旧鼠の星
。日光は一切入ってこず、地上から隔離された、異様
張り巡らされており、そこからぼん
つ伏せに横たわっていたユスチ
え難いというほどではない。ユスチィスは額
が広がっていく。横にある青白い壁面を白い発光体が奔り、長い回廊の
めているうちに、それまで朦朧としていたユスチ
己が横たわっていたこと、そこに至
生々しく躍動する肢体ははっきりとユスチィスの脳裏に焼き付いており、悍ましい咢をかっと
懸命に走った。しかし、旧鼠の足では、獲物に狙いを
―自分はまだ
あの時の状況を
砂に飲み込まれ、圧倒的な無力感と共に深い砂の底へと沈んでいった。ユスチィスは恐慌状態となって必死に
ていたのか――ユスチィスは懸命に思い出そうとし
の知れない建造物の内部に自分
改めて、今の自
られなかった。それだけなら地上の砂丘と大差ないが、
感覚がした。一方で、壁の上を走っている光からは物体を焼くような
した。大蛇に襲われたトンガーソンであったが、自分がこうして
回廊を歩き始めた。金属で造られた床の感触が、足の裏に押し
るのか、より奥深くへ入りこんでいっているのかは定かでは無かったが
の流れだけが時間の流れというものを感じさせる。だが、先ほどまで地
が、前方に僅かな黄色い光の帯のようなものが視認できた
ようにして四角く奔っている壁に行き当たった。
調べた。他の壁と同じく、冷たい金属でできて
管のようなものに包まれており、直接空間に放たれている回
軽く小突いた。こつん、と、高い音が周囲に響
まだわからないが、ユスチィスの心中に、壁の向こう側
べていった。ふちには壁と壁の境目となる
したユスチィスは、両手を壁面に当て、力
途方に暮れるユスチィス。ふと、管の
度を増したかと思ったら、唐突にゆったりとした流れとなる。
向かって小さく移動した。続けざまに、面全体が右側に吸い込まれる
いた。内側に込められていた水滴が霧状となってユスチ
があり、暗い青みがかった壁と床の色彩が光によって浮かび上がっている。壁に
ど入れそうなほどの大きさの、棺
気化しかかった水滴が充満しており、凍てつい
すると、部屋の中央に安置され
ら伝わってきた光が物体に当たって反射し、ユスチィスの眼を突いた。ユスチ
体を見つめる。物体には多量の水滴が集
れた。この物体は何らかの容器であり、中に何かが収めれていることが察せられる。丁度、大人の旧鼠
を感じていた。好奇心が不安に勝り、それ以上物体へ接近することへ
で乾燥しきっていた空気の中にいたユスチィ
リ、と
音は天井の金属面の裏側から聞こえているらしく、何
ユスチィスは、背後の扉が閉
は焦った。ユスチィスの脳裏には、地上で自分とトンガ
引っ張った。しかし、扉は固く
剥がれ落ちた金属板が床に落ちているのが目に入った。そして、その
手から距離を取ろうと駆けだす。すぐに部屋の角に突き当たり、こち
対峙するユスチィスの思考は正気を失いかけていたが
ィスを見かねたそれは、
は、お前を、喰
異質な声。だが、それは旧鼠同士
こに、導いた
蛇が旧鼠の言語を話している。とても異常な光
ぼくをここに連
出た言葉
う、
じようとも、眼前にいるのは紛れもない旧鼠の天敵であり、相手
ここは。どうして、
に答えてくれるかどうかもわからず、それは己の
、その長い胴体を横たえたまま悠然と
の地下、だ。ワタシは、キミの助けが、欲
うと、重く大きな首をもたげ、冷
は、救えない。真実を、知る者も、少ない
ている言葉は理解できるが、伝えよ
スは尚も問
にいた仲間はどうした。お前だ
地上で、眠ってもらっている。まだ、
ちから何もかも奪っていく怪物。ぼくが何
とキミたちは、今更、和解できない。だからこそ
睨む。ユスチィスの背筋に悪寒が奔
従え。さもなくば、キ
―そう思うユスチィスであったが、下手なそぶ
て、キミは、キミたちの
棺を向いたまま、ユスチ
、開けろ。
こちらを見つめる大蛇の有無を言わさぬ気迫に
視線を感じながら、平たい鏡
ほどは気づかなかった正方
内側の境界線に手をかけ
蓋がひっくり返るような勢いで開き、内部にある、小指一つで動かせそうな
だ理解できなかったが、恐る恐る手で触れてみる
ちに、操作し易い
こえてきた。大蛇は再び黙す
かして良いものかと、心の中で自問した。もっとも、背後の大蛇に逆らえない自分の
い物体に指を添え、少し
て、ゆっくりとした動作で両端へと吸い込まれる
棺の下半分の境界線の上に張られた曇った透明な板が天
透明版の向こう側、棺の内部に横
身が獣毛で覆われている旧鼠とは全く異なる印象を受ける。それに
があり、大蛇の外殻とは違い、暖かい体
おり、露わになった肌との奇妙なコ
ないとはいえ、透明版の隔たりによって触ることができない
いない。ただ、冷たい空気に閉じ込められていて
、大蛇のような硬い皮膚があるわけでもない。ただ、そんな生き物が、ま
ィスは背後に大蛇が
ナカァ
にそう呟いた。そして、自分
考えてみたが、正体不明の生き物に寄せる自分の想いは本物で
れている。加えて、それにはとて
大蛇の方へ振り
…いつから
した少女であると疑わなかった。何故、旧鼠とは異なる生き物に
は大きな眼球を妖しく蠢か
にも、わ
ユスチィスの頭上にかざし、棺の中
シたちや、キミたちの……祖先の存在。その関連性。理解するよう
…先史文明人の
生きていけなかった。だから、幾つかの改造が、施されている。ワタシは
……
た。旧鼠の命を喰らい、住処を追う血も涙もない怪物として認識していた大蛇。その大蛇とこうして会話をしているだけでも異
貫している。不思議なことであったが、これが夢であるならば、追い求め
な気がした。ユスチィスは、あるいは錯覚だろ
ような気がしたが、透明板に遮られている為か
考、キミたちに、酷似している。ワタシでは、目覚めた
て上昇していく。首だけを残した姿勢で、大蛇
てきた。今度は、キミが
闇の奥へと遠ざか
えた。敵意がないと頭で理解したつもりでいても、元来の天
ユスチィス。その瞬間、ユ
瞳。はっきりと焦点の定まった視線でユ
を感じながら、少女と目を合わせた。旧鼠とは異なる風貌をして
ンナ
る者の名。ユスチィスはもう、自分がその
しながら開かれていった。内部を満たしていた凍てついた空
る。緊張し、息を
ても不思議なものを見る目で。それは、ユスチィスが初