Login to 蒼海本棚
icon 0
icon チャージ
rightIcon
icon 閲覧履歴
rightIcon
icon ログアウトします
rightIcon
icon 検索
rightIcon
春はあけぼの

春はあけぼの

水戸けい

4.0
コメント
286
クリック
60

在位二年目を迎えようとしていた領主・宗明は、酒色に溺れ女色に浸ったと、弟に想いを寄せる妻であり国主の愛娘である佳枝に進言され、それを真に受けた国主によって退位させられる。 無益な争いはしたくない、と宗明は噂どおりに見えるよう、用意された隠居屋敷に身分問わず美麗な女を迎えるよう通達する。 そんな中、生活に窮していた春吉家族は、姉の園が美貌であったことから宗明の屋敷へ迎えてもらおうとする。 見分に来た宗明は春吉に心奪われ、家族全員を召し抱え、姉の園のふりをさせて春吉を寝所へ呼ぶ。 春吉も、惑いながらも宗明に惹かれている自分を自覚し…………

チャプター 1 口惜しゅうござりまする

拳で床を叩く音が、乾いた部屋に響く。その拳の持ち主が戦慄いているのを、樋后宗明は遠い景色のような面持ちで眺めていた。

「このようなことが、赦されて良いものか」

呻くように一人ごちる相手に、宗明は細い息を吐き出した。

「赦されるも何も、そうなってしまったからには、致し方あるまい」

「ですがッ! 口惜しゅうござりまする」

歯が折れてしまいそうなほど食いしばっている相手に、苦い顔を向ける。神坂領主となって在位二年目を迎えようとしていた折、現領主の性癖は荒廃しておる故、弟である成明を領主とせよ、と国主、味多義明よりの通達が届いたのだ。

「ここで拒めば、兄弟の要らざる争いを行わねばならん。領主の地位など、私は惜しくはない。それよりも、醜いお家騒動が起こることのほうが、好まぬ」

「――宗明様」

通達の後、ほとんどの者が弟の成明に鞍替えをした。当人ではなく、家に仕えている者たちであればそれも当然であり、致し方のないことだと認識している宗明と違い、目の前に居る男――羽方隆敏はそれを赦せぬらしい。急な通達と、他の者たちの所業。それに対する憤りをぶつける場所がなく、隆敏は床に拳を打ちつけ、歯を食いしばっている。

「それに、私は隆敏がそうやってくれているだけで、十分だ」

心底、そう思っていた。

「宗明様」

頷いて見せ、朗らかに頬を上げる。

「通達には、この俺が酒色におぼれ、女色に浸っているとある。成明は豪奢な隠居屋敷を用意すると申しておるし、お主と二人で、その通りに動くのも悪くはあるまい」

続きを見る

おすすめ

新しい始まり

新しい始まり

恋愛

5.0

エデン・マクブライドは、いつも規則ばかり守ってきた。しかし、結婚式の1ヶ月前に婚約者に裏切られたことを機に、エデンはルールに従うことをやめた。傷ついた彼女に、セラピストはリバウンドとして、新しい恋を始めることをすすめた。そしてそれが今の彼女にとって必要なことだとか。ロックユニオンで最大の物流会社の後継者であるリアム・アンダーソンは、まさに完璧なリバウンド相手である。同じ女性と3ヶ月以上付き合ったことがないことから、大衆紙に「3ヶ月王子」と呼ばれているリアムは、エデンとワンナイトラブを経験しても、彼女が自分にとってセフレ以上の存在になるとは思っていなかった。しかし目覚めたとき、お気に入りのデニムシャツと一緒に彼女がいなくなっているのを見て、リアムは苛立ちを感じながらも、妙に興味をそそられた。喜んで彼のベッドを離れた女性も、彼から何かを盗んだ女性も、今の今までいやしなかった。だがエデンはその両方をしたのだ。彼は彼女を見つけ出し、必ずその説明をさせると心に決めた。しかし、500万人以上の人口を抱えるこの街で、一人の人間を見つけることは、宝くじに当たるのと同じくらい不可能なことだった。しかし二年後、やっと運命の再会が迎えられたとき、エデンはもはやリアムのベッドに飛び込んだときのような純真な少女ではなく、今では何としても守らなければならない秘密もできていたようだ。一方、リアムはエデンが自分から盗んだものーーもちろん、デニムシャツだけではないーーをすべて取り戻そうと決意した。

舞台の女神さま!

舞台の女神さま!

恋愛

5.0

主人公の松本梓〈高校1年〉は出来たばかりの演劇部に所属しており主役をこなしていたため常に生徒からの憧れ的な存在だった。 そんなさいたま学院で毎月自主公演を行うたびにファンクラブができるほどのスター的な存在だ。 だがそんな彼女にも大きな悩みがあった。それは過去に壮絶ないじめを受けて男性に触ることもできない恐怖症と同性愛だ。過去のトラウマから誰にも相談できずに一人で悩み苦しんでいた そんな梓の事を独占しようとするさいたま学院の生徒会長、城ケ崎茜〈高校2年〉に目を付けられ、禁断の関係を求められる。 しかし茜の父親は大手銀行の社長で学院に多額の融資をしており、更に梓の父親は銀行の営業部長でもある。弱みを握られている梓は茜には逆らえず、演劇部の活動の為にいつも気持ちを殺して〈偽りの愛〉を受け入れていた。 そんな中、10月に行われる全国高等学校演劇大会の地区予選の案内が発表された。 かつて梓が小学4年の時にいじめ問題を解決するために奮闘した、小学校時代の恩師でもあり、恋心を抱いていた青井春香先生はさいたま学院演劇部のエースで全国制覇を有望視されていたほどだった。 梓が所属するさいたま学院演劇部は1年前に設立された部だが、かつて全国大会に出場するほどの強豪校だった。だがある一人の部員が起こしてしまった傷害事件のせいで全国大会辞退を迫られた過去がある。 更によき理解者の春香先生は梓をイジメていた生徒へ手をあげてしまったせいでPTAや学校から精神的に追い込まれて自殺をしてしまった。 遂に地区大会へ始動しようと動き出す弱小演劇部だったが肝心の脚本を書く人材がいなかった。 そんなある日、同じクラスに春香先生に似ている女子生徒でラノベコンテストの新人賞を受賞した妹の〈青井美咲〉が転校をしてきたため運命的な出会いを果たす事が出来、皆が全国大会出場を目標に動き出そうとした時に茜率いる生徒会による陰謀が動き出したのだった。

すぐ読みます
本をダウンロード
春はあけぼの
1

チャプター 1 口惜しゅうござりまする

10/07/2021

2

チャプター 2 「よし、では領内に通達をせよ」

11/07/2021

3

チャプター 3 「何かの罠やもしれません」

12/07/2021

4

チャプター 4 「なんとも、厄介なことだ」

13/07/2021

5

チャプター 5 「否やとは、言えまい」

14/07/2021

6

チャプター 6 自分が、女であれば。

15/07/2021

7

チャプター 7 「俺は、いろいろなものを知らなかったらしいな」

16/07/2021

8

チャプター 8 「まったく、息が詰まってかなわん」

17/07/2021

9

チャプター 9 「そういう態には、なっているだろう」

18/07/2021

10

チャプター 10 「何を、言っている」

19/07/2021

11

チャプター 11 「兄上とは、何度会った」

20/07/2021

12

チャプター 12 変化は、怒涛のようにやってくる。

21/07/2021

13

チャプター 13 「では、行ってまいります」

22/07/2021

14

チャプター 14 「顔を、見せよ。こちらに参れ」

23/07/2021

15

チャプター 15 触れて、欲しかったんだ。

24/07/2021

16

チャプター 16 「このように、沢山溢れさせて」

25/07/2021

17

チャプター 17 「なれば――その口で、奉仕せよ」

26/07/2021

18

チャプター 18 今度は宗明が春吉を含んだ。

27/07/2021

19

チャプター 19 「いささか、御執心が過ぎるかと」

28/07/2021

20

チャプター 20 その声は、夜明け前の闇よりももっと、暗く重かった。

29/07/2021

21

チャプター 21 下世話な顔が間近にあった。

30/07/2021

22

チャプター 22 膝を寄せて声を潜めた光正の息がかかる。

31/07/2021

23

チャプター 23 好色な笑みを向けられた。

01/08/2021

24

チャプター 24 代わり身、なのだろうか。

02/08/2021

25

チャプター 25 「もう、日が暮れるな」

03/08/2021

26

チャプター 26 身を強張らせた隆敏が平伏した。

04/08/2021

27

チャプター 27 彼の心を求めていることを、自覚している。

05/08/2021

28

チャプター 28 「すぐに、兄上を連れていけ」

06/08/2021

29

チャプター 29 「私も、望みのためだけに動けるのなら」

07/08/2021

30

チャプター 30 隆敏が眉間に皺を寄せた。

08/08/2021

31

チャプター 31 「宗明様はいずこか」

09/08/2021

32

チャプター 32 「それで、春吉はどう思ったの」

10/08/2021

33

チャプター 33 「何があっても、宗明様の側に居たいんだ」

11/08/2021

34

チャプター 34 ならば、そのためだけに、行動をすればいい。

12/08/2021

35

チャプター 35 「無事だったかぁ」

13/08/2021

36

チャプター 36 「姉さん、僕、屋敷を抜け出すよ」

14/08/2021

37

チャプター 37 光正の言葉に、春吉は記憶を探る。

15/08/2021

38

チャプター 38 「あぁ、もう、知らぬぞっ」

16/08/2021

39

チャプター 39 呟いてみても、応える者は居ない。

17/08/2021

40

チャプター 40 「いったい、その格好は――」

18/08/2021