出所した悪女は、無双する

出所した悪女は、無双する

時雨 健太

都市 | 1  チャプター/日
5.0
コメント
8.9K
クリック
390

小林美咲は佐久間家の令嬢として17年間生きてきたが、ある日突然、自分が偽物の令嬢であることを知らされる。 本物の令嬢は自らの地位を固めるため、彼女に濡れ衣を着せ陥れた。婚約者を含む佐久間家の人間は皆、本物の令嬢の味方をし、彼女を自らの手で刑務所へと送った。 本物の令嬢の身代わりとして4年間服役し出所した後、小林美咲は踵を返し、東條グループのあの放蕩無頼で道楽者の隠し子に嫁いだ。 誰もが小林美咲の人生はもう終わりだと思っていた。しかしある日、佐久間家の人間は突然気づくことになる。世界のハイエンドジュエリーブランドの創設者が小林美咲であり、トップクラスのハッカーも、予約困難なカリスマ料理人も、世界を席巻したゲームデザイナーも小林美咲であり、そしてかつて陰ながら佐久間家を支えていたのも、小林美咲だったということに。 佐久間家の当主と夫人は言う。「美咲、私たちが間違っていた。どうか戻ってきて佐久間家を救ってくれないか!」 かつて傲慢だった佐久間家の若様は人々の前で懇願する。「美咲、全部兄さんが悪かった。兄さんを許してくれないか?」 あの気品あふれる長野家の一人息子はひざまずきプロポーズする。「美咲、君がいないと、僕は生きていけないんだ」 東條幸雄は妻がとんでもない大物だと知った後、なすがままに受け入れるしかなくなり…… 他人から「堂々とヒモ生活を送っている」と罵られても、彼は笑って小林美咲の肩を抱き、こう言うのだった。「美咲、家に帰ろう」 そして後になって小林美咲は知ることになる。自分のこのヒモ旦那が、実は伝説の、あの神秘に包まれた財界のレジェンドだったとは。 そして、彼が自分に対してとっくの昔から良からぬことを企んでいたことにも……

出所した悪女は、無双する チャプター 1 出所

七月、滝川刑務所。

小林美咲は袖口を下ろし、腕の生々しい傷跡を隠した。その時だった。看守が彼女に向かって叫ぶ声が聞こえた。「小林美咲、佐久間家の者が迎えに来ているぞ!」

美咲の手が、ぴたりと止まった。

佐久間家――なんと馴染み深く、そして今は遠い響きだろう。

かつて彼女は、佐久間家の令嬢だった。

四年前、警察が突然訪ねてきて、佐久間勝政・智子夫妻の実の娘が見つかったと告げた。

一夜にして、佐久間美咲は偽物の令嬢へと成り下がった。

美咲の実の両親はすでに他界していた。佐久間家は世間体を気にして、これからも美咲を実の娘として扱うと公言した。

しかし……

それまでの十七年間、佐久間夫妻は仕事に明け暮れ、美咲に無関心だった。

だが、実の娘である佐久間美月が戻ってくると、その態度は一変。美月を掌中の珠のように扱い、甲斐甲斐しく世話を焼いた。

美月が、東條グループ傘下の最高級宝飾店『瑞梵詩』の至宝を盗み、その罪を美咲になすりつけた時、佐久間家の人間は誰一人として彼女を信じなかった。全員が美月を庇い、異口同音に美咲を犯人だと指差したのだ。

たとえ、佐久間美月の嘘がどれほど稚拙なものであっても。

瑞梵詩は、滝川市で絶大な力を持つ東條グループが経営する宝飾店。佐久間家のような家が、東條グループに逆らえるはずもなかった。

佐久間家は、養女ひとりのために東條グループを敵に回すことを恐れ、手のひらを返した。彼女は佐久間家の人間ではなく、小林家の娘だと突き放し、その手で美咲を刑務所へと送り込んだのだ。

そこまで思い返し、美咲は無意識に指をきつく握りしめていた。

佐久間美月の身代わりとして、四年。

今日が、その出所の日だった。

……

刑務所の正門前には、大勢の記者たちが詰めかけていた。

陽炎が立ち上るほどの熱波が、波のように押し寄せてくる。誰もが焦燥感を滲ませていた。

重々しい鉄の扉が、ゆっくりと開いていく。

収監された時と同じカジュアルな服装のまま、小林美咲が中から姿を現した。

佐久間夫人は彼女の姿を認めると、ぱっと顔を輝かせ、急いで駆け寄った。

その周りには、無数のマイクとカメラが群がっている。

その芝居がかった光景に、美咲は心の中で冷たく鼻を鳴らした。

「美咲、お母さんが迎えに来たわよ」 佐久間智子の目には涙が浮かび、声は嗚咽に震えている。

その痛々しい姿に、そばにいた記者たちも同情を禁じ得ないようだった。

しかし美咲は、そんな彼女を冷ややかに見つめ、言い放った。「佐久間夫人、人違いではございませんか」

智子は一瞬、虚を突かれた顔をしたが、すぐさま悲痛な表情を浮かべた。

「美咲、何を言うの? あなたは私が十数年も育てた娘よ。どんな姿になろうと、この母親があなたを間違うはずがないじゃない」

美咲の口元に、嘲りの笑みが浮かぶ。

「そうですか? ですが四年前、あなた方が私に濡れ衣を着せて刑務所に送った時、『この子は佐久間ではなく小林だ』とおっしゃいましたよね。 私はとっくに佐久間家の人間ではない。それなのに、どうしてあなたの娘だなどと言えるのですか?」

濡れ衣?

佐久間ではなく小林?

短いやり取りに含まれた衝撃的な情報に、記者たちは顔を見合わせ、次の瞬間、堰を切ったように沸き立った。

誰もが少しでも重要な情報を聞き逃すまいと、我先にとマイクを突き出す。

智子は屈辱に顔を歪めたが、大勢のメディアの前で怒りを爆発させるわけにもいかず、必死に感情を押し殺した。

その時、鋭い声が響き渡った。

「小林美咲!何をふざけたことを言っている! あの時、瑞梵詩の宝飾品はお前のバッグから見つかったんだぞ!人贓物証ともに明らかだ、何が濡れ衣だ! 四年も服役したお前を、俺たちは見捨てるどころか、こうしてわざわざ炎天下の中を迎えに来てやったんだ。それなのにその言い草はなんだ!恩を仇で返すにもほどがあるぞ!」

声の主は、佐久間家の長男――佐久間浩志だった。

美咲が十七年間、「お兄ちゃん」と呼んできた男。しかし彼は、彼女が罪を着せられた時、佐久間美月を背後にかばい、美咲を床に突き飛ばした張本人だ。

倒れ込んだ際、腕を机の角に打ち付け、肉が裂けるほどの深い傷を負った。

それが今も醜い傷跡として残っている。

あの宝飾品は……

佐久間美月が、美咲が化粧室に立った隙に、彼女のバッグにこっそり忍ばせたものだった。

あの時の美咲は、まだ美月が純粋で心優しい少女であり、自分と仲良くしたいのだと信じて疑わなかった。

だからこそ、美月が「バッグ、持っていてあげる」と申し出た時、何の警戒もせずに預けてしまったのだ。

だが、その清純な仮面の下に隠されていたのは、美咲の存在が佐久間家における自分の地位を脅かすことを恐れる、嫉妬深く悪辣な心だった。

すべては、彼女を陥れるための罠だったのである。

あの日、美咲は佐久間家の人間たちの本性を、その醜い素顔を、はっきりと見た。

そして、彼女の心は完全に死んだ。

「お姉ちゃん、きっとまだ私のことを怒っているのね。だからあんなことを……」浩志の隣で、美月が目を赤く潤ませた。

「お姉ちゃん、私、あなたから佐久間家のお嬢様という立場を奪いたくて帰ってきたわけじゃないの……だから、もう怒らないで……」

華奢な身体をか弱く震わせ、その瞳からは今にも大粒の涙がこぼれ落ちそうだ。

浩志は愛おしそうに美月の肩を抱き寄せ、慰めた。「美月、お前は何も悪くない。悪いのはこいつだ。十七年間も、本来お前のものだったはずの栄華を独り占めしてきたんだぞ! 罪を犯しておきながら反省の色もない。いっそのこと、もう数年刑務所に逆戻りさせて、根性を叩き直してもらうべきだな!」

「少し黙りなさい!」智子は息子を睨みつけ、記者たちに視線を走らせた。

これだけ多くの目が見ているのだ。自制しなければならない。

そしてメディアの方へ向き直ると、こう語りかけた。「四年間も会っていませんでしたから、美咲もまだ戸惑っているのでしょう。彼女の気持ちは理解できます。過ちを認めて更生してくれるのなら、あの子は今でも私たち佐久間家の、大切な令嬢なのです」

佐久間家の令嬢?

美咲は思わず笑いが吹き出してしまった。そして、すっと眉を吊り上げると言った。「佐久間夫人、お忘れですか?あなた方とは、とうの昔に関係を断ち切る書類に署名したはずですが。 まさか、この小林家の人間である私に、佐久間家の令嬢を名乗れとでも?」

続きを見る

時雨 健太のその他の作品

もっと見る
婚約者の双子、残酷な欺瞞

婚約者の双子、残酷な欺瞞

御曹司

5.0

婚約者には双子の弟がいた。 この一年、私がベッドを共にしてきた男は、婚約者ではなかった。 私が愛した男は、ただの役者、影武者だったと知った。 本当の婚約者、一条蓮(いちじょう れん)は、義理の妹である香織(かおり)と密かに結婚していたのだ。 彼らの計画は、単なる入れ替わりよりもずっとおぞましいものだった。 私を双子の弟と結婚させ、その後「事故」を装って私の角膜を香織に移植するという、血も涙もない計画。 私がその陰謀に気づくと、香織は私に暴行の濡れ衣を着せた。 私を守ると誓ったはずの蓮は、私が床に血を流して倒れるまで、鞭で打たせた。 そして香織は蓮の祖父を殺害し、その罪を私になすりつけた。 彼はためらうことなく、私を精神病院に放り込み、朽ち果てさせようとした。 彼は一度として、彼女の嘘を疑わなかった。 五年間愛していると言い続けた女を、いとも簡単に捨てたのだ。 でも、彼らは一つ忘れていた。 私はただの遠野詩織(とおの しおり)、無力な孤児ではない。 私は西園寺暁(さいおんじ あきら)。 巨大財閥の令嬢なのだから。 あの地獄から救い出された後、私は自分の死を偽装し、姿を消した。 そして今、私は戻ってきた。 新しい人生を、今度こそ自分のために生きるために。

「私があなたを一生養う」と誓った相手は、世界で最もミステリアスな富豪でした

「私があなたを一生養う」と誓った相手は、世界で最もミステリアスな富豪でした

都市

5.0

神崎澄玲の結婚式の日、彼女は妹と同時に水に落ちてしまった。 ところが、あろうことか婚約者は妹だけを抱き上げると、振り返りもせずに走り去ってしまった! 怒りに震えた神崎澄玲は、その場で命の恩人と電撃結婚する。 命の恩人は、無一文の自動車整備士? 構わない、私が一生彼を養ってみせる! 元婚約者が訪ねてきて言った。「俺への当てつけのために、あんな男と結婚する必要はないだろう? 今すぐ大人しく俺と戻れば、藤咲夫人の座はまだ君のものだ」 性悪な妹は偽善的に言う。「お姉さん、安心して。修司お兄様のことは私がちゃんと面倒を見るから。お姉さんは自動車整備士さんとお幸せにね」 神崎澄玲は冷笑した。「全員出ていって!私と夫の邪魔をしないで!」 誰もが彼女は正気を失ったのだと思った。名家の藤咲家を捨て、一介の自動車整備士を宝物のように大切にするなんて、と。 あの日、彼の正体が明かされるまでは。貧しいと思われた彼は、実は世界で最もミステリアスな大富豪であり、トップクラスの名家の当主だったのだ! 誰もが唖然とした。 衆人環視の中、男は稀代のダイヤモンドリングを手に、彼女の前で跪く。その瞳は優しさに満ちあふれていた。 「大富豪の奥様、今度は俺が君を一生養うよ」

おすすめ

冷遇令嬢、実は天才。婚約破棄した彼らにざまぁ!

冷遇令嬢、実は天才。婚約破棄した彼らにざまぁ!

田中 翔太

桜井陽葵は家族から愛されない「無能で醜い女」とされていた。一方、継母の娘である山口莉子は才色兼備で、間もなく名門一族の後継者・高木峻一と結婚することになり、栄華を極めていた。 人々は皆、強い者に媚びへつらい、弱い者を踏みつけた。山口莉子は特に傲慢で、「桜井陽葵、あなたは永遠に犬のように私の足元に踏みつけられるのよ!」と高らかに言い放った。 しかし、結婚式当日。人々が目にしたのは、豪華なウェディングドレスを纏い、高木家に嫁いだ桜井陽葵の姿だった。逆に山口莉子は笑いものにされる。 街中が唖然とした。なぜ!? 誰もが信じなかった。栄光の申し子・高木峻一が、無能で醜いと蔑まれた女を愛するはずがない。人々は桜井陽葵がすぐに追い出されるのを待ち続けた。 だが待てども待てども、その日が来ることはなかった。現れたのは、眩い光を放つ桜井陽葵の真の姿だった。 医薬界の女王、金融界の大物、鑑定の天才、AI界の教父――次々と明かされる正体の数々が、嘲笑していた者たちの目を眩ませた。 汐風市は騒然となった! 山口家は深く後悔し、幼なじみは態度を翻して彼女に媚びようとする。しかし桜井陽葵が返事をする前に――。 トップ財閥の後継者・高木峻一が発表したのは、桜井陽葵の美しい素顔を捉えた一枚の写真。瞬く間に彼女はSNSのトレンドを席巻したのだった!

すぐ読みます
本をダウンロード
出所した悪女は、無双する 出所した悪女は、無双する 時雨 健太 都市
“小林美咲は佐久間家の令嬢として17年間生きてきたが、ある日突然、自分が偽物の令嬢であることを知らされる。 本物の令嬢は自らの地位を固めるため、彼女に濡れ衣を着せ陥れた。婚約者を含む佐久間家の人間は皆、本物の令嬢の味方をし、彼女を自らの手で刑務所へと送った。 本物の令嬢の身代わりとして4年間服役し出所した後、小林美咲は踵を返し、東條グループのあの放蕩無頼で道楽者の隠し子に嫁いだ。 誰もが小林美咲の人生はもう終わりだと思っていた。しかしある日、佐久間家の人間は突然気づくことになる。世界のハイエンドジュエリーブランドの創設者が小林美咲であり、トップクラスのハッカーも、予約困難なカリスマ料理人も、世界を席巻したゲームデザイナーも小林美咲であり、そしてかつて陰ながら佐久間家を支えていたのも、小林美咲だったということに。 佐久間家の当主と夫人は言う。「美咲、私たちが間違っていた。どうか戻ってきて佐久間家を救ってくれないか!」 かつて傲慢だった佐久間家の若様は人々の前で懇願する。「美咲、全部兄さんが悪かった。兄さんを許してくれないか?」 あの気品あふれる長野家の一人息子はひざまずきプロポーズする。「美咲、君がいないと、僕は生きていけないんだ」 東條幸雄は妻がとんでもない大物だと知った後、なすがままに受け入れるしかなくなり…… 他人から「堂々とヒモ生活を送っている」と罵られても、彼は笑って小林美咲の肩を抱き、こう言うのだった。「美咲、家に帰ろう」 そして後になって小林美咲は知ることになる。自分のこのヒモ旦那が、実は伝説の、あの神秘に包まれた財界のレジェンドだったとは。 そして、彼が自分に対してとっくの昔から良からぬことを企んでいたことにも……”
1

チャプター 1 出所

22/09/2025

2

チャプター 2 結婚相手

22/09/2025

3

チャプター 3 再び佐久間家へ

23/09/2025

4

チャプター 4 絶縁

23/09/2025

5

チャプター 5 君を心配しているだけ

23/09/2025

6

チャプター 6 サプライズ

23/09/2025

7

チャプター 7 東條幸雄の家!

23/09/2025

8

チャプター 8 碧海ブルー

23/09/2025

9

チャプター 9 追い出して!

23/09/2025

10

チャプター 10 彼女は一体、何者なのか

23/09/2025

11

チャプター 11 前科者は甘くない

23/09/2025

12

チャプター 12 怪我の功名

23/09/2025

13

チャプター 13 誰がお前をいじめた?

23/09/2025

14

チャプター 14 まさか、パトロンがいたなんて!

23/09/2025

15

チャプター 15 致命的な一撃!

23/09/2025

16

チャプター 16 結婚を具体的に進める

23/09/2025

17

チャプター 17 君が心を込めてくれたから、とても気に入った

23/09/2025

18

チャプター 18 長野正樹との遭遇

23/09/2025

19

チャプター 19 ドMなの?

23/09/2025

20

チャプター 20 あなたが着る姿を見たい

23/09/2025

21

チャプター 21 特別なステージ

23/09/2025

22

チャプター 22 いったいどこからくる自信?

23/09/2025

23

チャプター 23 今のあなたのほうが、よっぽど哀れよ

23/09/2025

24

チャプター 24 妹の躾は、俺がする

23/09/2025

25

チャプター 25 金の問題ではない

23/09/2025

26

第26章どっちが好み?

24/09/2025

27

第27章期待は裏切らない (パート1)

25/09/2025

28

チャプター 28 期待は裏切らない (パート2)

25/09/2025

29

チャプター 29 期待は裏切らない (パート3)

25/09/2025

30

チャプター 30 美咲は酒が飲めない (パート1)

25/09/2025

31

チャプター 31 美咲は酒が飲めない (パート2)

25/09/2025

32

チャプター 32 美咲は酒が飲めない (パート3)

25/09/2025

33

チャプター 33 私たちを祝福してくれますか? (パート1)

25/09/2025

34

チャプター 34 私たちを祝福してくれますか? (パート2)

25/09/2025

35

チャプター 35 手が汚れるわ

25/09/2025

36

チャプター 36 否定せず

25/09/2025

37

チャプター 37 彼女に罪を償わせる! (パート1)

25/09/2025

38

チャプター 38 彼女に罪を償わせる! (パート2)

25/09/2025

39

チャプター 39 どうぞ、お好きに (パート1)

25/09/2025

40

チャプター 40 どうぞ、お好きに (パート2)

25/09/2025