九条夫人はもう辞めた!~離婚後、冷徹総裁の修羅場~
き付けた。 ソファに深く身を沈める夫に背を向けたまま、美
。 美咲はその場に崩れ落ちそうになるのを、冷たいドアに背を預けることで
うか。 砂の城が波に攫われるように、それは今、跡形もなく崩れ
もしれない。 ただ、人の心だけは
開けた。 一枚、また一枚と、自分の服をスーツケースへと
れてからは、自分のことなど後回しで、ただひたすらに家庭を守ることだけを考えてきた。 いつしかお
家で築いた、私のすべてだった。スーツケースの
で目に焼き付けた。 こみ上げる想いを振り払うように、
食い込む結婚指輪に、ゆっくりと指をかけた
…返
を一瞥し、すぐにその視線を彼女の
して、ようやく指に通した時の嬉しそうな顔を、今でも覚えている。 あれ
れた。 その事実が、健司の胸に
彼女の背後に立つ大きなスーツケースに目をやっ
急いで出ていく
……
ほんの少しでも後悔が滲んでいるのではな
その小さな希望の芽
る。 その間に家でも探して、
響きに、美咲の唇から
の揺らぎもなかった。 「離婚するのなら、早い方
ない幻想に、心をすり減
らえるように一瞬黙り込んだ。やがて、吐
、挨拶し
だった。 温度のない声が
れている。 強い心労は禁物だ。
愛に満ちた穏やかな顔が浮かん
人。 理不尽なことがあるたびに庇い、 時に
、 お祖母様を悲しませる
わかり
心で舌を巻いた。 祖母の寵愛を盾に泣き
に静かだった。探るような健司の
んの前では夫婦
え
。 「悠真が起きて
私と暮らしたいと言ってくれたなら……。 ) そん
前で、美咲はそっ
ママだけど、 少し入っ
しまったのだろうか。 諦めて踵を返そうとした、その時だった
よ。 僕、おばさんの大好きなブルー
甘えるような悠真の声。 その無邪気な
。 いつからだろう。 息子が自分に向ける眼差しは冷
してゆっくりと開いた。 迷いを断
し、話があ
み入れた瞬間、悠真
まま、小さな顔で
もしないで入っ
。 踏み出そうとした足が、縫い付けられたよ
から……。 あのね、悠真。
や
ない声が遮る。 「どうしてママは、雲葉
、息子が何を言ってい
さいだけじゃないか。 友達にママのこと聞かれても、恥ずかしくて何も言
うにも、言葉が見つからない。 当の悠真は、もう母親に興味な
との楽しげなチャット画面。 それを見た瞬間
子の顔を見た。 そして
スを手に階下へ降り、玄関でスマートフォンをタップしてタク
中に一片の未練も見せずに出て行った女に、健
、と密かに借りていた自分のための城だった。 健司と喧嘩するたびに、ここで一人、頭
もう何も考えたくなくて、荷解きもそこそこに、
ープの本社ビルへと向かった。
ばにいたい、その一心からだった。 彼との縁
すが、本日付けでお願いす
である田中成也の目をま
」額の汗をハンカチで拭い、視線を泳がせる。 「少々お待ちい
の素性を知る数少な
きが止まる。「……どうし
ざいません。奥様のご入社は、社長の特
お手数をおかけします
た、その時だった。 ちん、と軽やかな音を立ててエレベー
咲が今まで一度も見たことのないものだった。 いつも氷のように冷徹な健
ことに気づいた。 まさか、こんな場所