僕の幼馴染みである春待青は、ちょっとおかしい。美少女だけど、他人の名前は覚えないし空気は読めないし、あとなんか手から氷を出したりする。笑いとシリアス、あやかしてんこ盛りのドタバタラブコメディー!
ふわりと、甘い香りがする。
軽く波打つ長い黒髪は、さらりと揺れる度に天使の輪を輝かせ、肌は透き通るほどに白い。
猫のような大きな黒い目は、角度によって藍色に輝き、まるで硝子玉で作った玩具の宝石のようだ。
「わたし、恋がしたいのです」
まるで鈴が鳴るような軽やかさで、彼女はそう言った。
絶世の美少女――彼女のことを、僕は幼い頃から知っていた。喋ったことも、遊んだこともあるし、なんなら彼女のちょっとした秘密だって知っている。いわば、幼馴染みという存在だ。
だからこそ、彼女がそんなことを言い出したとき、僕は正直、嫌な予感しかしなかった。
「ねぇ、ミナミ」
甘ったれた声で、彼女が僕の名前を呼ぶ。それを聞いた僕の中で、警報音が鳴り響く。
例えば、僕が大事にとっておいた好物の唐揚げの、それも最後の一個を、気軽にねだってきたときのような。大寒波が押し寄せてきた寒い冬、なけなしの防寒具であった手袋とマフラーを意味もなく奪っていったときのような。
そんな、しょうもなく致命的なワガママを言うときの声音だと、僕の経験が告げてくる。
ひんやりと冷たい彼女の手が、僕の手を握る。固まる僕に、彼女はにっこりと文句なしの笑みを見せた。まるで天使のようだが、彼女の正体なら僕はよく知っている。
彼女がまた一歩、距離を詰めてくる。濃くなる甘いミルクのような香りに、気持ちを一瞬持っていかれそうになる。
少女――春待 青(はるまち あお)は、つまりはこういう女なのだ。
悪戯っぽい、猫のような目が、僕を真っ正面から射る。不覚にもドキリとしてしまったことを、僕は早々に後悔した。
彼女が言う。鈴のように軽やかに。あるいは、硝子玉のように、軽率に。
「わたしに、恋をさせてください」
チャプター 1 1-1春待青という女
19/05/2021
チャプター 2 1-2 梅雨の憂鬱
19/05/2021
チャプター 3 1-3 僕と春待青と早まる脳とあとなんか
20/05/2021
チャプター 4 2‐1 幼馴染のお迎えイベント
21/05/2021
チャプター 5 2‐2 お近づき大作戦
21/05/2021
チャプター 6 2-3 春待の弱点
22/05/2021
チャプター 7 3-1 高嶺くんのお願い
23/05/2021
チャプター 8 3‐2 降り注ぐ猫パンチの末路
25/05/2021
チャプター 9 3‐3 どんな姿でも構わないって言ったじゃない
26/05/2021
チャプター 10 3-4 熱愛キスと遠き青い苦味
27/05/2021
チャプター 11 4-1
28/05/2021
チャプター 12 4-2 僕ら氷漬け in サマー
29/05/2021
チャプター 13 5-1 リア充に至る船
30/05/2021
チャプター 14 5-2 ワレワレは地球人だ
31/05/2021
チャプター 15 5-3 もう少し先にとっての後の祭
01/06/2021
チャプター 16 5‐4 「賞味期限は大切よぉん」
02/06/2021
チャプター 17 6-2 超MDがパなくピンチでマジMK5だったんだけどもうどうでもいい
03/06/2021
チャプター 18 6-3 夏の恋と女はフフンフ
04/06/2021
チャプター 19 7-1 うんこの前で会いましょう
05/06/2021
チャプター 20 7‐2 おまえはそういうやつだよな
06/06/2021
チャプター 21 8‐2 デートってこういうものですか?
07/06/2021
チャプター 22 8-2 勘違い?それとも
14/06/2021
チャプター 23 8-3 特別なパンケーキ
15/06/2021
チャプター 24 9-1 あの頃の君、今の君
16/06/2021
チャプター 25 9‐2 デート。その結末
17/06/2021
チャプター 26 9-3 さよならの後ろ姿
18/06/2021
チャプター 27 10‐1 時季外れの
25/06/2021
チャプター 28 10‐2 デリート
26/06/2021
チャプター 29 10‐3 今更
27/06/2021
チャプター 30 11‐1 動き出した心
28/06/2021
チャプター 31 11-2 心
29/06/2021
チャプター 32 11‐3 雪の中
30/06/2021
チャプター 33 12‐1 再会
01/07/2021
チャプター 34 12‐2 山の神
02/07/2021
チャプター 35 12-3 あたたかい
03/07/2021
チャプター 36 最終話 雪がとけたら
04/07/2021