灰燼からの復活:追放された令嬢は天才外科医

灰燼からの復活:追放された令嬢は天才外科医

瀬戸内 晴

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義妹に薬を盛られ、東海林美雪は見知らぬ男のベッドで目を覚ました。 直後の婚約披露宴で、婚約者は突然式を中断し、巨大スクリーンに美雪の乱れた姿の写真を映し出した。 「我が伊藤家に、このような汚れた女は必要ない!」 無数のフラッシュと嘲笑が浴びせられる中、実の父は彼女を激しく平手打ちした。 「この恥知らずが!今日限り、お前は私の娘ではない!」 弁明すら聞かれず、父は彼女を勘当し、土砂降りの雨の中へ追い出した。 傍らでは、すべてを仕組んだ義妹が勝ち誇ったように笑っていた。 罠に嵌められ、家族に裏切られ、身一つで放り出された絶望と屈辱。 美雪は冷たい雨に打たれながら、心の中で固く誓った。 六年後。 医学界で「神の手」と呼ばれる伝説の天才外科医となった美雪は、双子の子供を連れて日本に降り立った。 唯一の味方である祖母の命を救い、自分からすべてを奪った者たちに血の代償を払わせるために。

灰燼からの復活:追放された令嬢は天才外科医 第1章

「うっ……」

頭を割るような痛みで東海林美雪は目を覚ました。

知らない天井。消毒液と高級なリネンが混じった匂い。ここはホテルのようだ。

全身が鉛のように重く気怠い。

美雪はゆっくりと身を起こそうとして、隣に人の気配を感じた。

息が止まる。

恐る恐る首を動かすと、そこには見知らぬ男が眠っていた。

彫刻のように整った顔立ち。高い鼻筋と固く結ばれた唇。鍛え上げられた逞しい体躯がシーツ越しにもわかる。

心臓が氷水に浸されたように冷たくなった。

昨夜の記憶が断片的に蘇る。

義理の妹である奈々がしきりに勧めてきたシャンパン。

「お姉様、婚約おめでとう」

そう言って微笑む奈々の顔。

あのグラスに何か入っていたのだ。

美雪はベッドサイドのテーブルに目をやった。そこには「1703」というルームナンバーが刻まれたカードキーが置かれている。自分の部屋は1702号室のはずだった。

全身の血が逆流するような感覚。屈辱と恐怖で指先が震える。

彼女は床に散らばった自分のドレスを掴むと、音を立てないようにベッドを抜け出した。

その時だった。

男が身じろぎし、低い呻き声を漏らした。

美雪の動きが凍りつく。

男はゆっくりと目を開けた。その瞳には彼女と同じような混乱と鋭い光が宿っていた。

視線が絡み合ったのは一瞬。

美雪は悲鳴を飲み込み、服をひっつかんで部屋から飛び出した。裸足のまま夢中で廊下を走る。

部屋に残された五十嵐岳人はこめかみを押さえた。

ひどい頭痛がする。

昨夜のことは、異常な体の火照りと柔らかな感触の記憶しか残っていなかった。

彼は舌打ちを一つすると、床に落ちていた女性ものの小さなイヤリングに目を留めた。

1702号室に転がり込んだ美雪は、そのままシャワールームへ直行した。

熱い湯を体に叩きつけ、肌を擦る。ゴシゴシと、まるで他人の体に触れられた痕跡を消し去るように。

涙が熱湯に混じって頬を伝った。

鏡に映った自分の首筋には、見覚えのない赤い痕が点々とついていた。

絶望が胃の腑からせり上がってくる。

その時、けたたましく携帯が鳴った。

婚約者である伊藤彰文の秘書からだった。

「美雪様、まもなく披露宴が始まります。彰文様がお待ちです」

無機質な声が彼女を地獄へと誘う。

美雪は深呼吸を一つした。

泣いている場合ではない。

彼女はバスローブを羽織ると、化粧ポーチから一番カバー力の高いコンシーラーを取り出した。首の痕を執拗に塗りつぶし、完璧な礼装に着替える。

鏡の中の自分はいつも通りの東海林財閥の令嬢だった。ただ瞳の奥に宿る光だけが、氷のように冷たく凍てついていた。

グランドハイアット東京の宴会場は華やかな雰囲気に満ちていた。

シャンデリアがきらめき、着飾った人々が談笑している。

美雪が姿を現すと、待っていた伊藤彰文が不機嫌そうな顔で近づいてきた。

「遅いじゃないか。どこに行っていたんだ」

「ごめんなさい。少し体調が……」

美雪が言い終わる前に、義妹の奈々が駆け寄ってきた。

「お姉様!どこに行ってたの?心配したんだから!」

その目は隠しきれない得意の色に輝いていた。

美雪が氷のような視線を向けると、奈々は怯んだように一歩後ずさった。

彰文は美雪の腕を掴み、無理やりステージへと引き上げた。

婚約披露パーティーが始まる。

司会者の祝福の言葉。鳴り響く拍手。全てが遠い世界の出来事のようだった。

そして指輪交換の時が来た。

彰文は美雪の前に立つとマイクを握りしめ、冷たい笑みを浮かべて言った。

「指輪を交換する前に、皆様に面白いものをお見せしたいと思います」

会場がざわめく。

次の瞬間、ステージ上の巨大スクリーンに数枚の写真が映し出された。

乱れたドレスのままホテルの部屋から飛び出してくる美雪。その首筋には生々しいキスマークがはっきりと写っていた。

一瞬の静寂の後、会場は爆発したような喧騒に包まれた。無数のフラッシュが焚かれ、人々がひそひそと囁き合う。

父親の東海林健吾は顔を真っ赤にして震えていた。

彰文は美雪の前に歩み寄ると、憎悪に満ちた目で彼女を見下ろした。

「東海林美雪。よくも俺を裏切ってくれたな。この恥知らずが」

彼は美雪の手を乱暴に振り払い、マイクを通して会場中に響き渡る声で宣言した。

「私、伊藤彰文はただ今をもって東海林美雪との婚約を破棄する!我が伊藤家にこのような汚れた女は必要ない!」

奈々がわざとらしく駆け寄り、よろめく美雪を支えるふりをした。

「お姉様、どうしてこんなことを……。早く彰文さんに謝って!」

美雪はこの茶番を繰り広げる二人を、冷え切った心で見ていた。

彼女はゆっくりと顔を上げた。その瞳はもはや何の感情も映していなかった。

「後悔するわよ」

彰文に向けられた声は静かだが、地獄の底から響くようだった。

次に彼女は奈々を見た。

「この借りは必ず返す」

美雪は背筋を伸ばした。

嘲笑と侮蔑の視線がナイフのように突き刺さる。彼女はその全てを跳ね返すように、毅然とした足取りでステージを降りた。

カツカツとハイヒールの音だけがやけに大きく響いた。

宴会場の扉にたどり着いた時、激しい吐き気がこみ上げてきた。

美雪は洗面所に駆け込み、胃の中のものを全て吐き出した。

その時彼女は悟った。自分の身に最悪の変化が起きているかもしれないと。

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