CEOの彼の罠に落ちた
作者繁昌 空
ジャンル御曹司
CEOの彼の罠に落ちた
「もちろんそんなことあるわけないじゃない。じゃなかったらワタシ、こんなにピリピリしてないわよ!」
ローラのその言葉にホッとしたゾーイは、しぶしぶウィスキーを開けるとローラのグラスにワンショット分を注いだ。
「…。」 ゾーイをローラは無言で見つめていた。 ゾーイはそんなに意地悪な男性だっただろうか?
ローラはゾーイからボトルを奪うと、それぞれのグラスにウィスキーをなみなみと注いだ。
「ゾーイ、ワタシは言ったはずよ。酔うまで帰らないって。 でしょう?」
……
お酒が入り、2人の口が滑らかになってきた。 まるで、ローラが父親に内緒で飲みに行っていた頃に戻ったようだった。 酔いがまわり始めると、ローラとゾーイはだんだんと気が大きくなってきていた。
「ローラ…俺…明日、マイクんところに行って…アイツをぶん殴ってやる!」 酔って気は多少大きくはなっていたが、ゾーイはローラが何事もなかったかのように生活していることに安堵したものの、親友であるローラのためにマイクは復讐しなければならないと、心の底から思っているのだ。
「っていうか、オマエ、本当なのか? 気まぐれで結婚しちゃったとか? …どうしちゃったんだよ!」 ゾーイはなみなみに注がれたウィスキーのグラスを一気に空けてしまった。 飲めば飲むほど、ゾーイはウィスキーが美味しく感じていた。 こうしてずっと飲み続けいたいとまで思いはじめていたくらいに。
「またバカな真似をしやがったら…殴ってやる…。」 そんなことを言い出したゾーイを置いてローラはトイレに立った。 本当に酔いがまわったのか、ローラは、足元はフラフラ、ゲップもしながら、フラフラと千鳥足でトイレへ向かっていた。
「オイ!オマエ、目ぇついてんのか! 男子トイレと女子トイレを間違えるな!」 ローラは前に一度、酔っ払って男子トイレに入ってしまったことがあった。彼女が慌てるどころか、用を足していた男性2人のほうが慌てて出で行ってしまったということが。
ローラはゾーイに手を振ってあしらった。
ウィスキー1杯しか飲んでいない。そんな量は大したことはない。そんな酒量でトイレをまた間違えることなど起こる訳がないと思っていたからだ。 フラフラはしていたが、彼女は冷静さを保っていた。
トイレから出ると、ローラはパウダールームで顔を洗い気分をスッキリさせた。
スッキリした気分で、フラフラした足取りで席に戻るローラ。だが、段差がハッキリと見えず、躓いて身体がよろめいた。
「うわっっ!」 ―やばい!転ぶ!― ーお願い!ー ー顔にだけは傷つきたくない!―
一瞬のことがスローモーションに思えたローラ。
転んだはずが、痛みを感じていない。 ―よかった― 隣の誰かに支えられていた。
「ありが...。」 そこまででローラは口を閉ざし、瞬時に敵意をむき出しにした。
「ローラ…ローラかい?」 足元がおぼつかないほど酔って転んだ女性がローラだったということに、受け止めたマイクの方が驚いた。
一瞬で酔いがさめるどころか、憎しみでいっぱいになったローラはマイクの手をバッと激しく振り払った。 「ワタシの名を口にするな! ヘドがでる!」 ローラは何事もなかったようにスッと行こうとしたが、マイクはそう簡単に行かせてなるものかと腹に一物抱えていた。
「ローラ、待って。ローラ、聞いてくれ! ローラ…言い訳に聞こえるかもしれないが、説明させてほしいんだ。」 ローラはすぐ落ちる女、と高を括っているマイクは、ローラを呼び止めているあいだに、ローラとよりを戻す作戦を練っていた。もちろん騙すために。
ローラは、頭は冴えているが酔いがまわって足元がおぼつかない今、ここで揉め事を起こす事は自分側に不利だということは自覚していた。 ローラはマイクを追い払おうとしていた。 が、しかし、マイクは彼女の手首をしっかりと掴んだ。
「離して、マイク!」 ローラは怒りを匂わす張りのある声で言い放ったが、かなり強いめまいが襲ってきていた。
「ローラ、僕はこの手を離さないよ。 サラとの婚約はお父さんが決めたものなんだ。 僕が愛しているのはローラ、君だけだよ。 お願いだ!もう1度やりなおそう! 結婚以外、君が望むものは何でもあげる、買ってあげるから!」 そこまで言ったマイクはローラの指に輝くダイヤモンドに気が付いた。
マイクの目つきが一瞬にして変わった。目の奥に恨みが見える。
「マイク…ワタシ、知らなかったわ。ここまであなたが人でなしだとは! …結婚以外ですって? それって、ワタシにあなたの愛人になれって言ってるの?」 そう言い終わるか、ローラは大きく右手をあげたかと思うとそれを思いっきり振り下ろし、 マイクの左頬を思いっきり引っ叩いた。