彼は私を捨てた——知らずに、財閥の娘を敵にして

彼は私を捨てた——知らずに、財閥の娘を敵にして

香月しおり

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交際して3年目、江藤志年は私に隠れて、富豪令嬢の結城安奈と結婚した。 「知意、俺は私生児なんだ。彼女と結婚すれば、やっと父に認めてもらえる」 そんな言い訳、欲望の隠れ蓑にしか聞こえなかった。 私は潔く別れを告げた。けれど彼は、私を外の光が届かない場所に閉じ込めた。 「衣食住すべて揃った暮らしなんて、お前が一生かけても得られないだろ?何が不満なんだ」 それでも足りず、彼は令嬢を喜ばせるために、私に17階の屋上から飛び降りろと命じた。 私には何の力もないと思っていた彼ら。でも、知らなかったのね——私こそが、国一の大財閥の、たった一人の後継者だなんて。

チャプター 1 結婚式での裏切り

3年目の恋愛の末、江藤志年は私を裏切り、財閥の令嬢・結城安奈と結婚した。

彼は言った。「知衣、俺は私生児だから、彼女と結婚することで父に認められ、家に戻れるんだ」

心の中で苦笑した。彼は欲望を正当化するための言い訳を並べているだけだ。

私はきっぱり別れることを選んだ。だが、江藤志年は私を金で囲われた鳥籠に閉じ込め、陽の当たらない生活を強いた。

「こんな贅沢な暮らしは、お前が一生かかっても手に入れられないものだ。何が不満なんだ?」

その後、彼は結城安奈を喜ばせるために、私を17階の屋上から飛び降りるよう強いた。

彼らは私が無力な女だと決めつけていた。だが、彼らが知らなかったのは、私こそがこの街の首富のただ一人の後継者だということだ。

______

「深澤知衣、ぼーっとしてないで、早く料理を運べ!」

マネージャーの急かす声が耳元で響いたが、深澤知衣はまるで聞こえないかのように、舞台上で指輪を交換する新郎新婦をじっと見つめていた。

結婚式場は喜びに満ちていた。本来なら彼女も拍手して祝福すべきだった。だが、どうしてもそれができない。

なぜなら、舞台上の新郎は、彼女が3年間愛し続けた恋人――江藤志年だったからだ。

そして新婦は、大学時代からの宿敵、結城安奈だった。

指輪の交換が終わると、江藤志年は結城安奈のベールをそっと持ち上げ、皆の視線の中で情熱的に、誠実にキスをした。

「生死に関わらず、一生安奈だけを愛することを誓います」

マイクを握り、片手で結城安奈の手を引き寄せた彼の眼差しには、溶けてしまいそうなほどの愛情が宿っていた。

深澤知衣はその情熱的な姿を眺め、ただただ皮肉だと感じた。

昨夜まで彼女と親密に過ごしていた男が、今日、突然別の女の永遠の伴侶になったのだ。

彼女は飛び出して彼の偽りを暴くべきだったのかもしれない。

あるいは、涙を流しながら会場をめちゃくちゃにし、なぜ自分を裏切ったのかと問い詰めるべきだったのかもしれない。

だが、足は鉛のように重く、彼女はその場に縛り付けられ、心臓が刻一刻と痛みを発するのを感じるだけだった。

祝杯を上げ、ゲストと談笑していた江藤志年は、ふと何かを感じたように、料理の受け渡し口の方を見上げた。

光とグラスの輝きの中で、二人の視線が交錯した。彼女の瞳は失望と涙に満ち、彼の目は驚きと動揺に揺れていた。

彼は思わず彼女の方へ歩き出そうとしたが、結城安奈に腕を掴まれ、引き留められた。

「志年、どこ行くの? 父があなたと話したいって。ちょうど余剰資金があるのよ。ずっと起業したかったんでしょう?」

一方は無力な深澤知衣。もう一方は長年追い求めてきた出世のチャンス。

数秒の迷いの後、江藤志年は決断した。

彼は何事もなかったかのように微笑み、優しく言った。「いや、君がお腹を空かせてるかと思ってケーキを取ろうとしただけだ。義父さんが話したいなら、そっちを優先しよう」

言葉を終えると、彼は親密に結城安奈の肩を抱き、二人でメインテーブルへと歩いて行った。

深澤知衣は目の前の現実を受け入れていたが、それでも彼の選択に心を刺されずにはいられなかった。

かつて彼女に揺るぎない愛を誓った男は、今、完全に変わってしまった……

彼女はマネージャーの声を無視し、仕事着の上着を脱ぎ捨て、賑やかな雰囲気の会場を静かに後にした。

……

深澤知衣は冷たい風に吹かれながら、目的もなく街を彷徨っていた。突然、携帯電話の通知音が鳴り響いた。

江藤志年から届いたメッセージだった。【知衣、帰ったらちゃんと説明する。俺が愛してるのは君だけだ。今日のことは全部嘘だから】

その言葉は自信に満ち、まるで彼女が誤解したかのように思わせるものだった。

だが、彼女は一瞬迷った後、彼のアイコンをタップし、ためらうことなくブロックボタンを押した。

さらに、携帯に保存されていた370枚のカップル写真も、すべて削除した。

「深澤さん、またこのウェディングドレスを見に来たんですか?」

店員の声に、彼女はハッとして周りを見回した。いつの間にか、ウェディングドレスのショーウィンドウの前に立っていたのだ。

そこにはピンクダイヤモンドがちりばめられたドレスが飾られ、価格は400万円だった。

店員が「また」と言ったのは、彼女と江藤志年が何度もこの店を訪れ、ガラス越しに未来の幸せを夢見てきたからだ。

思いは遠くへ飛んだ。あれは彼女が20歳の時。江藤家の門前で跪く江藤志年に出会った日。

その日は土砂降りの雨。髪の毛から滴る雨水が、彼の冷ややかな外見に儚い雰囲気を添えていた。

友人から聞いた話では、彼は江藤家の隠された私生児で、毎年、父・江藤宗一の誕生日に門前で跪き、孝行を示していた。

だが、宗一は一度も彼に会おうとせず、息子として認めないと公言していた。

道理で言えば、津港市首富の一人娘である彼女が、そんな人物と関わるはずはなかった。

なのに、あの日以来、彼女は抑えきれずに江藤志年を愛してしまった。

彼女は堂々と彼を追いかけ、彼の凍てついた心は少しずつ溶けていった。

付き合い始めてから、彼は1日3つの仕事を掛け持ちし、貧血で倒れるほど自分を追い込んだ。すべては彼女に誕生日プレゼントのネックレスを贈るためだった。

「俺はみじめでもいい。でも、君はそうじゃない。他の人が持ってるものは、君にも持たせたい」

彼は自らネックレスを彼女にかけ、できる限り最高のものを与えようと尽力した。

だが、父は言った。「江藤志年は一見、哀れな私生児に見えるが、内心は野心に燃えている。君にふさわしい相手じゃない」

当時の彼女は無垢で、その言葉の深い意味を理解できず、自信満々に賭けを提案した。

「私が身分を隠して彼と3年間付き合います。3年後も彼が心を変えず、私をより大切にしてくれるなら、父さん、私たちの結婚を認めてください」

娘への愛から、父は条件付きでその賭けを認めた。

そして今日、まさにその3年間の賭けの最終日。過去のすべてはまるで笑いものだった。

深澤知衣は静かに目尻の涙を拭い、父・深澤隆司に電話をかけた。

「父さん、私、負けました……」

「あなたの言う通り、家に帰って家業を継ぎます。結婚相手は父さんが決めてください。私はもう、どうでもいいです」

その言葉に、父は電話の向こうで興奮を抑えきれなかった。

「いい子だ! すぐに婿候補の宴を準備させるよ。5人の素晴らしい若者から選べるようにする。7日後に迎えに行くからな!」

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