婚約パーティーの席で、如月詩織は渡された酒を飲み、全身に熱を帯びた。 見慣れた人影を目にし、理性を失った彼女はすがりついて口づけを求めてしまう。 しかし狂乱の一夜が明け、目を覚ました彼女は驚愕する。共に夜を過ごした男は、なんと婚約者の従兄でありパイロットの桐生彰人だった。 彼が低く蠱惑的な声で囁く中、 さらに恐ろしいことに、 ドアの外からは婚約者・桐生和臣が扉を蹴り上げる怒声が響いてきた。 ジャケットを頭から被せて彼女を脱出させた彰人は、悪魔のような条件を突きつける。「私の愛人になれ。さもなければ……桐生家が君をどう見るか想像できるか?」 詩織は歯を食いしばって承諾し、なんとか窮地から抜け出すことだけを考えた。 しかし、彰人は彼女が搭乗するフライトの機長でもあった。 上空1万メートルの休憩室で彼女の腰を掴んだ彼は、「逃げる気か?このフライトは私の支配下だ」と告げる。 彼女が屈辱に耐えるのは、亡き母が遺した会社と病に倒れた父を守るためだった。 ところが後日、婚約者の和臣が「あんな没落令嬢、ただの遊びだ。とうに飽きている」と友人に嘲笑しているのを耳にしてしまう。 さらに、和臣が彼女の義理の妹を抱き寄せ、大金を貢ぐ姿まで目撃してしまう。 詩織の心は完全に冷え切った。 こんな婚約は、もう捨ててやる。 彼女は踵を返し、より強大な権力を持つ彰人に取引を持ちかけた。「婚約破棄と会社の立て直しに協力して。そうすれば、私はあなたの思い通りになる」 男の瞳に独占欲が燃え上がる。「取引成立だ。 覚えておけ、今日から君は私だけのものだ」 この日を境に、如月詩織の人生は大きく翻弄されていく。
「……気持ちいいか?」
低く掠れた声が耳に流れ込む。痺れるような響きに、如月詩織の呼吸がわずかに乱れた。
「和臣、もうやめて……お願い」
詩織は喘ぎながら、掠れた声で懇願する。
男は意味ありげに笑った。「従弟の婚約者の望みだからな」
従弟の婚約者?
詩織は息を呑んだ。その声が、どこかおかしいことにようやく気づく。
顔を向けて相手を確かめた詩織は、愕然とした。
明るい照明が、男の端正で精悍な顔立ちを照らし出す。その下には、がっしりとした胸板と広い肩があった。
その男は、婚約者の桐生和臣ではなかった。家業を継がずにパイロットになった、和臣の従兄――桐生彰人だ!
「どうして、あなたが……」
彼女は全身を強張らせ、震える手で彼を突き放そうとした。
だが、震える手が男の熱い胸に触れた途端、彰人はたやすくその手首を掴み、上から体を押し付けてきた。
詩織は唇をきつく噛み締め、口の中に血の味が広がった。
あの酒を飲んだ直後から体がおかしくなり、個室から出てきた「和臣」の姿を見て、朦朧としたまま彼に抱きついてしまったのだ。まさか、それが彼の従兄だったとは!
「あなただなんて、知らなかった!」
掠れた声で、目を真っ赤にしながら叫ぶ。「私の声でわかったはずよ。なのに、どうして手を出したの!」
彰人は薄く笑い、大きな手で彼女の顎を掴んだ。悪びれもせずに言う。「記憶違いじゃなければ、おまえが呼んだのは『ダーリン』だったよな」
「それに、こっちが口を開く前にキスをせがんで、好き放題触ってきたんだろ。前から俺を狙っていたんじゃないって、どうして分かる?」
詩織は怒りに全身をわななかせ、大粒の涙をこぼしながら、手を振り上げた。 彼の頬を叩くために。
「このケダモノ……!警察を呼んでやる!絶対に許さないんだから!」
だが、その手が振り下ろされる前に、彰人は彼女の手首を掴んで下に押さえつけた。
「警察を呼ぶのは構わない。廊下の防犯カメラを見れば、おまえが自分の意思で入ってきたのは明らかだ。俺が無理やりしたと立証するのは難しいだろうな」
彼の目は嘲るように細められ、荒れた指の腹が彼女の唇をなぞる。「だが警察が来たらどうなる?俺の従弟は、自分の従兄を誘惑するような婚約者を欲しがるだろうか。その時、あいつがおまえの実家――如月家の面倒を見ると思うか?」
詩織の顔から血の気が引いた。
彰人の言葉が嘘でないことは痛いほどわかっていた。だが、このまま泣き寝入りするしかないのだろうか?
和臣と婚約して三年になるが、二人はまだ体の関係を持っていなかった。
それに、最近会社の経営が悪化し、資金繰りは火の車だった。父は契約詐欺で訴えられ、多額の資金援助がなければ立て直せない状況だ。
このタイミングで和臣に知られれば、実家が破産し、父が刑務所に入るのを、ただ見ていることしかできなくなる。
母はもういない。母が遺した大切なものを壊すわけにはいかないし、父まで失うわけにはいかなかった。
さんざん葛藤した末、詩織は口に広がる血の味を無理やり飲み込み、掠れた声で言った。「わかりました……では桐生さん、このことは、なかったことにしてください。これっきり、お互い関わらないということで」
そう言い放つと、彼女は冷たい顔で彼を突き放し、服を着ようと身を起こした。
だが、その時だった。外から足音が聞こえてきた。
「なあ、桐生さん、あんな綺麗な婚約者がいて、よく結婚しないでいられるな?」
和臣の、少し酔って呂律の回らない声が聞こえてきた。「面白いか? 婚約してもう長いんだぞ。誰だって飽きるだろ。おまけに実家は破産寸前だ。爺さんがうるさくて、俺が不実だと思われるのが嫌だから付き合ってるだけで、本当は相手するのも面倒なんだよ」
「じゃあ、抱いてから捨てりゃいいじゃないか。 あんな極上、他の男にくれてやるのか?」
彼らは個室に誰かいるとは気づかず、傍若無人に会話を続けている。
詩織の体は、その言葉にこわばった。
(やはり自分の考えていた通りだった。和臣は……もう、私のことなんて好きじゃなかったんだ。)
彼女はきつく拳を握った。今すぐ飛び出して彼の頬を張ってやりたかったが、そんな勇気はなかった。
自分自身も過ちを犯した後だ。見つかれば、もっと立場が悪くなる。
桐生グループからの発注でなんとか持ちこたえているが、それがなければ会社はとっくに潰れている。和臣の婚約者という立場を失えば、如月家は終わりだ!
胸に突き刺さる痛みに耐えながら、彼らが去るのを待ってからそっと出ようとした。だが、外の男が煙草に火をつけた。
その匂いが流れ込んできて、彼女はむせて激しく咳き込んでしまった。
外で話していた二人が、ぴたりと静まる。しばらくして、和臣のためらいがちな声が聞こえた。「……詩織か?」
シートベルトをお締めください。俺の愛から逃げられないように
Rabbit4
都市
チャプター 1 締めつけて
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チャプター 2 婚約者
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チャプター 3 呼び出し
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チャプター 4 診察
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チャプター 5 誰といる
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チャプター 6 誰との電話
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チャプター 7 近づかないで
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チャプター 8 助けて
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チャプター 9 事故
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チャプター 10 俺と結婚しろ
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チャプター 11 黙認
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チャプター 12 こっちを向いて座れ
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チャプター 13 どうした、嫌なのか?
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チャプター 14 もう、時間がないみたいだな
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チャプター 15 俺が求めたら、拒むな
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チャプター 16 私が何を嫉妬したっていうの?
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チャプター 17 誰が行っていいと言った
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チャプター 18 さあ、契約を履行してもらう番だ
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チャプター 19 いい子だ
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チャプター 20 こっちへ
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チャプター 21 そんなに臆病か?
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チャプター 22 なぜ隠れる
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チャプター 23 服を上げて、息を楽に
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チャプター 24 知らない一面
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チャプター 25 ここではだめ
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チャプター 26 それでこそ、いい子だ
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チャプター 27 嫁を探せ
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チャプター 28 夫殺し?
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チャプター 29 なぜ避ける?
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チャプター 30 壁に押し付けて
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チャプター 31 彼に隠れてホスト遊び?
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チャプター 32 楽しかったか?
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チャプター 33 ごめんなさいの一言で済むとでも?
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チャプター 34 この廊下は如月さん専用とは書いていなかったようだが?
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チャプター 35 今日はいやに素直じゃないか
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チャプター 36 やきもちか?
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チャプター 37 どっちもろくでなし
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