追放された令嬢、実は最強大富豪の娘でした

追放された令嬢、実は最強大富豪の娘でした

鈴菜すず

都市 | 1  チャプター/日
5.0
コメント
クリック
31

二十年以上、長谷川家の令嬢として何不自由なく生きてきた絵渡。だがある日、血のつながりはないと突きつけられ、本当の令嬢に陥れられ、養父母から家を追い出される。瞬く間に、街中の笑い者となった。 絵渡は背を向けて農民の両親の家へ戻ったが、次の瞬間、まさかの人物に見つかった。 それは――彼女の本当の父親であり、城一の大富豪だった。 兄たちはそれぞれの世界で頂点を極めた天才。 小柄な彼女を、家族は惜しみなく愛し守った。 しかしやがて知る――この妹は、ただの令嬢ではなかった。 伝説級ハッカーも、最高峰のレシピ開発者も、舞踊界のカリスマも――すべて彼女。 そして後日、出会ったとき―― 真の令嬢が嘲る。「あなたが舞踊大会?笑わせないで。 私は“天才舞踏少女”よ」 「悪いけど――私、その大会の審査員なの」 利己的な長谷川家は言う。「田舎で貧乏な両親と暮らしてなさい。毎日長谷川家を夢見るな!」 絵渡は一本の電話をかけた。すると長谷川家の取引先は全て切られた。 元カレがあざ笑う。 「もう俺に絡むな。俺の心にいるのは恋夏だけだ!」 だがその時、夜京で権勢を握る大物が現れ、強引に彼女を庇った。「俺の妻が、お前なんか眼中に入れるわけがないだろ?」

チャプター 1 追い出される

「絵渡、長年うちで育ててきたのに……よくもこんな裏切りができたわね。もううちには置いておけない。出ていきなさい!」

目の前に立つ長谷川夫人は、品のある装いの裏にあからさまな嫌悪をにじませながら、絵渡を睨みつけていた。

「お母さん、違うの……私が階段から落ちたのは、自分の不注意のせいなの。お姉ちゃんは関係ないわ!」

ソファに座る少女が涙ぐみながら訴えた。膝には包帯が巻かれ、どこか儚げなその姿は、見る者の同情を誘う。

ほんの三十分前、長谷川家の本当の娘――恋夏は二階から階段を転げ落ちた。その場にいたのは絵渡ひとり。

誰もが彼女の仕業だと決めつけた。

一週間前、記者会見で「家族同然」と涙を見せていた長谷川家の人々は、今やまるで人が変わったように絵渡を責め立てている。

絵渡は俯いたまま、目の奥に嘲りの光を浮かべた。

――ついこのあいだまで、彼女は長谷川家の「たったひとりの娘」だった。 寵愛はされていなかったが、少なくとも衣食住に困ることはなかった。

だが、ある日、長谷川会長が倒れ、輸血が必要になったことで事態は一変する。家族全員が血液型の検査を受けた結果、絵渡は長谷川家の血を引いていないことが判明したのだ。 驚愕と混乱の中、長谷川会長はすぐにあらゆる人脈を使って真相を突き止め、本物の娘――恋夏を見つけ出した。

快川城でも名の知れた名家、長谷川家。だからこそ、あの騒動のことは瞬く間に広まった。もっとも、長谷川家は昔から世間体を気にする家だ。外にはこう言っていた――「これまで育ててきた娘ですから、すぐに手放すことなどできません。絵渡は、しばらくうちの娘として育てていきますよ」と。

だが実際のところは、世間の耳目が落ち着いた頃合いを見て、彼女をひっそりと元の家に戻すつもりだった。

本当の娘――恋夏が戻ってきてからは、長谷川家の空気は一変した。絵渡の存在こそが、恋夏をこれまで苦しめてきた元凶だと決めつけられたのだ。それ以来、絵渡はかつての自室を追われ、物置部屋に押し込まれた。

家事全般を一手に引き受けさせられ、掃除に洗濯、食事の支度まで。今では、使用人よりも扱いが悪い。

それでも恋夏は、絵渡の存在すら我慢ならなかった。

ここ数日、何度も罠を仕掛けては彼女を陥れようとした。

だが長谷川会長夫妻は、それを見て見ぬふり。どころか、絵渡に対する態度は日に日に冷たさを増していた。

絵渡は、この機に長谷川家の本性をはっきりと見極めた。もう黙って耐えるつもりはない。

顔を上げ、恋夏をまっすぐに見据える。「出ていくわ。でも、なにも知らないまま追い出されるなんてまっぴら。これまでずっと、あなたの代わりに汚名をかぶり続けてきたの。もう十分でしょ、恋夏!」

その鋭く冷ややかな眼差しに、恋夏の背筋がぞくりと震えた。

これがあの、いつも耐えてばかりいた絵渡……?

目の奥に、ねっとりとした陰が差す。

(この女……!)

真の長谷川家の娘は自分なのに、どうしてこいつが長谷川家の栄華を享受しているのか。

絶対にこの偽物を追い出してやるんだから。

恋夏は、何食わぬ顔でか細く訴えた。「お姉ちゃん、なに言ってるのか分からない……。 私、お姉ちゃんに嫌われてるのは知ってるよ。だって、私が戻ってきてから、パパとママの愛情を奪っちゃったみたいで……だから今までずっと我慢してきたの。でも、私の脚……。 ダンスが大好きなの、知ってたよね?どうしてそんなことを……。お姉ちゃんも踊るのが好きだったなら、無理に大会の枠を奪ったりしなかったのに……」

つまり、絵渡が自分を傷つけたのは、全国ダンス協会の大会出場枠を巡ってのことだ――そう言いたいのだった。

その言葉に、長谷川夫人の目にはますます嫌悪がにじむ。「恋夏、あなたには天から授かった才能があるのよ。あんな子とは比べものにならない。 大会の枠なんて、最初からあなたのものじゃないの!それに――絵渡、荷物をまとめて、今すぐ出ていきなさい!」

(絵渡って子は……まるで死人みたいな顔して、一体誰に見せてるのかしらね)

(やっぱり恋夏の方がずっといいわ。性格は素直で聞き分けもいいし、ダンスの才能だって申し分ない。これこそ私たちの娘よ)

黙って話を聞いていた長谷川会長が、深いため息をついた。そして静かに口を開く。「絵渡、元々は世間の目が落ち着いてから改めて送るつもりだったんだが……まさか恋夏にあんな悪意を向けるとは思わなかったよ。 今日、もう連れて行くことにした」

恋夏はその言葉を聞くと、目を輝かせて喜びをあらわにした。

だが絵渡は、表情ひとつ変えずにその場を離れ、荷物をまとめに向かった。

なかなか降りてこない彼女に、恋夏は不安を覗かせる。「まさか、全部持ってくつもりじゃないでしょうね……」

ここは長谷川家。すべて自分のものだ。偽物に好き勝手されてたまるものか。

そんなとき、ちょうど絵渡が階下に現れた。彼女の背には黒いバッグひとつ。それだけで、もともと透き通るように白い肌がさらに際立ち、視線を向けるだけで、くっきりとした黒と白の対比が目を射抜く。その眼差しに射すくめられ、長谷川会長はとっさに視線を逸らした。なぜか胸の奥がざわつく。

そんな様子をよそに、長谷川夫人は眉をひそめた。(……少なすぎじゃない?) 「何を持っていくつもりなのかしら、ちょっと見せてくれる?」

「もういいわ、持っていかせなさい」長谷川会長が制した。仮にカードを持って行っても、自分が渡したものは一枚だけ、それもせいぜい200万円程度だ。

だが絵渡は無言のまま、バッグをテーブルに置き、きっぱりと言い放った。「どうぞ、調べて」

「どうせ、何か高価な物でも……」長谷川夫人は鼻で笑いながらバッグを開けたが、目に入ったのは、ノート一冊、数粒の種、そして少しばかりの現金だけだった。 カードさえ一枚も持っていっていない。悔しさと恥ずかしさをごまかすように、背筋を正して言う。「……運転手に送らせるわ」

長谷川会長は面白くなさそうに目を細め、カードを一枚差し出した。「絵渡、家に戻ったらご両親の言うことをよく聞くんだ。あの人たちは田舎で農業をしているけど、素朴で誠実な人たちだ。しっかり支えてやりなさい」

絵渡は、整った眉目を微動だにさせず、そのカードをきっぱりと断った。「人にはそれぞれの運命があります。けれど私は、曖昧なまま去るつもりはありません。恋夏、あなたはどうやって階段を下りたのか――これが最後の機会。自分で説明しなさい」

恋夏が最も嫌っているのは、どんな時でも揺らがないこの女の態度だった。まるで、生まれつき自分より高みにいるとでも言わんばかりに。

偽の令嬢のくせに。

ただの農民の娘のくせに!

「お姉ちゃん、どういう意味よ?まさか自分で落ちたって言いたいわけ? これは、私の脚よ?一番大事にしてる脚なのよ?もし本当にケガでもしたら、これからどうやって踊るのよ!」恋夏は声を張り上げて泣き出し、「うっ」と母親の胸にすがりついた。

「ガシャン!」

突然、花瓶がひとつ、鋭く彼女のすぐそばに叩きつけられた。その音に驚いた恋夏は、反射的に立ち上がってしまう。

その瞬間――部屋の全員が固まった。長谷川夫人も、長谷川会長も、目を見開いて彼女を見ていた。

……ケガして立てないんじゃなかったのか?ついさっきまで、寝たきりだって言ってたのに。

続きを見る

おすすめ

すぐ読みます
本をダウンロード
追放された令嬢、実は最強大富豪の娘でした
1

チャプター 1 追い出される

12/08/2025

2

チャプター 2 城一の大富豪

12/08/2025

3

チャプター 3 本家に戻る

12/08/2025

4

チャプター 4 彼女の三番目の兄

12/08/2025

5

チャプター 5 一攫千金の両親

12/08/2025

6

チャプター 6 横柄な長谷川夫人

12/08/2025

7

チャプター 7 ショッピングモールから叩き出される

12/08/2025

8

チャプター 8 提携解消

12/08/2025

9

チャプター 9 妹想いの三男

12/08/2025

10

チャプター 10 全国ダンス協会

12/08/2025

11

チャプター 11 彼女への特別な態度

12/08/2025

12

チャプター 12 好きな人としか結婚しない

12/08/2025

13

チャプター 13 全国ダンス大会の審査員への招待

12/08/2025

14

チャプター 14 功績の横取り

12/08/2025

15

チャプター 15 彼女は盗んでいない

12/08/2025

16

チャプター 16 映像修復

12/08/2025

17

チャプター 17 婚約者の件はどうなった?

12/08/2025

18

チャプター 18 わざわざ尾けてきた

12/08/2025

19

チャプター 19 レストランから追い出される

12/08/2025

20

チャプター 20 他の男なんかに取られてたまるか

12/08/2025

21

チャプター 21 変なことを聞かれた

12/08/2025

22

チャプター 22 長谷川恋夏の悪意

12/08/2025

23

チャプター 23 彼女は審査員

12/08/2025

24

チャプター 24 正体をさらす

12/08/2025

25

チャプター 25 恋夏、嘲笑される

12/08/2025

26

チャプター 26 東湊正兎のお迎え

12/08/2025

27

チャプター 27 彼の優しさ

12/08/2025

28

第28章この子、最近様子がおかしい

13/08/2025

29

第29章叔母の非難

14/08/2025

30

第30章親族顔合わせの会

今日00:02

31

第31章あのドレスを注文したのは正兎だった

16/08/2025