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Elder Last Emblem

追放された令嬢、実は最強大富豪の娘でした

追放された令嬢、実は最強大富豪の娘でした

鈴菜すず
二十年以上、長谷川家の令嬢として何不自由なく生きてきた絵渡。だがある日、血のつながりはないと突きつけられ、本当の令嬢に陥れられ、養父母から家を追い出される。瞬く間に、街中の笑い者となった。 絵渡は背を向けて農民の両親の家へ戻ったが、次の瞬間、まさかの人物に見つかった。 それは――彼女の本当の父親であり、城一の大富豪だった。 兄たちはそれぞれの世界で頂点を極めた天才。 小柄な彼女を、家族は惜しみなく愛し守った。 しかしやがて知る――この妹は、ただの令嬢ではなかった。 伝説級ハッカーも、最高峰のレシピ開発者も、舞踊界のカリスマも――すべて彼女。 そして後日、出会ったとき―― 真の令嬢が嘲る。「あなたが舞踊大会?笑わせないで。 私は“天才舞踏少女”よ」 「悪いけど――私、その大会の審査員なの」 利己的な長谷川家は言う。「田舎で貧乏な両親と暮らしてなさい。毎日長谷川家を夢見るな!」 絵渡は一本の電話をかけた。すると長谷川家の取引先は全て切られた。 元カレがあざ笑う。 「もう俺に絡むな。俺の心にいるのは恋夏だけだ!」 だがその時、夜京で権勢を握る大物が現れ、強引に彼女を庇った。「俺の妻が、お前なんか眼中に入れるわけがないだろ?」
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僕が彼女と初めて出会ったのは、梅雨の走り、小雨まじりの午後だった。

 僕の所属する物理化学部の部室に彼女は一人でやって来た。誰かに呼ばれていると後輩に言われ、慌てて戸口に立つと、そこにはボサボサの長い前髪のすき間から、ギョロリとした黒目がちの瞳で俺を見上げる一風変わった女の子が立っていた。

 背はそれほど高くない。夏服に変わったばかりの制服からのぞく手足はとても細く、肌は随分と日焼けして浅黒い。とてもとても失礼な言い方になるけど、彼女を見て最初に連想したのは名古屋名物「鶏の手羽先唐揚げ」だった。

「あの」

 その瞬間、僕は思わず息を飲んだ。僕のへんてこな妄想を一瞬で振り払うほど、その声は涼やかだった。

「岸田先輩から紹介されて来ました」

「……ああ」

 なんとなく見えてきた。

 岸田先輩は学外で他校の生徒と組んでバンド活動もしている吹奏楽部の三年生(イケメン)だ。うちの部長(ブサメン)と同じクラスで妙に仲がよく、前に依頼されてバンドのMVを撮影したことがある。というか、部費獲得の手段として、本人の知らないうちに部長に売られたというか。

「岸田先輩、撮影のセンスがいいってすごくあなたのことを褒めてて、今度のことも手伝ってもらえないか聞いてこいって言われて……」

 その瞬間、扉の向こうに張り付いて僕らのやり取りに耳をそばだてていたらしい部員連中のため息が聞こえた。まさか告白でもされるとでも思ったのか?

(残念でした。こんなメガネの陰キャに誰が好き好んで……)

「うちの部、今年が創部四十周年なんです。それで、秋の定期演奏会の来場記念に会場で特典映像を配ることになりました」

「なるほど、それで?」

「はい、毎日の練習風景から、春の定期演奏会、そして今年の吹奏楽コンクール地区大会までのビデオクリップを――」

「僕に撮影しろと?」

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