷造りされたスーツケースを引いて、何ひとつ未練を残さず立ち去った。

――川崎グループ。

やわらかな黄色の照明が、社長室全体をあたたかく照らしている。

デスクチェアに腰かける川崎峻介は、シンプルな白シャツに黒のスラックスという装いながら、どこか近寄りがたい気品をまとっていた。

彼はスマートフォンの画面を見つめ、端正な唇をわずかに持ち上げて、皮肉めいた笑いを漏らした。

ようやく、名ばかりの妻が観念して離婚を申し出てきたらしい。

そのとき、コンコンとドアがノックされた。入ってきたのは、側近の古川大輔だ。

「社長、近藤社長との約束の時間が近づいております」

「ああ」そう軽く応じると、川崎峻介は椅子の背にかけていた上着を手に取った。

「……古川、今日のホットワードは削除しておけ。 それと、離婚証明書の手続きも弁護士に進めさせろ」

古川大輔、「……」

(うちの社長、誰より潔癖なくせに、三日に一度はスキャンダルをばら撒いて……全部、今日のこの瞬間のためだったんだな)

水野紗奈はタクシーを拾い、自分名義のマンションへと直行した。

その物件は市の中心部にあり、3LDK。

一寸の土地にも価値があるエリアで、住宅設備もすべてが整っている。

荷物を片付け終えたあと、水野紗奈は大きな掃き出し窓の前に立ち、煌びやかな夜景を見下ろした。そしてスマホを取り出し、親友に電話をかけた。

「陽葵、離婚したよ」

「……えっ? 紗奈、ついに!?やったじゃない!今日こそお祝いだね、独身復活おめでとう!」

「うん、行く」

続きを見る

ハニー結のその他の作品

もっと見る

おすすめ

出所した悪女は、無双する

出所した悪女は、無双する

時雨 健太
5.0

小林美咲は佐久間家の令嬢として17年間生きてきたが、ある日突然、自分が偽物の令嬢であることを知らされる。 本物の令嬢は自らの地位を固めるため、彼女に濡れ衣を着せ陥れた。婚約者を含む佐久間家の人間は皆、本物の令嬢の味方をし、彼女を自らの手で刑務所へと送った。 本物の令嬢の身代わりとして4年間服役し出所した後、小林美咲は踵を返し、東條グループのあの放蕩無頼で道楽者の隠し子に嫁いだ。 誰もが小林美咲の人生はもう終わりだと思っていた。しかしある日、佐久間家の人間は突然気づくことになる。世界のハイエンドジュエリーブランドの創設者が小林美咲であり、トップクラスのハッカーも、予約困難なカリスマ料理人も、世界を席巻したゲームデザイナーも小林美咲であり、そしてかつて陰ながら佐久間家を支えていたのも、小林美咲だったということに。 佐久間家の当主と夫人は言う。「美咲、私たちが間違っていた。どうか戻ってきて佐久間家を救ってくれないか!」 かつて傲慢だった佐久間家の若様は人々の前で懇願する。「美咲、全部兄さんが悪かった。兄さんを許してくれないか?」 あの気品あふれる長野家の一人息子はひざまずきプロポーズする。「美咲、君がいないと、僕は生きていけないんだ」 東條幸雄は妻がとんでもない大物だと知った後、なすがままに受け入れるしかなくなり…… 他人から「堂々とヒモ生活を送っている」と罵られても、彼は笑って小林美咲の肩を抱き、こう言うのだった。「美咲、家に帰ろう」 そして後になって小林美咲は知ることになる。自分のこのヒモ旦那が、実は伝説の、あの神秘に包まれた財界のレジェンドだったとは。 そして、彼が自分に対してとっくの昔から良からぬことを企んでいたことにも……

五年、運命を狂わせた一つの嘘

五年、運命を狂わせた一つの嘘

Gavin
5.0

夫はシャワーを浴びていた。水の音が、いつもの朝のリズムを刻んでいる。完璧だと思っていた結婚生活、五年目の小さな習慣。私は彼のデスクにコーヒーを置いた。 その時、夫のノートパソコンにメールの通知がポップアップした。「桐谷怜央くんの洗礼式にご招待」。私たちの苗字。送り主は、佐藤美月。SNSで見かけるインフルエンサーだ。 氷のように冷たい絶望が、私の心を支配した。それは彼の息子の招待状。私の知らない、息子の。 私は教会へ向かった。物陰に隠れて中を覗くと、彼が赤ちゃんを抱いていた。彼の黒髪と瞳を受け継いだ、小さな男の子。母親である佐藤美月が、幸せそうな家庭の絵のように、彼の肩に寄りかかっていた。 彼らは家族に見えた。完璧で、幸せな家族。私の世界は、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。 私との子供は、仕事が大変だからと断った彼を思い出す。彼の出張、深夜までの仕事――その時間は、すべて彼女たちと過ごしていたのだろうか? なんて簡単な嘘。どうして私は、こんなにも盲目だったのだろう? 私は、彼のために延期していたチューリッヒ建築学特別研究員制度の事務局に電話をかけた。「研究員制度、お受けしたいと思います」私の声は、不気味なほど穏やかだった。「すぐに出発できます」

五年間の欺瞞、一生の報い

五年間の欺瞞、一生の報い

Gavin
5.0

私は有栖川家の令嬢。幼少期を児童養護施設で過ごした末に、ようやく探し出され、本当の家に迎え入れられた。 両親は私を溺愛し、夫は私を慈しんでくれた。 私の人生を破滅させようとした女、菊池莉奈は精神科施設に収容された。 私は安全で、愛されていた。 自分の誕生日に、夫の譲をオフィスで驚かせようと決めた。でも、彼はそこにいなかった。 彼を見つけたのは、街の反対側にあるプライベートな画廊だった。彼は莉奈と一緒にいた。 彼女は施設になんていなかった。輝くような笑顔で、私の夫と、彼らの五歳になる息子の隣に立っていた。 ガラス越しに、譲が彼女にキスをするのを見た。今朝、私にしてくれたのと同じ、愛情のこもった、慣れた仕草で。 そっと近づくと、彼らの会話が聞こえてきた。 私が誕生日に行きたいと願った遊園地は、彼がすでに公園全体を息子に約束していたために断られたのだ。息子の誕生日は、私と同じ日だった。 「家族ができたことに感謝してるから、俺たちが言うことは何でも信じるんだ。哀れなくらいにな」 譲の声には、私の息を奪うほどの残酷さが滲んでいた。 私の現実のすべてが――この秘密の生活に資金を提供していた愛情深い両親も、献身的な夫も――五年間にわたる嘘だった。 私はただ、彼らが舞台の上に立たせておいた道化師に過ぎなかった。 スマホが震えた。譲からのメッセージだった。彼が本当の家族の隣に立ちながら送ってきたものだ。 「会議、終わったよ。疲れた。会いたいな」 その何気ない嘘が、最後の一撃だった。 彼らは私を、自分たちがコントロールできる哀れで感謝に満ちた孤児だと思っていた。 彼らは、自分たちがどれほど間違っていたかを知ることになる。

すぐ読みます
本をダウンロード
離婚したのに、元夫が離してくれません
1

チャプター 1 離婚を切り出す

27/08/2025

2

チャプター 2 昨日離婚を切り出したばかりの男と

27/08/2025

3

チャプター 3 なりすまし

27/08/2025

4

チャプター 4 交通事故

27/08/2025

5

チャプター 5 彼女がローズ

27/08/2025

6

チャプター 6 川崎峻介のことが好き

27/08/2025

7

チャプター 7 絶対、仕返しのつもりだ!

27/08/2025

8

チャプター 8 妙に馴染み深い香り

27/08/2025

9

チャプター 9 誰もが女たらしに惹かれると思わないで

27/08/2025

10

チャプター 10 川崎社長あの女優には特別みたい

27/08/2025

11

チャプター 11 軽薄な男

27/08/2025

12

チャプター 12 彼の心を鷲掴み

27/08/2025

13

チャプター 13 捻じ切られるとこ

27/08/2025

14

チャプター 14 味方でいてくれる

27/08/2025

15

チャプター 15 読めない

27/08/2025

16

チャプター 16 誤解されるとでも

27/08/2025

17

チャプター 17 誰かが彼女のことを調べてる

27/08/2025

18

チャプター 18 かつての恋人

27/08/2025

19

チャプター 19 まだ彼女のことを考えてる

27/08/2025

20

チャプター 20 命の恩人の誤認

27/08/2025

21

チャプター 21 あの子のことまだ忘れられない

27/08/2025

22

チャプター 22 ローズに似てる

27/08/2025

23

チャプター 23 今さら何を照れている

27/08/2025

24

チャプター 24 元夫と密着接触

27/08/2025

25

チャプター 25 兄弟の気に入った女を横取りなんてしない

27/08/2025

26

第26章釘付けだった

27/08/2025

27

チャプター 27 二分間、キスしてもらう

27/08/2025

28

チャプター 28 あの子のことが気になる

27/08/2025

29

チャプター 29 女が恋なんてするものじゃない

27/08/2025

30

チャプター 30 どう切り抜けるつもりなのか

27/08/2025

31

チャプター 31 誰が誰の真似をしたのか?

27/08/2025

32

チャプター 32 最初から知ってたのか

27/08/2025

33

チャプター 33 女に媚び売ってる

27/08/2025

34

チャプター 34 後悔と絶望に押し潰される

27/08/2025

35

第35章彼女のため

28/08/2025

36

第36章鈍さか、それとも計算ずくなのか?

29/08/2025

37

第37章元夫にこき使われる

30/08/2025

38

第38章節穴

31/08/2025

39

第39章彼女のために

01/09/2025

40

チャプター 40 後ろ盾を無視するつもり?

01/09/2025