冷徹旦那様は、結婚後に制御不能

冷徹旦那様は、結婚後に制御不能

長谷川由香

都市 | 1  チャプター/日
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石川凪は見目麗しいが、偽善的だ。青木浩司は、彼女が口にするその場限りの甘い言葉を聞くのを何よりも軽蔑していた。 だが、石川凪は彼に思わせぶりな態度を取るのをやめた。 青木浩司は、彼女を腕の中へと追い詰める。 「石川凪、俺を誘ってみろ」「命だってあげるわ」 青木浩司は、常日頃から自制心の強い人間だった。 だが石川凪と出会い、彼は理性を失った。

チャプター 1 彼は来年の二月まで生きられない

ドアが開くと、ソファの上で重なり合う二つの体が見え、石川凪の頭の中で何かが爆発した。

道中、凪はずっと想像していた。突然林伸一の家を訪れ、二年にわたる遠距離恋愛がついに終わったと告げたら、彼はきっと驚喜するだろうと。

まさか、目に飛び込んできたのが、これほど目を背けたくなるような光景だとは思いもしなかった。

凪は拳を握りしめた。ソファの二人はあまりに夢中で、彼女の存在さえ気づいていない。

込み上げる吐き気を必死に堪え、凪はスマートフォンを取り出し、録画モードにした。

二人が体勢を変えたとき、女がようやく凪に気づき、甲高い悲鳴を上げた。

伸一も驚き、慌てて毛布を引き寄せて体に巻き付け、女を背後にかばった。

「どうして帰ってきたんだ?何してるだ?」

凪は目を赤くして言った。「こんな素晴らしい場面、もちろん記録してSNSにアップしなきゃ」

伸一はそれを聞くと、背後の女が糸一本まとっていないのも構わず、毛布を体に巻き付けてソファから降り、凪のスマホを奪おうとした。

「それ以上一歩でも近づいたら、一斉送信する」凪は脅した。

伸一はまったく信じず、そのまま前へ進んだ。

凪はためらわず一斉送信ボタンを押した。

伸一は呆然とした。

いつもは優しく物分かりのいい女が、まさか一切迷いなしとは!

「石川凪、死にたいのか!」 伸一は怒りで額に青筋を立て、凪を殺さんばかりの形相だった。

凪はスマホを掲げた。画面にはすでに110が表示されている。「警察を呼んだわ」

伸一は目を見開き、言葉を失った。「お前……」

凪の情け容赦ない、冷酷な様子を見て、伸一は凪を指さした。「いいだろう、お前の勝ちだ!」

凪の瞳は冷ややかだった。

「この二年間、犬に餌をやっていたと思うことにする。いいえ、犬以下ですね」

伸一の家を出た後、凪は親友の平野奏の家へ向かった。

奏の家で五日間過ごし、その間、奏は伸一を罵り続けた。

その日の朝、奏は凪がスマホを見ながら落ち込んでいるのに気づき、寄り添って凪を抱きしめた。「クズ男一人のために、悲しむ価値なんてないわ」

凪は首を振った。「とっくに悲しくなんかない。 ただ、石川雄一が持ってきた縁談をどうしようか迷ってるだけ」

「何ですって?」

凪の父親が彼女に縁談を持ちかけ、帰ってきて話し合うようしきりに催促していたのだ。

相手は家柄が良く、背が高くてハンサム、しかも一人息子だという。

凪が結婚に同意しさえすれば、相手の家は2000万円の結納金を払い、2ヶ月以内に妊娠すれば20億円のボーナス、子供を一人でも産めば、若奥様として無尽蔵の財産を手にできるという。

奏はそれを聞くと手を叩き、鼻で笑った。「それ、あんたの継母の入れ知恵でしょ。 本当にそんな美味しい話なら、自分の娘を嫁がせないわけないじゃない。 どう見たって罠よ」

「何か内情を知ってるの?」

「言ってること自体は本当よ。 でも、肝心なことを一つ隠してる」

「うん?」

奏は言った。「その人の名前は青木浩司。確かにルックスも財力も実力もあるわ。 昔は九条市の女たちがこぞって彼と結婚したがったものよ。結婚できないまでも、一夜を共にしたいってね」

「青木浩司……」 凪はその名を呟いた。「どこかで聞いたことがあるような」

奏は鼻を鳴らした。「九条市の人なら誰でも知ってる名前よ」

そして続けた。「去年、彼が不不治の病になった。それで、余命いくばくもないって言われたの。 もともと恋人がいたらしいんだけど、それを知って外国に行っちゃったとか」

「はっきり言うわ、死にゆく男よ。彼と結婚するなんて、死人と結婚するようなものだわ」

なるほど、なかなか悲惨だ。

奏は唇を尖らせた。「継母ができれば実の父親も他人同然、って言うけど、 まさにその通りね。あんたの継母、あんたを嫁がせて未亡人にさせる気よ」

「彼が死んだら、再婚すればいい」

奏は目を見開いた。「ちょっと、本気で考えてるの? あの男、もう病気で弱りきってるんでしょ。今頃どんな不細工になってるか。 それに、こんな土壇場で結婚相手を探すなんて、死ぬ前に自分の子孫を残したいだけでしょ?」

「こんな時にそんなこと考えるなんて、変態よ!」

「でも、見返りが大きい」

「……」

「それに、彼が死ねば財産を相続できる」 凪は淡々とした表情だった。「そうなれば、お金も自由も手に入る。どれだけ多くの人が羨むことか」

奏は呆気にとられた。「あんた、ショックでおかしくなった?」

「本気よ」 凪は真顔になった。「考えたの。愛情なんてもの、幽霊と同じ。噂には聞くけど、見たことはない。 追い求めるだけ無駄よ」

「それに、私たちがこんなに必死で働くのだって、お金を稼いで経済的自由を手に入れるためじゃない? 今、近道があるのに、どうして利用しない手があるの?」

「……なんだか妙に説得力があるんだけど」

凪は笑った。

「それが現実だからよ」

夜、伸一が他人の携帯電話を使って凪に電話をかけてきて、凪を「見かけ倒しの役立たず」と罵った。

電話を切ると、彼はまた別の番号でかけてきた。凪がいくつかの番号を着信拒否にし、ついには電源を切るまで続いた。

翌日、凪が電源を入れると、大量のメッセージがなだれ込んできた。

ほとんどが伸一からで、ありとあらゆる罵詈雑言が並んでいた。

グループチャットは炎上していた。一度も寝たことさえないのに、伸一はそこで凪の胸は豊胸だの、尻軽のくせに清純ぶってるだのといったデマを流していた。

とにかく、一つとして耳に堪えないものはなかった。

凪は深呼吸をした。起こることすべてに理由があると信じようとした。

神様があのクズ男の本性を早く見抜けるよう、あの場面を見せてくれたのだと。

凪は石川雄一に電話をかけ、彼の提案を受け入れた。

父と娘が青木家の大邸宅に着くと、青木浩司の姿はなく、彼の両親が二人を迎えた。

凪が浩司と結婚する意思があると知り、彼らは興奮を隠せない様子だった。

凪の要求はただ一つ、先に入籍することだった。

理由は、法的に有効にするためだ。

結婚式については、不要だと言った。

相手はもちろん異論はなく、むしろ凪が結婚を拒むのではないかと恐れていたほどだった。

双方の合意はとんとん拍子に進み、青木俊一はすぐに役所の職員を自宅に呼び、婚姻届を提出させた。

その時になって、凪はようやく浩司の……写真を目にした。

写真の男は奏が言った通り、整った顔立ちで、特にその瞳は深く力強く、人を惹きつけるようだった。

これほどの極上の男、命が残りわずかでなければ、凪に回ってくるはずもなかった。

結婚証明書が凪の手に渡された。凪は合成されたものとはいえ、二人の並んだ写真をじっくりと眺め、まあ良しとした。

青木栞菜が銀行のカードを取り出し、凪に手渡した。式は挙げないが、結納金は変わらず支払われる。 さらに、生活費としてまとまった額が渡された。

とにかく気前が良く、その額の大きさに、凪はカード自体が重く感じられるほどだった。

凪は遠慮せず、堂々と受け取った。

再び結婚証明書に目を落とし、「青木浩司」の四文字を見つめる。 あの男は、両親にこうして「売られた」と知ったら、

いったいどんな気分だろうか。

父親と共に青木家の大邸宅を後にすると、父は満面の笑みを浮かべ、実に上機嫌だった。

「青木家から、ずいぶん見返りをもらったんでしょ」

雄一は一瞬固まり、不自然な表情を浮かべた。「何を言っているんだ」

「とぼけないで」凪は立ち止まって雄一を見据えた。「あなたたちに利益がなかったら、私のことなんて思い出しもしなかったくせに」

雄一は気まずそうな顔をした。「凪……」

凪は手を挙げて、雄一の耳触りのいい言葉を遮った。

凪は先に歩き出し、淡々と言った。 「これで最後よ。

今後、もう連絡しないで」

凪が本当に浩司と結婚したと知り、奏はその場でぐるぐると歩き回った。

だが、もはや手遅れで、後戻りはできなかった。

「あんたのお父さん、本当に酷い。火の穴だってわかってるのに、あんたを突き落とすなんて。 あんたもあんたよ、なんでそんな気前よく入籍しちゃうの? もし彼があんたを虐待しても、籍を入れてなきゃ逃げられた。でも入籍しちゃったら、もし彼があんたを殺そうとしたって、逃げ場なんてないのよ」

奏は焦りと怒りと心配で、目を赤くしていた。

親友が怒ってくれることに、凪は心が温かくなった。彼女は笑って奏をなだめた。「入籍はしたけど、彼の前に顔を出すつもりはないもの」

奏は凪をじっと見つめた。

凪はいたずらっぽく目を輝かせた。我ながら悪辣な考えだと思うが、事実でもある。

「彼、来年の二月まで生きられないって言ってたじゃない? 残り三ヶ月もないわ。まずは隠れてて、彼がもう動けなくなったら、その時に顔を出すの」

凪の計画は完璧だったが、現実は甘くなかった。

この言葉を口にしてから数日も経たないうちに、凪の元へ使者が訪れた。

「青木さんが奥様にお会いしたいと仰っています」

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