四十九冊の本、ただ一つの清算
“私の夫,彰人にはあるパターンがあった. 彼が浮気し,私がそれに気づくと,私の本棚には希少な古書が一冊増える. 四十九回の裏切りと,四十九回の高価な謝罪の品. それは取引だった.美しい物と引き換えに,私は沈黙を守る. だが,四十九回目が限界だった. 彼は,死にゆく父の手を握って交わした約束を破り,父の授賞式をすっぽかした. 高校時代の恋人,樹里のためにマンションを買うためだった. その嘘はあまりにもあっけらかんとしていて,不倫そのものよりも私の心を粉々に砕いた. そして彼は,彼女を私の母の追悼庭園に連れて行った. 母のベンチの隣に,彼女が飼っていた死んだ猫の記念碑を建てようとするのを,彼はただそばに立って見ていた. 私が二人を問い詰めたとき,彼は臆面もなく私に思いやりを求めてきた. 「少しは思いやりを持とう」と彼は言った. 母の記憶を冒涜する女への思いやり. 私が経験した流産という,神聖な悲しみを,汚らわしい秘密のように彼が漏らした女への思いやり. その時,私は悟った. これは単に心が傷ついたという話ではない. これは,私が彼と共に築き上げた嘘を,解体する物語なのだと. その夜,彼が眠っている間に,私は彼のスマートフォンに盗聴アプリを仕込んだ. 私は選挙プランナーだ.これより少ない情報で,いくつものキャリアを潰してきた. 五十冊目の本は,彼の謝罪にはならない. 私の,最後の声明になるのだ.”