眠りのなか、濡れた舌で何度も舐められた。 目を閉じたまま子犬を押しやる。「やめてよ、ドビー……」 掠れた男性の声が響く。「ロビー? 俺を誘惑しただけじゃ足りず、今度は俺の弟にまで手を出したのか?」 システムが脳内で絶叫する。「あなたの小説は崩壊しました!急いで男性主人公を攻略し、メインストーリーに戻しなさい!」 目を開けると、目の前にいる極上のイケメンこそ、私の小説の男性主人公である羅昱だった。 もう一人の男性主人公は、彼の双子の弟である羅比。 私はごくりと唾を飲み込み、彼に飛びついて首に抱きついた。 「怒らないで。彼のより、あなたの方が大きいもの」 イケメンの誘惑には抗えない。メインストーリーに戻る前に、まずは脇道に逸れることにした。 だって、私が一番得意なのは――夜のお勤めで相手を「説得」することだから。
深い眠りの淵で、生温かい舌が執拗に肌を舐め上げていた。
目を閉じたまま、じゃれついてくる子犬を押しやる。「ドビー、やめなって……」
不意に、掠れた男の声が降ってきた。「ロビー……? 俺だけじゃ飽き足らず、弟にまで手を出したのか」
突如、脳内でシステムが甲高い悲鳴を上げた。「あなたの小説、改変されてメチャクチャよ!早くヒーローを攻略して、物語を本筋に戻しなさい!」
目を開けると、そこにいたのは極上の色香を漂わせる男――私が書いた小説の主人公、羅昱だった。
そしてもう一人の主人公が、彼の双子の弟、ロビーだ。
ごくりと喉を鳴らし、私はためらわずに彼の首に飛びついた。
「怒らないで。あの子は……あなたほどじゃないもの」
男の色香は、理性を麻痺させる。物語を本筋に戻す前に、まずはこの男と道を踏み外すことに決めた。
ベッドの上で相手を『説き伏せる』のは、私の最も得意とするところなのだから。
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生温かい舌に舐められて目を覚ました時、私はまだそれを飼い犬の仕業だと思っていた。
「ドビー、やめなって……」
毛むくじゃらの頭の動きが止まり、掠れた男の声が耳に滑り込んできた。
「ロビー……? 俺だけじゃ飽き足らず、弟にまで手を出したのか」
欲望と、抑えきれない怒りをない交ぜにした声色にも、私の意識は浮上しない。
もっと眠っていたいのに、脳内で甲高い警告音がけたたましく鳴り響いた。
「寝てる場合じゃない!物語が乗っ取られたわよ!」
その声に、私は弾かれたように目を開けた。
自称『システム』を名乗るその甲高い声によれば、私は交通事故で植物状態になり、未完だった私の甘々な恋愛小説は、編集部が雇った誰かの手で続きが書かれ、とんでもなく崩壊しているらしい。そして私は、その小説のヒロインとして送り込まれ、ヒーローを攻略して物語を再建する使命を負わされたというのだ。
私はベッドの傍らに立つ男へと視線を移す。
オレンジ色のナイトランプが、その彫りの深い横顔を曖昧に照らし出していた。 長い睫毛が揺れ、瞳を影の中に隠しているため表情は窺えない。 光の届かない場所に、突き出た喉仏と鎖骨のラインがやけに艶めかしく浮かび上がっていた。
極上だ。
思わず生唾を飲み込む。
彼こそが、私の小説の主人公の一人、羅昱。
そしてもう一人の主人公が、双子の弟であるロビー。
小説を書いていた時に思い描いていた三次元のモデルなんかより、百倍は色気がある。
なんてこと。こんなに素敵な男たちを、二人同時に攻略するなんて。
まるで……変態じゃない!
でも、最高に気に入った。
システムが言っていた任務など、端から気にも留めていない。
未完結の小説だ。どんな筋書きになるかなんて、作者である私が決めればいいだけの話だ。
しばらくご無沙汰だった私は、まずこの男を道連れに脇道へ逸れることに決めた。他のことは、後で考えればいい。
唇を舐め、私は勢いよく羅昱の首に腕を回した。
「怒らないで。あの子は……あなたほどじゃないから」
彼の表情がこわばり、私の手首を強く掴む。
「あいつと、寝たのか」
(まだだけど、その予定はある)
私は彼の喉仏にそっと歯を立て、吐息混じりに囁いた。「いい子だから……まずは、あなたから」
どの言葉が引き金になったのか。羅昱は一瞬にして獣と化し、私に覆いかぶさると再び肌を蹂躙し始めた。一対の手が身体中を彷徨い、次々と火を点けていく。
その手が太腿に触れた時、ぴたりと動きを止め、ある一点を執拗に撫で始めた。
不満に思って身じろぎする。
「もっと上にきてよ。そっちの方が……気持ちいいのに」
彼は冷たく笑った。「海外へ行っていた間に、ずいぶんと積極的になったじゃないか。留学先ではそんなことばかり教わっていたのか?」
(ヒロインはもう留学済みだったの?)
かろうじて残っていた理性をかき集め、システムに問いかける。
私が事故に遭う前、物語はヒロインの夏茉と羅昱が大学を卒業し、一緒に留学する約束を交わしたところで止まっていた。
システムによれば、崩壊した続編では、夏茉は卒業と同時に羅昱から一方的に別れを告げられたらしい。 羅昱は彼女を置いて実家のグループ企業を継ぎ、夏茉は一人で海外へ渡り、3年間を過ごした。
そして今日が、夏茉が学業を終えて帰国した初日。
歓迎パーティで羅昱と再会し、その後、羅昱がこっそり夏茉の宿泊先のホテルに忍び込み、部屋に入るなりキスを浴びせ始めた――というわけだ。
まったく、私の描いたクールで孤高なヒーローが、なんて変態に成り下がってしまったことか。
でも、嫌いじゃない。
私は潤んだ瞳で彼を見つめ、甘く囁いた。「海外では、もっとたくさんのことを教わったわ。一つずつ、ゆっくり試してみない?」
嘲るようだった彼の瞳に、暗い光が宿る。
不意に太腿を強く鷲掴みにされ、思わず身体が震えた。
彼は問う。「ここにあったものは、どうした」
「何が?」
「ここだ」彼は太腿のある一点を指でなぞる。「ここに……傷跡があったはずだろう?」
傷跡?
咄嗟には思い出せなかった。
私が戸惑っているのを見て、彼は歯を食いしばると、激情のままに私を貫いた。
「嘘つきめ!」真っ赤に充血した瞳で私を見下ろし、その手で強く腕を押さえつける。その眼差しには、憎しみと渇望が入り混じっていた。
寄せては返す波のような揺れの中で、私の理性は押し潰され、跡形もなく消え去った。
小舟は荒波に弄ばれ、天の果てへと誘われる。震える茉莉花の花びらから、朝露が滴り落ちた。
東の空が白み始める頃、部屋はようやく静寂を取り戻した。
眠りに落ちる直前の、あの妙に冷静な瞬間に、私はようやく思い出した。確かに、私の太腿には傷跡があるはずだったのだ。
第1章小説の中へ
17/09/2025
第2章鉄槌
17/09/2025
第3章チープな罠
17/09/2025
第4章子犬は成長し
17/09/2025
第5章
17/09/2025
第6章
17/09/2025
第7章
17/09/2025
第8章
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第9章
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第10章
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第11章
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第12章
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第13章
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第14章
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第15章
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第16章
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第17章
17/09/2025
第18章
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