私を捨てるなら、全部持って行っていい

私を捨てるなら、全部持って行っていい

佐藤洸平

都市 | 1  チャプター/日
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【スピード婚×大富豪+夫の後悔+正体バレ】 【裏社会も表社会も牛耳る財閥の御曹司VS自立した冷静沈着なテクノロジー企業のトップ】 唐澤晚香は夫と結婚して三年、未だに夜の営みがない。彼女はずっと、岩田皓輝は仕事一筋で、二人に良い生活環境を与えるために頑張っているのだと信じていた。 しかし母親が亡くなった日、夫の浮気により離婚を突きつけられた彼女は初めて知る。岩田皓輝は新婚の夜から、義理の妹である唐澤依奈と関係を持っていたのだ。 彼女はすべての優しさを捨て、期待することをやめ、離婚を決意した。 誰もが彼女を嘲笑った。「唐澤晚香は気が狂ったのか?今更お嬢様気取りで、慰謝料も取らずに家を出るなんて!」 「見ていればいい。あんな強がりが長く続くわけがない。数日もすれば惨めな姿で戻ってくるさ!」 人々は待ち続けた。しかし、唐澤晚香が離婚を後悔する日は来ず、それどころか、岩田皓輝が雨の中で唐澤晚香に「行かないでくれ」と跪いて懇願する姿がネットニュースを賑わせた。 あるインタビューで、記者が唐澤晚香に岩田氏と復縁する気はあるかと公に尋ねると、彼女は淡々とこう答えた。「鬱陶しい人。天性の困った性分ね。相手が自分を愛していない時じゃないと、愛せないなんて!」 一方、裏も表も通じるあの大物は、唐澤晚香をぐっと引き寄せ懐に抱きしめ、こう言った。「俺の妻を狙おうなどと、できるものならやってみるがいい」

チャプター 1 離婚しよう

「……私、結婚してるんです」

闇の中で、唐澤晚香は壁際に押しつけられていた。鋼のような腕が逃げ道を塞ぎ、首筋を熱い息がなぞる。身体が、びくりと震える。

男は彼女の腰を掴み、鼻で笑った。「結婚してるくせに、まだこんな『仕事』続けてんのか?……旦那、知ってんの?」

その一言が、胸を鋭く刺した。

一時間前、彼女のスマホに一本の動画が届いた。

――夫・岩田皓輝と、異母妹の依奈。互いに裸同然の姿で、ベッドの上で絡み合っている。

晚香は裏切りの証拠を押さえるため、指定されたホテルへと向かった。

だが、部屋番号を確認する間もなく、背後から現れた男に、力ずくで部屋に引きずり込まれた。

「今さら清純ぶるな」 男は彼女を抱き上げ、ベッドに叩きつけた。ネクタイを裂き、手首を縛り、唇を奪う。呼吸ができない。

「既婚者なら、慣れてるんだろ?」嘲り混じりの声とともに、布地が次々と破かれていく。

「私、まだ……っ!」言いかけた声が喉で詰まる。

結婚して三年。彼女は、まだ誰のものにもなっていなかった。

けれど、それを口にしたところで、誰が信じる?

怒りが、腹の底からこみ上げた。もう、どうでもよかった。

痛みも、屈辱も。全部、燃やしてやる。

唇を噛みしめると、尖った犬歯が皮膚を裂く。血の味が、口いっぱいに広がった。

三年間、守ってきた夜を。夫のために、大切にしてきたものを。こんな形で、知らない男に奪われるなんて。

顔すら知らない、名前も知らない相手に。

……

翌朝。スマホの振動で、晚香は目を覚ました。病院からの着信だった。

『唐澤さん!すぐ帝都病院へ!お母様が――!』

背後から、低い声が落ちた。「……旦那からの『お目覚めコール』か?」昨夜の男、まだベッドにいた。

その嘲りを無視して、晚香は散らばった服を掻き集める。「昨夜のことは、忘れてください」小さくそう言い残し、俯いたまま身を翻した。

昨夜の過ちは、報復。そう言い聞かせるしかなかった。

男は半裸のまま、薄く笑った。

「思ったより奔放だな。旦那がいても外で遊んで、終われば知らん顔か」

何も言い返さず、晚香はドアを叩き開けた。母の元へ、一刻も早く行かなくては。あの男と関わる気など、もう一切なかった。

――そして、ドアが閉まる。静寂の中、秘書の佐々木直樹がノックとともに入ってきた。「加賀社長……その、昨夜の件ですが……」

加賀律真はこめかみを押さえ、深いため息を吐いた。「俺のベッドに女を放り込んだのは……婆さんか?」

佐々木は肩をすくめ、こくりと頷く。

(やっぱりな。大奥様の差し金か。)律真は舌打ちした。

帝都第一財閥の総帥にして、A国最大企業のトップ――その俺が、よりによって既婚女に『初夜』をくれてやるとはな。

昨夜、あれほど激しく抱いたのに、あの女は一度も声を上げなかった。泣きも、喘ぎもせず。……まるで、何も感じていないみたいに。「冷たい女だ」だが、不思議と記憶に残る。

朝の、あの虚ろな目。俺を見もしないで去っていった姿。

婆さんも、どこからあんな女を見つけてきたのか。

昨夜、酒にさえ酔っていなければ……

ふと、視線がシーツに落ちた。

白い布に、赤い点が散っていた。律真の眉が、僅かに動く。

(……既婚、じゃなかったのか?)

出て行く時、彼女の唇が切れて血が滲んでいた。

だが、もしも、あれが、そういう意味だったとしたら、昨夜の俺の行為は……

タクシーの車窓から、灰色の空が流れていく。

病院のロビー。そこに立つ二人の姿が、晚香の足を止めた。――皓輝と、異母妹の依奈。依奈が夫の腕に絡みつき、勝ち誇ったように笑う。

晚香の目が、充血する。「……あなたたち、いつから?」

依奈は甘えるように皓輝の肩に顔を寄せた。「あんたが結婚した、その日よ。義兄様は、私のベッドに来たの」

「三年経っても『処女』なんて、 笑えるわよね?」

依奈の甲高い笑い声が、病院の白い空間に響き渡った。

頭の中で、何かが壊れた音がした。冷水のような静けさが、晚香の心を満たしていく。

この三年間、晚香は、良妻賢母を絵に描いたように生きてきた。朝に弁当を作り、夜は夫の帰りを信じて待つ。その繰り返しの中で、彼だけを愛してきた。なのに、彼は。あの新婚の夜から、ずっと依奈と……。

結婚してから、一度も皓輝は晚香に触れなかった。「仕事が忙しいから」そう信じて疑わなかった。けれど、本当は、最初から別の女を抱いていたのだ。それも、自分の妹を。

目尻がじわりと赤く染まる。

どうして、気づかなかったんだろう。

子どもの頃から、依奈は何でも欲しがった。玩具も、服も、友達も。そして今度は――男まで奪った。

「晚香、離婚だ」皓輝の声は氷のように冷たかった。 「何も持たずに、この家から出ていけ」

心臓を、鋭い刃で抉られたようだった。

三年間、尽くしてきた結果が、これだ。

「皓輝。……私が、お金目当てだったとでも?」

彼女は金のために結婚したわけじゃない。母は名家の出で、家の資産も十分にある。少なくとも、金に困ったことなんて一度もなかった。

「まだお嬢様気取りか?」皓輝は鼻で笑った。 「お前の母親が死ねば、お前なんて乞食同然だ」

その言葉に、晚香の体がびくりと震えた。「……どういうこと?」

「病室、行ってきたら?」依奈が唇を歪める。「今なら、お母様の『最期』に間に合うかもね?」 紅く艶めいたその唇が、血のように見えた。

悪い予感が背中を突き動かす。晚香は無我夢中で病室へ駆け込んだ。

「死者、唐澤清子。手首の自傷による自殺。享年四十八歳」

医師の冷たい声が、鈍器のように頭を打った。

「……嘘、です。母はずっと意識が……混濁していたのに……自殺なんて、するはず……!」 涙が頬を伝う。

だが、医師は淡々と答えた。 「搬送されたとき、お母様は意識がはっきりしていました」

理解が、追いつかない。

十年以上も意識が混濁していた母が、なぜ、今になって?

その時、病室の入口に二つの影。皓輝と依奈が並んで立っていた。

依奈は笑いながら、一枚の紙を彼女の顔に叩きつけた。「ほら、見なさいよ。お母さんの遺書。自殺だったことも、あんたが相続を放棄するって書いてあるわ」 乾いた紙の音が、静寂を裂く。「さっきお父様から連絡があったの。――あんたは、唐澤家から追放。今日からあんたは、一文無しの乞食よ」

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