夜遅く、街灯も少ない町の中、急ブレーキの甲高い音が響いた。
その音を聞いて駆けつける人もいなければ、何事だろうと窓を開ける人すらいない。
あまり大きな音ではなかったからと言うよりも、それに気づく人がいないくらい遅い時間だったのだ。
住宅街の一角に、一台のトラックが止まっていた。
五十代半ばの運転手は、顔をしかめていた。
最初はコンビニの袋か何かだと思っていたのだ。だが近づいてみて、取り返しのつかない距離に入って、初めてそれがゴミではなく生きた猫であることに気づいた。
運転手は猫が得物を狩る時にどれほどの瞬発力と正確性を持つかを、動画サイトで見て知っていた。
だが、突然車道に飛び込んできた猫は、じっとこちらを見つめて動かなかった。蛇に睨まれたカエルのように。
そして、ぐしゃりと、毛が逆立つような揺れを感じた。
トラックを降りて、確認するまでもなかった。
彼は深くため息をついた。
確かに、健康状態はお世辞にもいいとは言えない状況ではあった。
思い返せばほぼ二十四時間運転し続けている。食事もまともなものは食べていない。
車を運転するには最悪の条件だろうし、これが猫ではなく人間であった可能性は十分あった。
だが、だからこそ、彼は少しほっとしていた。
轢いたのが、人間ではなく猫でよかった、と。
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