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格闘チャンプの異世界無双 〜地球最強の男、異世界で更なる高みを目指して無双する〜

格闘チャンプの異世界無双 〜地球最強の男、異世界で更なる高みを目指して無双する〜

猪木洋平

5.0
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 東堂院力也は、地球最強の男だ。  ある日、居眠り運転のトラックから少年少女を助けるために、彼は犠牲となった。 「…………む? ここは……?」  彼が目を覚ますと、見知らぬ森にいた。  状況整理に努めているときに、森の奥から女性の悲鳴が聞こえてきた。 「きゃあああっ!」 「むっ! 女の悲鳴か……。今向かうぞ!」  東堂院力也は駆け出す。  しばらくして、女性の姿が見えてきた。  数人の男に押さえつけられている。  服を脱がされ、半裸の状態だ。 「そこまでだ! 賊どもめ!」  東堂院力也が大声でそう言う。  男たちが彼を見る。 「何だあ? てめえは!」 「けっ。通りすがりの冒険者かと思ったが……。見たところ丸腰じゃねえか」 「消えろ。ぶっ飛ばされんうちにな」  賊たちがそう言って凄む。  果たして、東堂院力也はこの賊たちを撃破し、女性を助けることができるのか。  格闘チャンプの異世界無双が、今始まる。

チャプター 1 1話 世界最強の男

地球。

 ある日のスポーツ中継にて。

「決まったあああ! 世界ボクシングヘビー級王者は東堂院力也選手! これで7年連続王者防衛です!」

 また別の日のスポーツ中継にて。

「見事な一撃が炸裂! キックボクシングヘビー級王者は東堂院力也選手! 5年連続の防衛成功です!」

 また別の日。

「強烈な正拳が直撃! 2036年東京オリンピックの金メダルは東堂力也選手の手に! これで4大会連続の金メダル! これぞ日本が誇るスターだあああ!」

 司会の男性が興奮気味にそう叫ぶ。

 それとは対照的に、当の東堂力也はどことなく浮かない表情をしているように見える。

 彼が中継の画面から消えて、試合場から控室に戻る。

 控室では、1人の老年の男性が待っていた。

「見事じゃ。東堂院力也……。様々な格闘技を修めし者よ。これで公式試合で通算1000連勝だそうじゃぞ。非公式の試合も含めれば、もっとかの?」

「師匠か。俺は、連勝記録なんぞに興味はない。ただ、強き者と戦うのみ……。俺を打ち負かすほどの者を求めているのだ」

 老年の男性は、東堂院力也の師匠だ。

 東堂院力也は、現在30歳。

 10歳でプロデビューをしてから、これまで20年負けなしだ。

「お主の強さへの探究心には恐れ入る。だが、今のままではお主の望みは叶わぬままになるじゃろう」

「……なんだと?」

 師匠の言葉を受けて、東堂院力也が怪訝な表情を浮かべる。

「お主も気づいているじゃろう。さすがのお主も、加齢による肉体の衰えには勝てぬ」

「…………」

「このままだと、早ければ数年後にはお主が負けることもあるじゃろう。だが、それは決して相手が強いから負けるのではない。お主が衰えたから負けるのじゃ」

 師匠が言うことは事実だ。

 東堂院力也の肉体は、衰えつつある。

「……では、どうしろと? 今まで、あらゆる武道の大会に裏表問わず参戦してきた。俺より強き者が現れることを願いつつ、日々戦い続けるしか道はない」

 東堂院力也はそう言って、控室を出た。

 師匠はそれを、悲しげな顔で見送った。

 東堂院力也は、街を歩きつつ物思いにふける。

 

 人間としての個の強さはここらが限界なのであろうか……。

 さしもの東堂院力也といえども、ライバルなくしてはこれ以上の成長は見込めない。

 強敵との邂逅こそ、彼がもっとも求めているものであった。

 もちろん、強さを追い求めるだけが彼の人生ではない。

 いい女をはべらせ、うまい酒や肉を飲み食いし、良質な音楽を鑑賞することなども嗜んでいた。

 余生は、有り余る金でそれらを適当に楽しんでいくしかないのだろう。

 そんなことを考えつつ、東堂院力也は歩みを進める。

 信号のある交差点に立ち、ぼんやりと佇む。

 彼の全盛期には、時速100キロで猛進する乗用車を受け止める訓練をしたものだ。

 今の彼の力では、おそらくはその衝撃に耐えきれない。

 師匠の言う通り、加齢による衰えは確実に忍び寄ってきていた。 

「だからよー、そのときにこいつがさ……」

「ぎゃははは!」

「今日、タピオカ飲んで帰ろーよ」

「えー。太るよー」

 若者たちが陽気に話しながら信号を渡る。

 と、そのとき。

 ブロロロロ!

 猛スピードでトラックが迫ってきた。

 居眠り運転か、はたまた飲酒運転か。

 若者たちが迫りくるトラックに気づく。

 しかし、とっさのことで体が動いていない。

「「うわあああぁっ!」」

「「きゃあああっ!」」

 若者たちが悲鳴をあげ、恐怖に目をつむる。

 彼らの硬直した体では、もはや回避は間に合わないだろう。

 それを見た東堂院力也。

 彼の鍛え抜かれた体は、即座に動き出していた。

 4人の若者をトラックの進行範囲から放り出すだけの時間はない。

 せめて1人だけでも助けるか?

 否!

「トラックと力比べか……! 上等!」

 東堂院力也は若者の前に立ち、トラックを受け止めるべく構える。

 運転手は居眠り運転からつい先ほど目が覚めたようで、パニック状態に陥っている。

「ぬうん!」

 東堂院力也とトラックが正面からぶつかり合う。

「ぬあああああぁっ!」

 彼が力を全開にして、トラックに対抗する。

 限界を超えて酷使された筋肉の血管が破れ、血が吹き出る。

 そして数秒後。

 若者たちが恐る恐る目を開ける。

「……ん? 衝撃がない? 」

「お、おい。おっさん。しっかりしろよ!」

 若者たちの前では、血まみれの東堂院力也が倒れていた。

「きゅ、救急車を。救急車を呼んで!」

「お、おじさん。私たちを守ってくれたんだね。死なないで……」

 東堂院力也の全力は、トラックを停止させることに成功した。

 しかし、衝突の衝撃と、全力を出したことによる反動で、彼の体はボロボロになったのだ。

 血溜まりの中に沈みつつ、彼は考える。

「(ふっ。最後の戦いが、居眠り運転のトラックだとはな。パワーは申し分なかったが、願わくばもっと魅力のある強敵と戦って終わりたかったな……)」

 東堂院力也は満足半分、無念半分というような表情で目を閉じる。

 そして、彼の意識は闇の中に沈んでいった。

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