娘と殺された身代わり、今度は全て奪い返す

娘と殺された身代わり、今度は全て奪い返す

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"娘の骨壷は、まだ微かに温かかった。 その日、元夫はテレビの中で、別の女と世紀の結婚式を挙げていた。 そして私は、娘の生命保険金すら奪われ、冷たい東京湾の底に沈んだ。 凛々紗の""身代わり""として虐げられた日々。金のために川辺家に媚びへつらうことを強いた養母。そして、たった一人で病室で死んでいった最愛の娘、果穂の絶望的な瞳。 走馬灯のように駆け巡る記憶の果てに、私は誓った。 「もし来世があるのなら、必ずこの手で血の代償を払わせてやる」 再び目を開けると、そこは満開の桜が舞う高校の教室だった。 「――この騒動を誘発した松島沙耶香については、本日付で普通クラスへの降級処分とする」 教師の冷たい声と、クラスメイトたちの嘲笑が降り注ぐ。 それは、すべての屈辱が始まった、あの日の朝だった。"

娘と殺された身代わり、今度は全て奪い返す チャプター 1 No.1

骨壷は,まだ微かに温かかった.

東京湾を見下ろす火葬場の休憩室.松島沙耶香は,娘の小さな骨が収められた白い箱を,胸に抱きしめていた.指先が白くなるほど力を込めても,その重みはあまりに軽く,心に空いた穴を埋めるにはほど遠い.

"ママ..."

消え入りそうな最期の声が,耳の奥で何度も再生される.

ふと顔を上げると,壁掛けテレビが目に入った.音声は消されているが,帝国ホテルで開かれている世紀の結婚式の生中継が,無神経に映し出されている.画面を埋め尽くす純白の百合の花が,沙耶香の目を刺した.

新郎は,川辺潤雄.沙耶香の元夫であり,娘・果穂の父親.

そして,彼の手を取り,聖母のように慈悲深い微笑みを浮かべているのが,三国凛々紗.

その笑顔を見るたび,果穂が苦しんだ最後の夜の,甲高い悲鳴が頭蓋骨の中で反響する.

ブブッ,とポケットのスマートフォンが震えた.川辺家の法務部から届いた,冷たい事務的な文面だった.

"川辺果穂様の生命保険金に関しまして,同封の"相続権放棄同意書"に三日以内にご署名いただけない場合,我々は果穂様の生前の保護責任について,松島様に対し厳格な法的措置を検討せざるを得ません"

"今後の葬儀等へのご出席は,固くお断り申し上げます"

指が震え,画面を滑る.潤雄の連絡先を探し出し,ためらいなく削除ボタンを押した.ガラスの表面をなぞる指先が,まるで刃の上を滑っているかのように痛んだ.

沙耶香は,ふらりと立ち上がった.骨壷を抱きしめ直すと,音もなく休憩室を出る.

外は,冷たい雨が降っていた.

東京湾から吹き付ける風が,薄い喪服を通して体温を奪っていく.傘をさす気力もなかった.

その時,一台の黒い加長リンカーンが,猛スピードで隣を走り抜けた.跳ね上げられた泥水が,喪服の裾を汚す.

一瞬,後部座席の窓に,見慣れた男の横顔が映った気がした.潤雄.

遠ざかっていくテールランプの赤い光が,雨の中で滲んでいく.それを見つめる沙耶香の瞳から,最後の光が消えた.残ったのは,底なしの暗い憎しみだけ.

気づけば,沙耶香は湾岸道路のガードレールに足をかけていた.体を裂かんばかりの強風が吹き荒れ,足元では黒く渦巻く波が牙を剥いている.

脳裏に,これまでの人生の記憶が走馬灯のように駆け巡る.

凛々紗の"身代わり"として,潤雄のそばに置かれた屈辱の日々.

川辺家の援助金にすがり,沙耶香に媚びへつらうことを強要した養母の姿.

そして,病室のベッドで,たった一人で死の恐怖と戦い続けた,最愛の娘,果穂の絶望的な瞳.

"あはは..."

乾いた笑い声が,唇から漏れた.

"もし,来世があるのなら..."

沙耶香は,虚空に向かって毒を吐くように誓った.

"川辺も,三国も...必ず,この手で血の代償を払わせてやる"

力が,抜けた.

ガードレールを握っていた指が,一本,また一本と離れていく.

体が,暗い虚空へと投げ出される.冷たい海水が,一瞬で全身を包み込んだ.息ができない.肺に流れ込んでくる水が,内側から体を焼き尽くすような激痛を走らせる.

意識が,ゆっくりと剥離していく.

果てしない,暗闇へ――.

"...っ,はぁっ!"

突然,空気を求めるように,沙耶香は激しく息を吸い込んだ.

全身が冷たい汗で濡れている.心臓が,肋骨を突き破るのではないかと思うほど激しく鼓動していた.

カツン,カツン.

耳に届いたのは,粉筆が黒板を叩く,乾いた音.

窓の外では,陰鬱な雨ではなく,満開の桜が風に舞っていた.

黒板の右上には,チョークで"平成XX年"と書かれている.

沙耶香の瞳孔が,急速に収縮した.

ここは....

"...なんか臭くない?この人,昨日お風呂入ってないんじゃないの"

隣の席の女子生徒が,鼻をつまみながら,あからさまに距離を取った.

その時,教壇に立つ担任の山田が,黒縁メガネを押し上げながら口を開いた.

"――以上,先日学院内で起きた暴力事件についての,処分を発表する"

教室のドアが開き,校長に付き添われて,一人の女子生徒が入ってくる.川辺理子.潤雄の妹だ.彼女は,勝ち誇ったように胸を張り,講壇の横に立った.

"関係した生徒たちだが,各家庭からの多大なる貢献を鑑み,退学処分は見送る.口頭での厳重注意とする"

山田の言葉に,教室の後方でくすくすという笑い声が漏れる.

"しかし"と,山田は声のトーンを変えた."この騒動を誘発した松島沙耶香については,特進クラスにふさわしくないと判断し,本日付で普通クラスへの降級処分とする"

その瞬間,教室は露骨な嘲笑の渦に包まれた.それはまるで,無数の鋭いナイフとなって,沙耶香の全身に突き刺さるかのようだった.

だが,沙耶香は俯かなかった.

そっと,自分の両手を見つめる.

ペンだこも,切り傷もない,若々しく,滑らかな手.

――本当に,戻ってきたんだ.

冷たい光が,沙耶香の瞳の奥で揺らめいた.

"松島,聞こえているのか.今すぐ荷物をまとめて,特進クラスから出て行け"

山田が,苛立たしげに言った.

沙耶香は,泣きもせず,騒ぎもせず,ただ静かに教科書を閉じた.その動作は,驚くほど冷静で,無駄がなかった.

教科書を鞄に詰め,席を立つ.

そして,理子の隣を通り過ぎる瞬間,ぴたりと足を止めた.

理子は"命乞いでもする気?"とでも言いたげに,冷たく鼻を鳴らした.

沙耶香は,ゆっくりと顔を上げた.その目は,理子を,まるで感情のない物体,あるいは死体でも見るかのように,冷ややかに見つめていた.

"...っ"

その底知れない瞳に射抜かれ,理子は思わず一歩後ずさった.

沙耶香は,もはや理子に何の関心もないというように,再び前を向いて歩き出す.

がらり,と教室のドアを開ける.

廊下に差し込む太陽の光が,目に痛い.

沙耶香は,心の中で,復讐の誓いを新たにした.

まずは,この屈辱的な階級から抜け出すこと.

それが,復讐の第一歩だ.

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