見捨てられた妻から、権力ある女相続人へ
“私の結婚は,私が主催した慈善パーティーで終わりを告げた. ついさっきまで,私はIT界の寵児,橘圭吾の妊娠中の幸せな妻だった. 次の瞬間には,ある記者が突きつけてきたスマートフォンの画面が,圭吾と彼の幼馴染である遥が子供を授かったというニュースを世界中に報じていた. 部屋の向こうで,二人が寄り添っているのが見えた. 圭吾の手が,遥のお腹に置かれている. これは単なる浮気じゃない. 私と,まだ見ぬ私たちの赤ちゃんの存在を,公に消し去るという宣言だった. 会社の数千億円規模の新規株式公開(IPO)を守るため,圭吾と彼の母親,そして私の養父母までもが結託して私を追い詰めた. 彼らは遥を私たちの家に,私のベッドに招き入れ,まるで女王様のように扱い,一方で私は囚人となった. 彼らは私を精神的に不安定だと決めつけ,一家のイメージを脅かす存在だと罵った. 私が浮気をしたと非難し,お腹の子は圭吾の子ではないと主張した. そして,考えうる限り最悪の命令が下された. 妊娠を中絶しろ,と. 彼らは私を部屋に閉じ込め,手術の予約を入れた. 拒否すれば,無理矢リ引きずって行くと脅して. でも,彼らは過ちを犯した. 私を黙らせるために,スマートフォンを返してくれたのだ. 私は降伏したふりをして,何年も隠し持っていた番号に,最後の望みを託して電話をかけた. その番号の主は,私の実の父親,一条彰人. 夫の世界など,いとも簡単に焼き尽くせるほどの力を持つ一族の当主だった.”