契約妻を辞めたら、元夫が泣きついてきた
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、ゆっくりと浴槽から立ち上がった。何気な
温玉のようなぬくもりを宿していた。一点
熱が揺れていた。まるで春の池にたゆたう柔らかな
踏み入れた年齢かもしれない。けれど、彼女の
んて、おかしな話だ。まるで恨みがましく嘆く妻のように見えてしま
がら、いつものように右脚
ってケガをしている脚だったこ
いたせいで、血の巡りはとっくに悪くなっていた。感覚のなくなっ
ゃっ
何かをつかもうとしたが、空を切るば
うになったその瞬間――バス
かった。彼は一瞬きょとんとしたものの、すぐに表
た次の瞬間、宙に浮いていた。彼に抱き上
た彼女は、一瞬目を見開いたが、すぐに自分が裸であることを思い出
素顔の対面」がこんなかたちになるなんて――桜奈は恥ずかしさのあまり、つま先ま
はふっと唇の端を吊り上げた。「..
にこみ上げた。「さすがは藤沢社長、見飽きてるん
では言わないけれど、あの「板みたいな」高橋光凜に比べたら、圧倒的に優位なはず。前も後
つきだって、相手の目には映らない。心から想う人
ローブを無造作に引き寄せると、それを桜奈の身体
信じられないとでも言うように彼は言葉を続けた。「俺が忙しくて戻れないって、ちゃんと伝えたよな
が、また一気に燃え上がった。 彼はいつだってそう――自分に対して、ひ
とだった。それなのに、彼は心配のひとつもせず、まるで彼女がただ駄々をこねているだけのように
身体を捩りながら、怒りをにじま
ニールラップでぐるぐるに巻かれた足を見て、眉をひそめた。「…脚
なった。けれど、そこに笑いの色はなかっ
」に見えるんだ。関心を引けなかったからって、哀れっぽく仕掛け
は無表情のまま口を開いた。「ちょっとした美容の施
及することもなく、そのまま彼女を抱き上げて外へ
枚越しでも、熱を帯びた体温や盛り上が
わらせようと心に決めていた桜奈にと
、藤沢社長がこんな些細なことに関心を
の態度を見るのは初めてだったが、意外にも面白がっているようで
が滲んだ。「でも..私は一度も、自分があなたの妻だなんて思えたことはないわ。
ばにいたじゃない。私がどんなに助けを求めても
よ、急にそんな怒ることか? 午後ちょっと用事があって、電話に出られなかっただけだろ? 神崎桜奈
を止めた。調子に
んかじゃなかった。彼の目に映る彼女は、金のため
るだけの契約だった。なのに、彼女
た方が負け。その理屈が、
立てているだけかのように見えた。その瞬間、強
!」顔を背けたまま、桜奈
彼女を抱えたまま、ベッドの脇まで進むと
心臓がひやりと縮こまり、思
にまとったバスローブは頼りなく、少しでも動けばすぐにで
には、笑っているのかいないのか分からない、微かな弧を描いていた。「さっきは放せって言っ
瞳の奥は異様なほど澄んでいて、まるで星屑
光の中に、桜奈
は本当は誰よりも優しくて、誠実な人
高橋光凜に向けられたもの。桜奈
感じさせない声でそう吐き捨て、
はっとする。次の瞬間、下腹部に明確な感触が走った
の声が降ってきた。 「これ以上やら
桜奈は心の中
身で動く生き物。気持ちがなかろう
、彼を刺激しないように顔をそらし、
られなかった。 「見どころなんて、ないんじゃなかったの?それなのに..藤沢社長って
心で顔をしかめた。――敵を傷つけたつも
っと笑みを浮かべた。 「君は俺の妻だ。変えようのない事実なら、いっそ受け入れるのもアリだ