一八五二年、西ヨーロッパにできた国、ラウンドテイブル。それは、平等の理念を中心として形成された魔術大国。 そんな平等理念を掲げていても、一部の外れスキルと呼ばれる魔術特異性の人間は差別される。社会の流れに負けた俺は周囲から差別され『落ちこぼれ』の称号を得た。年は二〇〇七。これより、そんな俺が大人になってからの復讐が始まる。
「はぁ、面倒だ。なんで俺がこんな事をしなければならないんだ!」
俺、ピグロ(二七)は職を探している真っ最中だ。今は生活費獲得のために、街でチラシを配るアルバイトをしている。この国最大の魔術学園と名高い、ゲニー魔術学園のチラシだ。まぁ、どんなことが書かれているのかは詳しくは知らない。 雪が降りしきる中、俺は震えながらチラシを配る。
――何が、名高い魔術学校だ。何が、平等な社会だ。ふざけるんじゃあないぜ。そう思いながら、営業スマイルでチラシを配っていると、若い女子三人組を見かけたので、声をかけてみる事にした。
「どうですか? 大魔道軍隊への進出率九八%のゲニー魔術学園をご検討されてませんか?」
「結構ですー」とサラリと逃げられた。 俺は何をしているのだろう。俺だってこの魔術学園の卒業生だ。まぁ、半分ぐらい行っていなかったけど……。でも、一応卒業しているのだから、もう少し優遇しても良くないか? というかなんで、俺はこんなところで母校のチラシ配りをしているんだろう。そんな事を思いながら俺はチラシ配りを続ける。
ちょっと、休憩でもするかと思って行きつけのコンビニで、抹茶ラテを買って数十秒で飲み干した。
「値段の割に少ないことだな」
そう言うと、店員がこちらを睨んできた。
「すいませんね」
コップをゴミ箱に捨てて、コンビニを後にする。 ふと、路地に目を向けると成金だろうか? 高級そうなアクセサリーを身に纏い、自信満々に歩いている小太りの男を見かけた。
「おいおい、そんなアクセサリーを身につけて路地なんか入ったら……」
案の定、その男は盗賊集団に囲まれていた。「全く、バカな野郎だぜ。どうする、助けるか?」
俺はこのような人生に関わりそうな選択の前には少し考え事をする癖がある。
よし、あの成金野郎に恩を売れば良い職にたどり着けるかもしれない。そんな不純な期待をのせて俺は路地に入り込んだ。
「何をしているんだ!」
俺は男に殴りかかっている盗賊に声をかける。 「なんだよ、見ればわかるだろう。こんな高価なものを身に纏いやがって成金が! どうせこいつも、あの名門魔術学園の出身なんだろうさ」
そう、これがこの世界が不平等であると言う決定的証拠である。魔術を使える者は重宝され、それ以外の人間は切り捨てられ社会の目にも止まらない。この世界に一矢報いてやりたいと思う考えは俺も、この盗賊集団も同じのようだ。
「た、助けてくれ」
小太りの男は震えながら、俺の目を見てくる。 「俺たちを見逃すってんならお前を痛めつけたりはしない。数の暴力には圧倒的な力を持ってしても勝てないものだ」
と、盗賊団のボスが俺に言いながらシッシッと手の甲を振ってくる。それを見て、俺はポケットから小さい本を取り出した。
――これは俺を初心に戻してくれる大事なものだ。
『腹痛《スタマツ》』
俺は盗賊どもに照準を合わせ魔術を放つ。 「ナッ! 痛っくない?」
盗賊団は首を傾げる。
「なんだよ、クソ雑魚じゃないっか……」
盗賊団の顔がみるみる青ざめる。
「いかがかな? 俺の状態異常魔法『腹痛《スタマツ》』は下痢の状態が三日間は続くぜ」
そう、これが俺の生まれながらに持っている固有魔法『腹痛《スタマツ》』。他の人は炎の造形魔法だとか、爆発魔法を固有魔法として発動させているのに、俺のは腹痛を起こさせるだけ。折角のレーザーを放っても相手に痛みはなく、当たった五秒後に腹痛を生じさせることしかできないゴミ魔法である。
「きょ……今日のところは勘弁してやる。覚えとけ!」 と、悪役の定番のセリフを残して、彼らは去っていった。
「ありがとうなー。おかげで助かったぞ。君、職はあるのかい?」
俺の望んでいる展開が待っていた。無礼のないように気をつけながら俺は口を開く。
よし、ここでないと言えばまともな職に! 俺はそう思いながら首を振ってこう言った。
「あいにく、今はこれといった定まった職はありません。いわゆるフリーターと言う者でして」と言いながら俺は小太りの男をチラリチラリと見る。すると、男は俺にこう言った。
「君の魔術はとても面白い。あれは、人を傷つけないためにわざと腹痛の効果しかない魔術を放ったんだろう?」
違うんだが。俺はあの魔術しか即座に出せないのだ。とは答えられないので、「そうなんですよ」と答えるしかなかった。
「ふむふむ、気に入ったぞ! 君、我がゲニー魔術学園で教師を勤めてみないかい?」
「え?」
俺は幸運の女神の恩恵でも受けているのだろうか。有名企業とはいかなくても中小企業を紹介してもらえることを期待したが、それ以上だった。 もし、あの学園で教師を務められるならば、俺の今後の人生は輝かしいものになる。 俺はそんなことを思い、必死に笑いを堪える。
「是非お願いします!」
俺は地面に膝をついて男の手を取った。
「よし、決まりだな。早速で悪いんじゃが、君には新学年のあるクラスの担任となって欲しいのだ。……良いかな?」
「はぁ。別に構わないですけど」
「ありがとう。我が校は生徒の質は良いが教師の質が年々下がっているんだ。軍に進出する生徒が多い事が原因ではないかと思うのだがね」
「大変ですね。俺なんかで良ければ」
まぁ、知っているんだけどねと、心の中で補足を入れる。
「いや、助かることこの上ない。早速、我が校に案内しよう」
そう言って男は俺を学園に連れて行った。
ここから俺の安泰の生活が待っている。そう胸を期待で膨らませて、俺は学園へ向かうのであった。