裏切られた妻は、高嶺の花となる

裏切られた妻は、高嶺の花となる

平野 真琴

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五年前、彼を救うために彼女は腹部に刃を受け、その後子を授かることができなくなった。 かつて「一生子どもはいらない」と言っていた彼は、結局「代理出産」に心を傾けるようになり、彼が選んだ相手は彼女に酷似した女子大生だった。 彼は知らなかった――その願いを口にした最初の日、彼女はすでに彼のもとを去る決意を固めていたのだ。

第1章凍てついた誓い

五年前、裴寂を庇って腹部を刺されたあの日から、桑晩の人生は大きく変わってしまった。子供を産めない身体になったのだ。

かつて「子供なんて一生いらない」と言っていた裴寂が、結局は「代理出産」という考えに心を動かされた。そして彼が選んだのは、桑晩にどこか面影が似ている女子大生、蘇雪だった。

裴寂は知らない。彼がその要求を口にした最初の日から、桑晩が彼のもとを去る決意を固めていたことなど。

「晩、おばあちゃんが生きてるうちに曾孫の顔を見たいと願っているんだ。今、あの方はICUに……小雪が、僕たちに協力してくれると言ってくれた」

その日を境に、蘇雪が二人の家に住み着いた。

深夜、裴寂と蘇雪の情事を初めて目撃してしまった。

客間のドアに、わずかな隙間があった。桑晩がドアのそばに立つと、絡み合う二つの影がはっきりと見えた。

「阿寂兄さん、怖い……私、嫌われたりしない? 晚晩姉さんには、やっぱり敵わないのかな?」

「バカだな、君は純粋で、とても好きだよ」 裴寂の声は、とろけるように甘かった。「晩晩は、ベッドの上じゃまるで人形だからな……」

情欲に濡れた夫の横顔を見つめるうち、桑晩の胸に突き刺すような鋭い痛みが走った。

(ベッドで堅物だって、ずっとそう思っていたの?)

けれど、かつての彼は「恥じらう君が一番好きだ」と言ってくれたはずなのに。

涙がとめどなく頬を伝う。桑晩は壁に身を寄せ、夜が明けるまで泣き続けた。

一晩で、三度。それが彼らが交わった回数だった。

翌朝、裴寂は目の周りを真っ赤に腫らした桑晩の姿に気づいた。

彼は罪悪感からか、彼女を抱きしめて謝罪の言葉を口にした。「晩晩、おばあちゃんからの催促が厳しくて、どうしようもなかったんだ。もう少しだけ耐えてくれ。 彼女が妊娠したら、もう二度と指一本触れないから」

しかし、それからも二人が体を重ねる回数は増える一方だった。書斎で、リビングのソファで、バルコニーで……桑晩は何度もその光景を目にした。

真夜中に、裴寂がそっとベッドを抜け出し、「蘇雪の様子を見てくる」と言って部屋を出ていくことさえあった。

彼が戻ってくるのは、いつも二時間後。その首筋は、無数のキスマークで埋め尽くされていた。

桑晩が潤んだ瞳で彼を見つめると、彼は決まって言い訳を始めるのだった。「晩晩、もうすぐだから。彼女はただの容れ物にすぎない。愛したりしない。僕が愛しているのは君と、彼女のお腹にいる僕たちの子だけだ。それだけだよ」

蘇雪の妊娠が発覚した日、裴寂はリビングで彼女を抱き上げ、くるくると回った。「やっと父親になれる!ありがとう、小雪。君は天が遣わしてくれた天使だ」

その日から、裴寂の世界は蘇雪を中心に回り始めた。

桑晩の誕生日には、蘇雪の検診に付き添うと言って帰ってこなかった。

桑晩が四十度の高熱を出して側にいてほしいと願っても、彼は蘇雪が食べたがっているアイスクリームを買いに、夜の街へ飛び出していった。

そして、二人の結婚記念日さえも、彼は跡形もなく忘れてしまった。

裴寂の寵愛を傘に着て、蘇雪は桑晩のネグリジェを身につけ、彼女専用のカップを平気で使うようになった。

あろうことか、桑晩の前で裴寂に甘えた声でこう言った。「阿寂兄さん、やっぱり晩晩姉さんの物って、使い心地がいいわ」

桑晩は胸に込み上げる怒りを押し殺し、裴寂を問い詰めた。「あなた、何も言わないの?」

「小雪は妊娠しているんだ。晩、君はそんな心の狭い人間じゃないだろう」 そう言うと、裴寂は愛おしそうに蘇雪の髪を撫でた。「気に入ったなら、どんどん使うといい」

その瞬間、桑晩は悟った。もう、ここを去る時が来たと。

裴寂が蘇雪を産婦人科検診に連れて行った日、桑晩は二つのことを実行に移した。

一つ目。五年前に彼に署名させておいた離婚協議書を手に、役所へ向かった。

二つ目。海外にいる兄に国際電話をかけた。

「お兄ちゃん、私、裴寂と離婚することにしたの。一ヶ月後、スイスにいるお兄ちゃんのところへ行くわ」

「なんだって、急に? あいつはお前のことを天にも昇るほど可愛がって、仲良くやっていたじゃないか。 また子供みたいに癇癪を起したのか? 晩晩、もう子供じゃないんだ。結婚を遊びみたいに考えるな」

「彼が、浮気したの」 桑晩は兄の言葉を遮り、静かに告げた。「離婚したら、昔、裴氏グループに出資した1000億の資金を引き揚げて。 それから、これまでお兄ちゃんが別の名義で彼に回してきた仕事も、すべて打ち切ってちょうだい。今後、桑家と裴家は、未来永劫、関わることはないわ」

「……あの裴寂め、幸せのただ中にいながら、その有り難みも分からんとは。分かった、お前の言う通りにする。お前は俺が世界で一番愛する妹だ。誰であろうとお前を傷つける奴は許さない」

「ありがとう、お兄ちゃん。一ヶ月後、迎えをお願いね」

「迎え?どこへ……」

桑晩が話し終えたのと、裴寂が蘇雪を支えながら家に入ってきたのは、ほぼ同時だった。

桑晩がどこかへ行こうとしていると聞き、裴寂の顔が険しくなる。

「私……」

桑晩が説明しようとしたが、その言葉は裴寂によって遮られた。

「小雪が妊娠したばかりなんだ。どこへも行かず、家でしっかり彼女の面倒を見てくれ」

「なんですって?」

この男は、私にあの女の世話をしろと言うのか。

「裴寂、この家には家政婦がいるでしょう。この私、裴家の妻が、どうして彼女の世話をしなければならないの?」 「一体、何様のつもり?」

桑晩が本気で怒っていると気づき、裴寂は慌てて彼女をなだめようとした。「そういう意味じゃない。雪さんのお腹にいるのは、僕たち二人の子供なんだから」

すると、蘇雪が悲しげにうつむいた。「阿寂兄さん……!」

蘇雪の機嫌を損ねたと思った裴寂は、桑晩を適当にあしらう。「分かった、分かったから。晩晩、とりあえず小雪を部屋へ送ってくる。今夜は、ちゃんと君のそばにいるから、いいだろう?」

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