/0/22725/coverbig.jpg?v=f4b24a931bd8bf49805a90d5caf346ad&imageMogr2/format/webp)
【契約結婚×溺愛×純愛×本命の片想い成就×当て馬の壮絶な後悔】藤堂柚月は長年、藤堂森へ密かに焦がれ続けていた。 従順。聡明。献身。すべては藤堂森を満たすため。 養女という立場。だが、決して彼を「叔父様」とは呼ばない。いつか必ず結ばれる。その絶対的な確信。 運命の二十歳。三度目の告白を決意した矢先——藤堂森の心に棲みつく女、鈴木桜の帰国。 自らの耳で聞いた、残酷な宣告。「藤堂柚月はただの姪。愛する道理など永遠にない」 「俺の心は鈴木桜だけのものだ。藤堂柚月など、虫酸が走る」 絶望。そして決別。彼女が彼の世界から消え去った瞬間——藤堂森は、底無しの狂気に堕ちた。 再会。舞台は二階堂家・次期当主の結婚式。純白のウェディングドレス。温かく眩い微笑み。彼女は今、他人の花嫁になろうとしていた。 指先を震わせ、充血した瞳で懇願する藤堂森。「俺が愚かだった。柚月、頼む、奴の妻にならないでくれ」 藤堂柚月は、晴れやかに笑う。「叔父様、手を離していただけますか? 私の夫が、嫉妬してしまいますから」
藤堂柚月は、心を込めて選んだプレゼントを抱え、藤堂森の誕生日パーティーへ向かった。
玄関に着いた、その瞬間——中から声が漏れ聞こえてきた。
「森、鈴木桜が戻ってきた以上、これでようやく落ち着いたってことだな。 ……でもさ、家にいるあの子、気が強いだろ。もし反対されたらどうする?」
一枚のガラス越しに、薄暗い照明が揺れている。森の表情は見えない。ただ、淡々とした声だけが届いた。「ただの子どもだ。いちいち相手にする必要はない」
「柚月は確かにまだ若いけどさ……彼女がずっと君を好きだったこと、知らない奴はいないんだ。 あれだけ長い間、まったく心は動かなかったのか?」
佐藤和希のその一言に、柚月の胸がいきなりぎゅっと締めつけられた。息をするのも忘れる。
彼女もまた、知りたかった。彼は、自分に対して、果たして一度でも心を動かしたことがあったのだろうか。
リビングの中央、ソファに身を預けた男は、どこか気怠げに座っていた。全身から、成熟した大人の男の落ち着いた空気が漂っている。 彼はわずかに間を置き、低く冷たい声で言った。「……あの子が幼いのは仕方ない。だからこそ、これ以上、冗談にするな。柚月は俺にとって姪だ。それ以上でも以下でもない。俺が彼女を好きになることは、永遠にない」
——俺が彼女を好きになることは、永遠にない。
その言葉は、鋭い刃のように、容赦なく柚月の心臓を貫いた。
室内の誰も、扉の外に立つ存在には気づいていない。笑い混じりの声が、無神経に続く。「はいはいはい。森にとって一番大事なのは桜だもんな。忘れられない人ってやつだ。柚月が何人いたって、桜ひとりには敵わないさ」
森は淡々と「……ああ」とだけ応じ、続けて言った。「あとで、桜の前で柚月の話はするな。変に誤解されると困る」
「俺たちがわざわざ言わなくてもだろ」
和希は意味ありげにため息をついた。「あの子の性格だぞ。君が他の女と一緒にいるなんて、黙って許すわけがない」
「だよな」 隣にいた仲間も調子に乗って口を挟み、笑いながらからかう。「そういえばさ、柚月ももう二十歳だろ? いっそ柚月を許嫁ってことにしちまえばいいだろ。家には柚月、外には桜。あの子の立場と、お前を好きな気持ちを考えたら、拒まないはずだ」
言い終える前に、森の冷えきった視線が、その男を射抜いた。
「……ふざけたことを言うな」 低く、はっきりとした声だった。「俺は、あの子が可哀想だったから、兄に引き取らせただけだ」
「俺の心にいるのは、桜だけだ。……気持ち悪いことを言うな」
「……っ」
——その瞬間。扉の向こうで、柚月の手がドアノブを強く握りしめられた。息が、詰まる。
——そうか。自分の気持ちは、気持ち悪いものだったのだ。
さっきまで、彼女はそのまま扉を押し開けるつもりだった。けれど今は、身体から力が抜け落ちたようで、言葉ひとつ、口にする気にもなれなかった。
柚月は視線を落とし、込み上げてくる涙を必死に堪える。そして、何も言わないまま、踵を返した。
外は薄暗い通り。人影は、どこにもなかった。
その会員制のプライベートクラブは、人目につかない川沿いに建っており、“極端なまでの私密性”で知られていた。そのせいで、周囲にはタクシー一台すら見当たらない。
柚月は手にした誕生日プレゼントを強く握りしめ、足早に歩き続ける。
先ほど耳にした言葉が、ひとつひとつ、頭の中で繰り返された。
——じゃあ、自分は今まで、何を守ろうとしてきたのだろう。
柚月よ……あなたは、そんなにも卑しい人間なの?
唇の端に、かすかな苦笑が浮かぶ。気づかないうちに、涙が地面に落ちていた。音もなく、誰にも知られずに。
前方には、十字に分かれた交差点。通り過ぎる車のハイビームが、真正面から差し込み、目が焼けるように痛んだ。——その瞬間だった。柚月の指先が、ふっと力を失う。
手の中から、誕生日プレゼントが落ちた。鈍い音を立てて、アスファルトの上に転がる。
ボーナスを使って買ったカフスだった。決して安いものではない。
……けれど、もうどうでもよかった。
柚月は大きく息を吸い込み、スマートフォンを取り出す。迷いなく、一つの番号を押した。
「……二階堂宗介。前に言ってた話、受けるわ。あなたと、結婚する」
宗介は柚月より五つ年上で、かつては藤堂グループの隣に住んでいた幼なじみだった。二人は同じ時間を過ごして育ったが、彼は高校卒業と同時に海外へ渡り、帰国したのはつい最近のことだ。
宗介はいま、北城に腰を落ち着けている。時間を作って柚月に会いに来たのは、一度きりだった。そのときの会話は、ほとんどが国内の結婚事情についての愚痴だった。言葉の端々から伝わってきたのは、避けようのない“結婚への圧力”。
「柚月。俺にしても、君にしても、最後はどうせ政略結婚だ。親は、俺たちが幸せかどうかなんて気にしない。彼らにとって大事なのは、“結婚した”という事実だけなんだ」
そして、少し肩をすくめるように、こう続けた。「どうせ結婚するなら、一緒にいて楽な相手を選んだほうがいいだろ。 ……いっそ、俺たちで結婚しないか?」
そのときの柚月は、思わず笑ってしまった。あまりにも現実的で、どこか冗談めいて聞こえたからだ。
けれど今となって見ると——悪くない話だった。
柚月はふと視線を巡らせ、背後の建物を振り返る。ネオンがきらびやかに瞬いている。まるで、かつて自分が、あの人に向けて抱いていた想いのように。
「……どうせ、互いのことはよく知ってるし。他人と無理に合わせるより、ずっといいと思う」 そう言って、静かに続けた。「もし、あなたのご両親に急かされているなら……早めに話を進めてもいい」
電話の向こうで、柚月がこれほどあっさりと同意するとは予想していなかった。思わず、少しだけ黙り込んだ。二秒ほどの沈黙のあと、低く、掠れた声が返ってくる。「……わかった。いつ、迎えに行けばいい?」
柚月は視線を落とす。ちょうど足元には、地面に置かれたままのギフトバッグがあった。「インターンのことを整理してから。……そんなに時間はかからない」
宗介と結婚することを決めた以上、インターン先を海城にこだわる理由も、もうなかった。
通話を終えたあと、柚月はしばらく歩き続け、ようやくタクシーを捕まえて、南湾別荘へと戻った。
南湾別荘は市の中心部にあり、立地としては申し分ない。かつて暮らしていた家からも、五キロと離れていない。……もっとも、そこにはもう、何も残っていないのだけれど。
柚月が九歳のとき、家族の会社は倒産した。莫大な借金を背負い、両親は、揃って命を絶った。家は火に包まれ、跡形もなく焼け落ちた。
正気を失った債権者たちは、幼い柚月にまで手を伸ばそうとした。
——そのとき、彼女を連れ出したのが、森だった。
当時、彼はまだ十七歳。それでも、はっきりとした口調で藤堂明に言い切った。「俺は未成年だし、結婚もしてない。養子の手続きはできない。だから兄貴が引き取ってくれ。……柚月の将来は、俺が責任を持つ」
その言葉通り、森は約束を守った。彼女に、最良の生活を与え、十数年にわたって、変わらず大切にしてきた。過剰なほどに、丁寧に、細やかに。
ただひとつ——彼は、柚月の前では一貫して、自分を「叔父」だと名乗った。けれど柚月は、一度も、彼をそう呼んだことはなかった。
柚月はずっと、自分は森と一緒になる存在なのだと、疑いもせずに信じていた。
だから十八歳になったその日、彼女は、迷うことなく想いを告げたのだ。
だが、森は彼女を厳しく叱責した。素行がなっていないこと、年の差が大きすぎること、そして——自分はあくまで、彼女の「叔父」でしかあり得ないのだと。
そう言い切りながら——彼は同時に、柚月のそばに近づく異性を、一切許さなかった。
柚月は、それを“嫉妬”だと思った。自分がまだ幼いからだ、と。
——だったら、待っていればいい。それだけだ。大人になれば、きっと。
車窓の外を流れていく夜景を眺めながら、柚月はいつの間にか、記憶の奥へ沈んでいった。視界が、にじむ。……なるほど。成長しても、意味はなかった。
——好きじゃない、という感情は、こんなにも重たいものなのだ。
だったら。——藤堂森。
あなたを自由にしてあげる。
目的地に着くと、柚月はそっと涙を拭った。すべての感情を胸の奥に押し込み、何事もなかったかのように、部屋へ上がる。シャワーを浴び、そのままベッドに身を沈めた。
今夜は眠れないだろうと思っていた。けれど、意外にも、眠りはすぐに訪れた。翌朝。——カン、カン、と。何かがぶつかる音で、柚月は目を覚ました。
身支度を整えて階下へ降りると、キッチンからは、さらに賑やかな物音が聞こえてくる。
大きくあくびをしながら、そちらへ向かい、声をかけた。「小林さん、こんなに早くから……」
言葉の途中で、キッチンに立つ人影が、視界に入った。
白いワンピースに身を包み、ウエストには生成り色のエプロンを結んでいる。その細い腰のラインが、はっきりと浮かび上がっていた。長い髪は、バンスクリップで後ろにまとめられている。
彼女こそが……
森の忘れられない人ーー元恋人。
鈴木桜。
「柚月、起きたの?」桜は振り返り、にこやかに微笑んだ。「朝ごはんを作ってから、起こしに行こうと思ってたの。でも、思ったより早かったね」
……この騒がしさで目が覚めないほうが、よほど耳に問題がある。
柚月は胸に溜まっていた息を、ゆっくりと吐き出した。なんとか口元に笑みを作り、問いかける。「……どうして、ここに?」
桜は口元を軽く押さえ、少し照れたように言った。「昨日ね……森、飲みすぎちゃって。私が送ってきて、お風呂に入れて、着替えさせたの。あなたが一人だって聞いてたから、じゃあ、朝ごはんでも一緒にって思って」
——つまり。昨夜、二人はここに泊まった、ということだ。
柚月が必死に保っていた礼儀が、少しずつ崩れ始める。声は、わずかに低くなった。「……私は、あなたに朝ごはんを作ってもらう必要はないわ」
そのとき。背後から、冷えた男の声が落ちてきた。「柚月。そんな言い方を、誰に教わった? ……謝れ!」
鳥籠の姪を抜け出し、真実の愛に嫁ぎます
Monica Moboreader
都市
チャプター 1 俺が彼女を好きになることは、永遠にない
今日10:02
チャプター 2 大きくなるにつれて、ますます性格が悪くなったな
今日10:02
Monica Moboreaderのその他の作品
もっと見る