四年。彼を探して、丸四年が経った。 ようやく再会できた彼は、四年前の夜を「酒の上の間違い」と嘲笑い、私の想いに小切手で値段をつけた。 「お前の四年間の好きとやらは、いくらだ?」 屈辱と絶望の中、私は彼にカフスボタンを突き返し、過去を捨てて東京へ逃げた。 それからさらに四年後。ルームメイトが自慢げに連れてきたエリート起業家は、他でもない坂本真之介だった。 彼は私を完全にいないものとして扱い、ルームメイトには優しく傘を差し掛けた。 私が雨の廊下で転倒し怪我をした時も、ただ冷酷に見下すだけだった。 かつてあんなにも愛した人が、なぜここまで残酷になれるのか。 私を容赦なく踏みつけた後で、なぜ偽りの優しさのようにミルクティーなど差し入れてくるのか。 「いらないと言いました」 もう騙されない。私の心は完全に冷え切った。 この一杯のミルクティーを最後に、私と坂本真之介は完全に赤の他人だ。
「坂本さん」
震える声が、銀座の夜の喧騒に吸い込まれていく。
篠原杏樹は、高級レストランの向かい側の街角に立っていた。冷たい夜風が、彼女の髪を弄ぶ。凍える指先をきつく握りしめると、心臓が肋骨を突き破らんばかりに鼓動した。
四年。
彼を探して、丸四年が経った。
今日、ようやく私立探偵から彼の居場所が知らされたのだ。
レストランの回転ドアが開き、長身の男が現れる。高級なオーダーメイドのスーツに身を包み、その全身から近寄りがたい雰囲気を放っていた。
坂本真之介。
杏樹の呼吸が止まる。四年前よりずっと成熟し、そしてずっと冷酷に見える。
彼の後ろに女性の姿がないことを確認し、胸の内に微かな希望が灯る。
真之介が、路上に停められた黒塗りの高級車に向かって歩き出す。運転手が、既に後部座席のドアを開けて待っていた。
今を逃せば、もう二度と会えないかもしれない。
衝動が、杏樹の身体を突き動かした。彼女は車道を駆け抜けた。
「坂本さん!」
真之介が足を止める。ゆっくりと横を向いた彼の目は、まるで完全な他人を見るかのように、何の感情も映していなかった。
その視線に、心臓が鷲掴みにされる。それでも杏樹は勇気を振り絞り、彼の目の前まで歩み寄った。
「私です。篠原杏樹です。四年前の夜……」
彼女が言い終わる前に、真之介の眉が僅かに寄せられ、そしてすぐに氷のような無表情に戻った。
「知らないな」
その一言で、杏樹の顔から血の気が引いていく。
「いいえ。知っているはずです。あのホテルで……」
彼女の言葉は、彼が軽く上げた手によって遮られた。その瞳には、焦燥と、そして侮蔑の色が浮かんでいた。
「またか。玉の輿でも狙っている女か?」
彼は嘲るように笑った。
その言葉が、無防備な心臓に突き刺さる。屈辱に耐えながら、杏樹はバッグから小さな物を取り出した。男性用のカフスボタンだ。
「これは、あなたのものです」
カフスボタンを目にした瞬間、真之介の指先がわずかに震えたように見えた。彼はすぐにそれを握り込み、何事もなかったかのように無表情を保つ。そのあまりに素早い動きの裏に、杏樹は一瞬、彼が何かを必死に堪えているような気配を感じたが、確信は持てなかった。
杏樹は深く息を吸い込み、全身の力を振り絞って言った。
「好きです。四年前から、ずっとあなたが好きでした」
空気が凍りつく。運転手も、通りすがりの人々も、好奇の視線を向けていた。
真之介の顔には、感動など一片も浮かばない。それどころか、残忍な笑みがその唇を歪めた。
「俺が好き?」
彼は、まるで世界で一番滑稽な冗談を聞いたかのように、その言葉を繰り返した。
そして突然一歩踏み出す。その圧倒的な威圧感に、杏樹は思わず後ずさった。
彼の手が、彼女の手首を掴む。骨が軋むほどの力に、杏樹は顔をしかめた。
「お前の好きは、こんな風に俺に付きまとうことか?」
杏樹は振りほどこうともがくが、彼の力は一層強くなるばかりだ。
「ここは人目につく。話す場所を変えるぞ」
彼の声は、低く危険な響きを帯びていた。
抵抗も虚しく、彼は杏樹を灯りのともる大通りから無理やり引き離していく。
杏樹は、引きずられるようにしてアスファルトの上でハイヒールを鳴らした。心臓は恐怖と混乱で張り裂けそうだった。
彼が彼女を連れ込んだのは、レストランの脇にある、生ゴミの臭いが漂う薄暗い裏路地だった。
ルームメイトの恋人は、私を絶望させた冷酷な男でした
福田 香織
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