2年間失踪していた元恋人が、今まさに付き合っている恋人の叔父という衝撃的な姿で、芳村智子の前に現れた。 人前では、宗谷颯介は他人を寄せ付けない、クールなカリスマ経営者。 しかしその裏では偽りの仮面を剥ぎ取り、彼女を永遠にベッドに縛り付けて独占しようと目論む、病的な狂人だった。 彼の異常な支配から逃れるため、芳村智子は車椅子に乗りながらも絶大な権力を握る、冷徹な男に助けを求める。 彼の権力と庇護を利用し、自由を勝ち取ろうとしたのだ。 芳村智子は当初、六条今安を優しくも非情な実業家だと思っていた。 しかし後に、自分が彼の仕掛けた罠に次々と嵌められているだけだと気づく。 六条今安もまた宗谷颯介と同類だった。彼は、いつでも彼女を丸呑みにしようと待ち構える、岸辺に潜む野獣なのだ。 彼女は三角関係から抜け出せずにいたが、ついに…… 「行かないでくれ」 宗谷颯介は目を赤く腫らし彼女の前に跪くと、すべての自由を約束し、片手で首輪を差し出した。 六条今安は彼女の腰を抱きしめ、ロープを手渡しながら、優しく囁いた。「今度は君が、俺たちを支配してくれ」 彼らは二人とも、喜んで彼女の足元にひれ伏すことを選んだのだ。
芳村智子と宗谷晴真は二年という月日を共にしていたが、彼が唐突に結婚を切り出した。今日の宗谷家当主の葬儀を機に、彼女を親族に紹介し、その立場を確固たるものにしようという算段だったのだ。
しかし、一時間ほど前のこと。葬儀に現れた一人の女を目にした途端、晴真は血相を変え、智子に「少し用ができた」とだけ告げると、慌ててその女の後を追っていってしまった。
「智子さん、あちらは他の者に任せて、晴真が休憩室にいるか見てきてちょうだい。叔父様がもうすぐお見えになるから」
姑となる紀村琴子は、息子が連れてきたこの恋人を快く思っていなかった。家柄は平凡、その上、まるで狐に化かされたような妖艶な顔立ち。玄関で客を出迎えさせるなど、家の格が下がる、と。
智子は、未来の姑の言葉に、素直に「はい」と頷いた。
ホールを抜け階段を上り、晴真の私室の扉を開ける。中は静まり返り、誰の気配もなかった。
他の場所を探そうと踵を返した、その時。浴室から漏れ聞こえる妙な音に、智子はぴたりと足を止めた。
ハイヒールを脱ぎ捨て、音を殺して半開きの扉へと近づく。
その隙間から見えたのは——二年間、愛し続けた恋人が、女の脚を担ぎ上げ、洗面台に押し付けている光景だった。浴室には、生々しい水音と嬌声が満ちていた。
「帰ってこなきゃよかった……」女は泣きじゃくりながら喘いだ。「あなたに弄ばれて、他の女と結婚するところを見せつけられるなんて……離して!」
「離さない。君が黙って消えたのが悪いんだ。もう戻らないと思って、俺は智子と付き合うことにしたんだ」 晴真は彼女を慰めるように腰を動かしながら囁く。「あいつは、ただの気晴らしの……代用品だよ」
「じゃあ、その子と別れてよ」 女は彼の首に腕を回し、潤んだ瞳で訴える。「私はもう昔の私じゃないの。六条家の娘になった今、あなたの妻になる資格があるはずよ」
晴真は、一瞬ためらった。智子と過ごした二年間は、たとえ相手が犬であったとしても情が湧くほどの時間だ。
「そんな簡単な話じゃ……」
彼が言い終わる前に、裏切られた智子は冷静にドアを押し開けた。そして、悲しみの色を浮かべた瞳で告げる。「ええ、別れてあげる」
彼女の堂々とした登場に晴真は度肝を抜かれ、女の内にあったものは見る影もなく萎んでしまう。その顔には、ありありと動揺が浮かんでいた。「……智子」
智子は、無様に絡み合う二人の裸体を一瞥し、まるで初めてこの男を見たかのような目を向けた。
みるみるうちに瞳に涙を溜め、二、三歩あとずさる。「結婚したら、あなたに私のすべてを捧げるつもりだった……なのに、二年間も愛した人が、私をただの代用品としか見ていなかったなんて」
彼女は背を向け、しかし一度だけ、感情を押し殺した声で振り返った。「ズボン、穿きなさい。叔父様がお戻りよ」
晴真は狼狽えながらズボンを穿くと、六条玲奈のスカートを雑に下ろし、後は自分で何とかしろと目で合図して、急いで智子の後を追った。
廊下で追いつき、彼女の腕を掴む。何度か口を開きかけては閉じ、やがて途方に暮れたように弁解を始めた。 「玲奈は、俺の初恋の相手なんだ。昔、本当に幸せな時を過ごした。……今もまだ彼女を愛していて、突然目の前に現れたものだから、どうかしてたんだ……」
智子は彼の手を振り払い、彼の後ろから現れた玲奈に視線を投げると、堪えていた涙を絶妙なタイミングで一筋、流してみせた。「あなたにはたくさん助けていただきました。感謝しています。でも、私の二年という貴重な時間を無駄にした今回の裏切りで……ええ、お互い、貸し借りなしにしましょう」
「智子、待ってくれ!別れるなんて思ってない!」 晴真は必死に彼女の行く手を阻む。玲奈に誘われ、彼女の身体を貪っていた時でさえ、彼の頭には智子と別れるという選択肢は微塵もなかったのだ。
「今日は、お祖父様の葬儀です。私は、まだ『あなたの恋人』を演じきります」
智子は二人を置き去りにした。そして、顔を背けた瞬間、ぴたりと感情を切り替え、涙を拭うと、口の端を微かに吊り上げた。
大学二年の時、海外から帰国した智子の生活は困窮を極めていた。学費と生活費のために昼夜を問わず働き詰めだった彼女を救ったのが、晴真だった。学費、家賃、そして塾の費用まで、すべて彼が工面してくれたのだ。
彼は智子に惜しみなく金を使い、彼女が見たこともない世界をたくさん見せてくれた。
その恩に報いるため、彼女は彼の猛アプローチを受け入れ、物分かりが良く、決して我儘を言わない恋人を演じてきた。
ただ、身体の関係だけは別だった。愛していない相手とはどうしても一線を越えられず、「結婚するまで」を口実に、二年間清い関係を保ってきた。
思えば、今回晴真が結婚を急いだのも、あまりに長く待たされ、欲求が限界に達していたからだろう。
そして今、彼の浮気によって別れに至る——これは、好都合にも智子の思惑通りだった。非は晴真にあるのだから、円満に、そして傷一つなく身を引ける。恩返しという重荷からようやく解放されたような、晴れやかな気持ちさえあった。
チャプター 1 :彼氏の浮気現場
16/10/2025
チャプター 2 :元カレが叔父に
17/10/2025
チャプター 3 叔父と呼び、他人を装う
17/10/2025
チャプター 4 叔父様の自重を願います
17/10/2025
チャプター 5 彼の腕から逃れるために
17/10/2025
チャプター 6 この家族で信じるのは、晴真だけ
17/10/2025
チャプター 7 最低!
17/10/2025
チャプター 8 俺が昂るのは、お前だけだ
17/10/2025
チャプター 9 あの男から、逃げたいだけ
17/10/2025
チャプター 10 :挑発の代償
17/10/2025
チャプター 11 お願い、放して
17/10/2025
チャプター 12 口を開け、鳴いてみせろ
17/10/2025
チャプター 13 警察を、呼びましょうか?
17/10/2025
チャプター 14 ご機嫌取りも、ここまでだ
17/10/2025
チャプター 15 ギャップ
17/10/2025
チャプター 16 :完璧な男の、隠された貌
17/10/2025
チャプター 17 あばずれを演じて
17/10/2025
チャプター 18 君のせいで、反応してしまった
17/10/2025
チャプター 19 連絡先、教えてもらえるかな?
17/10/2025
チャプター 20 六条今安の、知られざる貌
17/10/2025
チャプター 21 男に頼らなきゃ生きていけないほど、落ちぶれてない
17/10/2025
チャプター 22 条件
17/10/2025
チャプター 23 言い値で、くれてやる
17/10/2025
チャプター 24 昔は、こうじゃなかったか?
17/10/2025
チャプター 25 宗谷颯介の女
17/10/2025
チャプター 26 :ベッドで、しっかりお相手してあげるわ
17/10/2025
チャプター 27 まだ、見逃してほしいと?
17/10/2025
チャプター 28 :仕組まれた罠、地に堕ちた評判
17/10/2025
チャプター 29 彼女を陥れた者を、殴る
17/10/2025
チャプター 30 彼女が、お前に跪くと?
17/10/2025
チャプター 31 その結末を、受け止められるか?
17/10/2025
チャプター 32 お前の前で、体裁を気にしたことなどあったか?
17/10/2025
チャプター 33 フライドチキンで、ご機嫌取り
17/10/2025
チャプター 34 : お前のサイズを、俺が知らないとでも?
17/10/2025
チャプター 35 こういう時だけは、叔父様と呼ばないんだな?
17/10/2025
チャプター 36 出して!
17/10/2025
チャプター 37 君がそばにいる時だけだ
17/10/2025
第38章六条今安は平手打ちを食らった
18/10/2025
第39章:六条今安との、危うい時間
19/10/2025
第40章六条今安の、仮の住まい
今日00:03