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~八歳の王女~不死鳥のごとく甦る

~八歳の王女~不死鳥のごとく甦る

相山 真砂美

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前世では最も気高き嫡流皇女だった彼女は、父の寵愛、「母」の溺愛、姉の愛護と夫の行き届いた心遣いを一身に集め、慢心で傲慢な性格になっていた。  しかしやがて姉と夫の浮気現場と、篤い病に苦しむ息子を夫に投げ殺される姿を目の当たりにして初めて、彼女はこれらが「母」の綿密に仕込んだ計画だと悟り、そして裏切りと毒入りワインの一杯で、すべてを失い、晴れぬ恨みを持ってしんでいった。  次に目覚める時八歳の皇女に生まれた彼女は、その幼い体の中に誰よりも用心深く狡猾な心を秘めていた。  鳳凰が涅槃に入り、火を浴びて生まれ変わるように、彼女も自分が浴びせられた痛みを、敵に千倍をもって返そうと、この二度目の人生で、絶対自分の世に冠絶するほどの美貌と権謀術数を駆使して国をわが手に収め、前世で自分を裏切った淫男乱女を踏み潰すと決心した。  一方、よそ者でありながらも大国ーー寧の国の親王として数々の戦功をあげ、斉国の徐公にも劣らぬ美男子と言われた彼は、もはやこの世に自分に相応しい女はいまいと思っていたが、彼女の出現がすべてを覆した。  なぜ彼ほどの男も、この如何にも無邪気で無害そうな嫡流お姫様の言いなりになってしまうのだろう。

第1章一巻

寧国の帝国都市にある王女の邸宅の一番高い楼閣の前で、ある女性が跪いていた。 まるで夜の寒さや、無情にも降り注ぐ霧雨にも感じなかったようで、ずっと跪いていた。

この女性はシルクのような黒髪を持って、とても美しかったが、その顔が青白くて、 目が虚ろだった。 産まれたばかりの男児を腕に抱き、 一つ一つの呼吸がまるでこの男児の最後の息のような浅い呼吸と、 顔を覆っている青あざを気に掛けていた。

「帰ってください、ユンシャン王女。 駙馬(ふば:皇帝の婿、王女の夫)はあなたに会わないと言っています」 楼閣の入り口を警護しているリアンシンは、 ユンシャンが幼い頃から信頼している女官だった。

ユンシャンの心が崩れ落ると同時にどす黒い雲に覆われていた空に雷が響き渡り雨が激しく降り始め、彼女とその周り一帯をずぶ濡れにした。 彼女は歯を食いしばり、マントを引き寄せ、 赤ん坊が濡れないように覆いかぶせた。 いつからだったろうか? 信頼する人がみな彼女を裏切り始めたのは、いつからだっただろう? ユンシャンは放心状態で考えていた。

おそらく涙は枯れてしまったのだろう。 彼女の顔には涙のあとも無く、 数えきれないほど身を切る様な思いをしてたが、今、これまでに感じた事も無いほどの苦痛を感じているのに、涙すら出なかった。

ユンシャンはリアンシンの前で三回、叩頭の礼をした。「リアンシン。あなたは長年私に仕えてくれましたが、 私はあなたをずっと大切にしていたでしょう。 だから、お願い。 私を駙馬に会わせてください。私はただ子供の為に医師を呼ぶように頼みたいだけなの。 この子も彼の子でしょう...」 彼女はかすれ声で懇願した。

「王女様、私に訴えられても何も出来ません。 駙馬は、誰も入れるなと命令されております...」 リアンシンは軒下に立ち、目の前で跪いている女性に言った。 王女様ってそんなもんだ。 彼女は冷ややかな笑みを浮かべていた。

ユンシャンは赤ん坊の冷たい手を自分の手で温め、 心の中では苦しみと怒りが頂点に達した。突然、彼女が立ち上がり、 リアンシンに向かって駆け出していった。 リアンシンは突然の事に驚き身構えたが、 勢いよく向かってきた王女の体当たりに耐えれず、 「ああ~」と叫び、倒れこんでしまった。 その間にユンシャンは楼閣のドアを開け、上階に駆け上がって行った。

「ああ、待て、待ちなさい。 上階へ行くことは許されていません!」 リアンシンは体の痛みに顔を顰め、 王女の後姿に向かって叫んだ。 「上に行って、何が出来るっていうの? 駙馬とホアジン王女があなたの子供の為に医師を呼ぶとでも思っているの?」

ユンシャンは階段を駆け上がり、 最後の踊り場に足を踏み入れた瞬間、ホアジンの喘ぐような声を耳にした。「はぁぁ」 「ああぁぁぁ… そこは触らないで… あああぁ… ジンラン…」

ユンシャンは眩暈がし、 手に力が入らず赤ん坊を落としてしまいそうになったが、 木製の手すりに寄りかかり自分を支えた。

やっとの事で落ち着きを取り戻し、最後の段を駆け上がって行き、 歯を食いしばって、肘からドアに体当たりした。

「誰だ?」 男のあえぎ声が石の壁にこだましており、 ユンシャンは、そこに裸で絡み合っている男女の姿を見て、思わず後ずさりした。

「出て行け!」 ユンシャンが戸口に立っているのを見て、モー・ジンランは激怒した。

ユンシャンは何か言おうと口を開いたが言葉にならず、 息を整えて囁くように話し始めた。「フアンエルの具合が悪いんです。 駙馬、お願いですから医師を連れて来てください」

「はぁ?」 ジンランは彼女が言った事を考えていたが、 彼女の懇願に耳を貸さず叱責しようとしていたその時、彼の下で横たわっている女性が彼の胸をふざけて愛撫し始め、 悪意のこもった笑みを浮かべ、話し始めた。 「ジンラン、妹が私たちを見ていたいのなら、見せてあげましょうよ。 椅子に縛り付けて、私たちが楽しんでいる所を見てもらえばいいわ」

ジンランの口元に冷ややかな微笑みが浮かんだ。 彼はベッドを出てロープを手にし、 「フアンエルを机の上に置くんだ。 お前が見終わったら、医師を呼ぶ」とニヤついて言った。

ユンシャンはためらったが、 選択肢がないことを分かっており、無気力に頷いた。 この王女の邸宅では、誰も彼女を助けてくれる人はいなかった。 彼女は赤ん坊を机の上に置き、ベッドの脇にある椅子に座ると、 ジンランが彼女を椅子に縛り上げた。

彼がベッドに戻ると、裸体の女性が彼の腰に足を絡ませ、 つま先は彼の背中を優しく愛撫し始めると、 彼の目が欲望で燃え、彼女の中力強く押入って行くと、 彼女は快楽でうめき声をあげた。

その女性はユンシャンを見て、 魔性の微笑みを浮かべた。「見てよ、私の妹。 お姉さんがどうやって手と足で男に仕えるのかを教えてあげるわ」

ジンランは、さらに激しく突き進め続ける前に、叫びながら大笑いした。

その瞬間、男女の喘ぎ声が部屋中に響き渡り始めた。

ユンシャンは心が少しずつ刻まれていうように感じて呆然としており、 心に付けられていく傷の音が聞こえるかのようだった。

この男は私が選んだ夫なのに私を裏切り、ずっと尊敬していた王女でもある姉さえ、私の心を切り裂くように彼との色事に耽っているのだ。

線香一本が灰になる程の時間が過ぎていた。 ユンシャンはますます青白くなり目の輝きも無くなった机の上にいる 赤ん坊を見て、 不安でたまらなくなり、 涙を流し懇願した。「お願い。駙馬、お姉さん。 私の子供を救ってください。 お願いします、死にそうなんです...」

「うっとうしいな。 なぜそんなに騒ぐんだ?」 ジンランは彼女に向かって叫び、ベッドから飛び降りて、 彼女に歩み寄る途中で立ち止まり、机の上に置かれた赤ん坊を覗き込んだ。「死にそうだと? 死に掛けているのなら、 なぜここに連れて来たんだ?」

そう言い終えると、彼は赤ん坊を抱きかかえ、窓を開け外に投げ出した。

「だめ... いやぁぁぁぁぁ!」 ユンシャンはあまりのショックに椅子に縛り付けられている事も忘れて、 勢いよく立ち上がり窓に駆け寄ろうとしたが、 そのまま椅子ごと床に倒れてしまった。

「赤ちゃん... 私の赤ちゃん... あああぁぁぁぁ!」 床に倒れた衝撃で全身に痛みが走っていたが、彼女はその痛みにも動じず叫んでおり、 彼女の叫びを聞いた人たちはそのあまりに悲痛な叫びから、彼女の深い悲しみを感じられるほどだった。

足音が近づくのを聞き、ユンシャンは顔を上げた。 王女である姉が 剣を手に近づいて来ており、 姉に剣を顔に突き付けられた彼女は、深いため息を付いた。 「なんてこと! 私ったら、今日

は一体どうしたのかしら? あなたの花のように美しく繊細な 顔に傷をつけたらどんな感じになるのか知りたいわ」

ユンシャンはとても動揺していた。 馬鹿にしたような目つきで見下しているホアジンに、彼女は嘆願した。  「私の顔に何をしても構わないわ。でも殺さないで」 彼女の声はカラスの声のようにかすれていた。

ホアジンが目を輝かせて剣を振り上げ、 剣先がユンシャンの顔を横切った瞬間、 彼女の顔に燃えるような痛みが走った。 その痛みと共に彼女の心には鎮めることの出来ない憎しみが芽生えたが、 赤ん坊の事を考え、 ここから逃げだすためにはどう脅したらいいのかを歯を食いしばり考えていた。

ホアジンはこの憂さ晴らしに飽きたらしく、「涙すら見せないのね。 つまらないわ!」と言い放ち、 ユンシャンを縛っていたロープを切り、ベッドに戻って行った。

酷い足の痛みにも関わらず、ユンシャンはドアに向かって走り出したが、 足を取られ、階段を転げ落ちて行った。 楼閣の下まで落ちて行った彼女は大けがをしているのにも構わず立ち上がり、外に駆け出した。

彼女の子供は、 頭から血を流し、 静かに横たわっており、 地面に滴り落ちた血は、降りしきる雨に素早く洗い流されていった。 ユンシャンは赤ん坊を優しく抱きかかえ、話しかけた。 「大丈夫。 大丈夫よ。 私の可愛いフアンエルは元気よ。 ママが太医(たいい:皇帝に仕える医者)の所に連れていってあげるわ。 ほら、見て。 今からあそこに連れて行ってあげるわ。 私の可愛いフアンエルはきっと元気になるわ...」 赤ん坊を抱きかかえた彼女は、大急ぎで中庭から駆け出して行った。

「本当に太医に会いに行くつもりなのか?」 窓際に立っていたジンランは、心配そうにユンシャンが立ち去るのを見ていた。

柔らかく暖かい体が彼に寄りかかって来た。 「心配しないで、ジンラン。 あなたはすでに王女の邸宅を支配下に置いているのよ。そうでしょ? 彼女は去ることができないわ。 皇宮(こうぐう:皇帝、皇后、未成年の王女、皇子および彼らに仕える人などが住んでいる場所)に入る事が出来ても父上は皇宮にはいないから、彼女は助けを乞えるのは皇后しかないのよ。 それに、皇后は私の母であり、 彼女の母親ではないわ」

ジンランは振り返り、彼女を抱きかかえ、 ベッドに運んだ。

「あはは…」 ホアジンがなまめかしい口調で言った。「ジンラン、あなたって悪い人ね...」

「皇后様、ユンシャン王女が血まみれで、 尋ねて来ています…」 女官が慌てて内室に駆け込んできた時、その優美な貴族の女性は銅鏡の前に座り、かんざしを選んでいた。

皇后は、不可解な表情で聞いた。「ジンガー(ホアジンの愛称)が、ユンシャンを邸宅で軟禁していると言っていなかったの?

どうしたら、私の宮殿にやって来ることが出来るのかしら?」

皇后が話していると、ユンシャンのすすり泣く声が聞こえてきた。 「母上、母上、フアンエルを救ってください。 お願いします。フアンエルを助けてください」

皇后が声の聞こえてくる方を振り向くと、ずぶ濡れになった女性が部屋に駆け込んでくるのが見え、 その顔には骨が見えるほどの、 酷く深い傷があった。 その女性はマントを剥ぎ取り、すでに息を引き取っている赤ん坊を見せた。 その赤ん坊から流れ落ちる血が辺り一面に広がって行った。

皇后はユンシャンを不満そうに見つめた。 「何を救いたいの? その赤ん坊はもう手遅れよ」

「いや、母上。 フアンエルは生きています。 お願いですから、彼を救ってください。 母上、フアンエルを救うために太医を呼んでください。お願いです」 彼女は、皇后の前で跪き、叩頭し始めた。

皇后は、ドアの所で待っている女官に合図をした。 「シュシン、太医を呼びに行って。 そして、他の誰かにユンシャン王女にお酒を持ってくるように言ってください。 体を温めた方がいいわ」

その女官は急いで立ち去って行き、 お酒を手にすぐ戻って来た。 皇后はこの若い王女に優しく話しかけた。「さぁ、座って、ユンシャン。 太医を呼びに人を送ったから。 先にお酒を飲んで、体を温めなさい。 フアンエルの看病をしなければならないでしょう。 体調を崩したら大変な事になるわよ」

ユンシャンは頷きながら座り、 独り言を言っていた。「そうだわ。 体調を壊してはいけないわ。 私が病気になったら、フアンエルの面倒を見る人がいなくなるわ。誰も助けて…」 そう言うと、血まみれの手で、お酒が入っているグラスを持ち、 顔を上げてその液体を飲み干した。

皇后は恐ろしい笑みを浮かべていた。「いい子だわ。 私が一番嫌いなのはね、私の褄梧宮(チーウーグー)を汚す人々なのよ。 死んだ子供をここに連れてくるなんて… なんと縁起が悪いでしょう…」

ユンシャンは驚き、 皇后の突然の口調の変化に混乱した。 何が起っているのかに気付く間もなく、突然、彼女の腹に激痛が走った。 それは立っていられないほど、鋭い痛みだった。

「皇后、 薬がよく効いているようですね」 横から聞こえてくるその柔らかな声に ユンシャンはショックを受けた。 その聞き覚えがある声は 皇后に仕えているシュシンの声だと分かったのだ。

「母上…」 ユンシャンは絶望的な表情をした。「母上…なぜ?」

「私はあなたの母親ではないわ。 あなたの母親は随分と前に亡くなっているのよ」 皇后のその言葉はとても冷ややかで、ユンシャンを恐怖に陥れた。 「あなたを苦しませたかったから、殺すつもりはなかったのよ。 しかし、あなたはこの褄梧宮を汚してしまった。残念だわ」

ユンシャンは皇后の言葉を聞き、狂ったように笑い始めた。 腹部の強烈な痛みにも関わらず、彼女は呻くように話し始めた。 「確かに私は、世界で最も愚かな女だわ。 私はあなたと、ホアジン、そしてモー・ジンランを信用していたけど、 信頼していた人たちに、まさかこのように扱われるとは思ってもみなかったわ。 あなたはなんて邪悪なのでしょう...」 そして彼女は苦笑いした。 「私、ニン・ユンシャンは死んでもあなたを許さない。 決してあなたを許すことはしない」

彼女は血を吐き出し、床に倒れこんだ。「もし来世があるのなら、必ずあなた達を見つけ出すわ。 必ず復讐してやる。復讐を…」 彼女は息絶えるまで、しっかりと赤ん坊を抱きかかえていた。

女官がユンシャンの呼吸を確認し、 息をしていないことを確かめ、言った。「死んでおります、皇后」

皇后は高らかに笑いながら銅鏡を見て、 不死鳥のかんざしを手にして髪に挿し、 鏡に写し出された不死鳥のかんざしを見た。 「死んだのね。 彼女の死体は西の森に運んで、 犬の餌にでもしておしまい…」

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