CEOの彼の罠に落ちた
作者繁昌 空
ジャンル御曹司
CEOの彼の罠に落ちた
1階のロビーには誰もいなかった。 厲浅洛はエレベーターに乗って、28階の社長室へ向かった。 エレベーターを降りた瞬間、メデイアの取材を受けている戚澤明の声が聞こえた。 「...日頃から皆様方には大変お世話になり、誠にありがとうございます。突然ですが、私は付氏企業集団の社長令嬢である付辛茹と結婚する予定です。」 「今後とも、何卒よろしくお願いいたします。」
…あの人が 付氏集団の社長令嬢 付辛茹と婚約するだと!? 辛茹? 私の11年来の親友と婚約!?
あまりにも衝撃的な事実を知り、厲浅洛は絶句した。 後ろにいた陸梓熙が戚澤明の発言に激怒して、あの男を殴ろうとするところで、浅洛に服の裾を強く引っ張られた。
浅洛は青い顔で首を横に振った。戚澤明が何を言い続けるか知りたいんだ。
「戚澤明部長、お伺いしたいことがあります。 あなたは厲献呈社長の娘さん、厲浅洛と付き合っているそうですね。
しかし、先程付辛茹さんとの婚約を発表しました。 この事について、説明してくれませんか?」
戚澤明、この男は24歳の若さで、厲氏集団の部長に就任した。上流階級においても、最も理想的な結婚相手の一人として挙げられていた。 さらに、彼の上品で穏やかなところが多くの女を心を掴んだ そこが自分をひきつけるところでもあったと浅洛は思った。
「確かに、厲浅洛さんと付き合っていました。 ですが、ずっと前からもう別れました。」 戚澤明は記者から投げられた質問に対して、一貫した穏やかな表情をして柔らかい口調で答えた。
その言葉は鋭いナイフのように、厲浅洛の心を突き刺した。
浅洛はふっと思い出した。昨日の夜、戚澤明が手渡したワインを飲んで違和感を感じたことと、自分を2階に案内したのはまさに辛茹だったことも。
「ははは...」 記者たちが戚澤明のアップ写真を撮っている最中、後ろから会場いっぱいに響くほどの笑い声が聞こえてきた。
彼らが不思議そうに振り返ると、そこに笑っているのは見覚えのある女性だ。
「厲浅洛!」 「彼女は厲浅洛です!」 「厲献呈社長の愛娘です!」 ある経験豊富な記者はすぐに笑っている女性が厲浅洛だとわかった。 そういった途端に、すべての記者が厲浅洛のもとに駆け寄って、彼女を取り囲んだ。
戚澤明は厲浅洛がここに現れたのを気付いて、不機嫌な顔をした。 なぜ厲浅洛はここにいた? 昨日ワインを飲んだ後、一体どこに行ったのか? 元々この女のことが好きでもなんでもないんだ。 私が欲しいのは体だけ。昨夜はあと一息で成功したのに… 厲献呈に会って帰ってきたら、この女の姿が見えなくなった。せっかくのチャンスが無駄にしてしまった… クソ女ッ!
「厲さん、なぜ笑うんですか?」
「厲さん、厲社長について何か知っていますか?」
「戚部長と別れた原因について教えてください!」
記者たちの質問が次々と攻めてきたが、 厲浅洛は質問が聞こえないように、戚澤明の不機嫌そうな顔しか見えなかった。彼を睨むように見つめて、瞳の中に怒りが満ちている。
戚澤明は何も説明してくれなかった。 なるほど、そういうことか。この男とその父二人は、私から厲氏集団の支配権を奪い取って、すべて失った私を見捨てたの。それに、私の親友と婚約までした…
付辛茹は危険な女だって前から陸梓熙に注意されたのに、それを聞き流した自分が今こんな目に遭うのも、自業自得しか言えない。
「あなたたちが知りたいことは 全て話します。 なぜ戚澤明と別れたのか教えてやりましょう 戚部長にどんな愛称をつけたのか、皆さん知っていますか。 3秒戚です! そうです。戚澤明は早漏男です。 あそこはまったく使えません。 付辛茹のことなら、私と戚澤明がまだ付き合っている間に、この二人はすでにできているんです。 今、この二人は手を組んで父の会社を乗っ取ろうとしています。 私、厲浅洛は、一生この二人を許しません!」
話終わった後、数秒経っても、会場にいる人たちは誰も話さなかった。 戚澤明はいかめしい顔で厲浅洛を見つめている。 さっきの話、3分の1は彼女の言った通りです。 それより、よくもみんなの前で、私のことを「3秒戚」と呼んでくれたよな! 付き合って三年、この女に自分のすごさをちゃんと見せてやるぺきだった。 私を「3秒戚」と呼んでしまったことを、後悔させてやる。
「浅洛、あなたの気持ちはよく分かりますが、 嘘つくのはよくないと思いますよ。 決定的な証拠がある以上、厲叔父が罪を犯したのは事実です。 このことについては、父も私も、非常に残念に思います。 辛茹のことですが...」 戚澤明は自分を整えて、一貫した穏やかな声で話を再開した。 だが、浅洛はその話を聞こうともしない、陸梓熙に助けてもらって社長室に入った。
浅洛たちが会場から離れたので、記者たちは再び戚澤明に焦点を当てた。
社長室内
陸梓熙は一緒に社長室に入らず、 外で待ってった。
厲浅洛はそっとドアを開けて部屋に入った。 机の前に、右手で額を当てている厲献呈が座っている。目を閉じたままで、何か考えているようだ。
「パパ...」
「浅洛...」 厲献呈は悲しげに苦笑をもらした。そんな父を見ると、浅洛の目から涙がこぼれ落ちてきた。
「パパ、悲しまないで。 私とばあちゃんはずっとそばにいるよ。」 浅洛は自分の感情を一生懸命抑えて、なるべく明るい声で厲献呈を慰めようとしたが、父の白髪に気付いた時、思わずすすり泣いてきた。
今になって気付いたが、自分は全然親孝行ができていないんだ。父のおかげでずっと贅沢な生活を送ってきたのに…自分は、育ててくれた父のことをどうやって恩返しして、負担を軽減させるかすら考えたこともなかった。
「浅洛、お父さんはもうあなたの欲しいものをあげられない…」 厲献呈はスクリーンに映したデータを見て、胸元が締め木にかけられたように苦しくなった。
「パパ、私は何もいらない。 私たち家族三人が無事で日々を送れれば、それで満足だわ。」 浅洛は父に近寄って、生まれた時からずっと守ってくれているこの男を優しく抱きしめた。
愛しい娘を見て、厲献呈は少し癒されたと感じた。自分を心配している娘を安心させると思って、彼女の手の甲を優しくたたいた。 そして、ゆっくりと立ち上がって、荷物をまとめて、社長室を出た。
二人が一緒に社長室から出たとき、戚澤明はもう会場から離れた。 だが、記者たちはまだ彼らのことを待っている。 厲献呈が見えると、駆け寄って彼を取り囲んだ。
「厲献呈社長、 犯した罪について、何か言いたいことはありますか?」
「厲献呈社長、 あなたが社長職を辞任した以上、 犯した罪は一切問わないことにすると戚氏が表明しましたが、 あなたはどう思いますか?」
「厲献呈社長...」
厲献呈は、記者たちに聞かれた、自分に着せた「罪」に対して、何も話す気がなかった。 厲浅洛は父が記者たちに追い詰められたのが見苦しくて、反撃した。「父は何もやっていません。やってもいないことを認めろというんですか? 父は卑劣な奴らに騙されて、罠にはめられたんです。 いつか父の無実が証明されると私は信じています。」
「厲浅洛さん、卑劣な奴というのは戚雲忠のことですか?」 記者はもめ事を起こそうとして、鋭い質問をした。
「話は十分に伝えたと思います。 それに、真実もいつか明らかになると思います。」と厲浅洛が答えた。 会社のことは何もわからないが、厲浅洛は黙って泣き寝入りするようなタイプじゃない。 戚雲忠、戚澤明、そして付辛茹、あなたたちが笑えるのは今だけだ。絶対やり返してやるわ! そう思っている彼女は、何者にも屈しない顔を見せた。この時、テレビの前に座っている男が彼女を見て、セクシーな唇の端を少し持ち上げた。
「社長、厲氏集団の社長は変わった以上。 前に立てた買収計画はまだ実行するのでしょうか?」 秘書の允起(ユンチー)が、集めてきた厲氏集団の情報をもう一度確認した。 社長が変わったこと以外、すべてが順調でした。