君を奪う計画は、3年前から始まっていた

君を奪う計画は、3年前から始まっていた

月影夜

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清水瑠衣は、まるで火に飛び込む蛾のように、立川蒼空を3年間、ひたむきに愛し続けてきた。 清水瑠衣が九死に一生を得て撮影した野生動物の写真は、しかし瞬く間に、立川蒼空が新しい愛人を写真コンテストの頂点へ押し上げるための道具にされてしまう。 全てを悟った清水瑠衣。彼に愛がないのなら、自分ももう彼を必要とはしない。 離婚届を残し、自らの名誉を取り戻すと誓う清水瑠衣だったが、思いがけず元夫の宿敵から救いの手が差し伸べられる。 「僕は才能ある人を高く評価していますし、当然、あのような卑劣なやり方は許せません。 栄誉と称賛は本来、真にふさわしい人に与えられるべきものですから」 清水瑠衣はやんわりと拒絶し後ずさるが、相手はどこまでも距離を詰めてくる。 ついに彼女が逃げ場を失うまで。 「清水さん。これは単なる気まぐれではありません。……ずっと前から、あなたを狙っていたのですよ」

チャプター 1 私たち、離婚しましょう (パート1)

清水瑠衣は、手術の麻酔が抜けていく感覚の中で、重たい瞼をなんとか持ち上げた。

視界がぼやける中、少し離れた場所に置かれたテレビでは、野生動物写真コンテストの受賞結果がちょうど流れていた。

何度も死にかけながら、それでも諦めずに追い続けてきた末の吉報――本来なら胸が弾むはずだった。

だが、その喜びは一瞬で凍りついた。

受賞作の署名に映し出されたのは、陸奥陽菜の名前だった。立川蒼空が心の底から愛し続けている、あの女の名だ。

瑠衣の胸に、信じたくないという思いだけが広がっていった。

ふと、必死に撮影を続けたこの2ヶ月の間、送っても返事が一度も来なかったメッセージや、蒼空の絶えないゴシップ記事が脳裏をよぎった。

混乱するより早く、枕元のスマホが甲高く鳴り響いた。

画面には「旦那」の文字が何度も点滅している。

高熱で倒れる直前まで何度もかけ続けたのに、繋がることはなかったあの番号だ。

瑠衣は震える指で通話ボタンを押し、かすれた声を絞り出した。

『どうして……私の作品が、陸奥陽菜の名前になっているの?』

通話口の向こうからは、主と同じく凍りつくような冷たい声が響いた。蒼空の黒い瞳には、いつだって温度というものが存在しない。

『これは、君の代わりに陽菜へ償うための判断だ』

その言葉で、瑠衣の胸に抑えきれない怒りが一気にせり上がった。『何度も説明したわよ。あの時あなたを救ったのは、私だって』

『俺は、自分の目で見たものしか信じない』

蒼空の声は穏やかなのに、底が凍りついていた。

瑠衣は、冷たい水を頭から浴びせられたような衝撃に息を呑んだ。唇に浮いた笑みは苦く、胸の奥では大きな空洞が風を呼び込み、骨の奥まで冷え切っていくようだった。

彼女は深く息を吸い、静かに、しかし凍えるほど冷たい声で言った。『蒼空、この写真は私が命を懸けて撮ったもの。血の滲むような想いを込めた作品よ。陽菜に渡すなんて、絶対に許さない』

蒼空の声には、隠そうともしない軽蔑が滲んでいた。『君に母親の治療費が払えるのか?』

あまりに突然で、意味のつながらない言葉に、瑠衣はスマホを強く握りしめた。手の甲には青い筋が浮かび上がる。

『陽菜を守るために、そんなことで私を脅すの?』

『ただ教えているだけだ。君が俺に逆らう資格なんて持っていないってことを』

胸の奥に、鋭い痛みが走った。

陽菜が現れる前、蒼空はあんなに優しく、思いやりのある人だったのに。今ではもう、その面影すらない。

瑠衣は静かに口を開いた。『私たち、離婚しましょう』

蒼空の声が重く低く変わった。『瑠衣、お前の茶番に付き合う気はない』

『違う、本気だ……』

だが、その言葉が終わる前に、ツーツーツーという無機質な音が耳元で鳴り響いた。

切れた通話画面を見つめながら、瑠衣は必死に口角を上げようとした。だが、抑えきれず、苦い涙がそっと目尻を伝い、手の甲に落ちていった。

離婚する。

そして――陽菜が自分の作品で栄誉を得ることは、絶対に許さない。

瑠衣は最速で退院手続きを済ませた。

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