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僕が彼女と初めて出会ったのは、梅雨の走り、小雨まじりの午後だった。
僕の所属する物理化学部の部室に彼女は一人でやって来た。誰かに呼ばれていると後輩に言われ、慌てて戸口に立つと、そこにはボサボサの長い前髪のすき間から、ギョロリとした黒目がちの瞳で俺を見上げる一風変わった女の子が立っていた。
背はそれほど高くない。夏服に変わったばかりの制服からのぞく手足はとても細く、肌は随分と日焼けして浅黒い。とてもとても失礼な言い方になるけど、彼女を見て最初に連想したのは名古屋名物「鶏の手羽先唐揚げ」だった。
「あの」
その瞬間、僕は思わず息を飲んだ。僕のへんてこな妄想を一瞬で振り払うほど、その声は涼やかだった。
「岸田先輩から紹介されて来ました」
「……ああ」
なんとなく見えてきた。
岸田先輩は学外で他校の生徒と組んでバンド活動もしている吹奏楽部の三年生(イケメン)だ。うちの部長(ブサメン)と同じクラスで妙に仲がよく、前に依頼されてバンドのMVを撮影したことがある。というか、部費獲得の手段として、本人の知らないうちに部長に売られたというか。
「岸田先輩、撮影のセンスがいいってすごくあなたのことを褒めてて、今度のことも手伝ってもらえないか聞いてこいって言われて……」
その瞬間、扉の向こうに張り付いて僕らのやり取りに耳をそばだてていたらしい部員連中のため息が聞こえた。まさか告白でもされるとでも思ったのか?
(残念でした。こんなメガネの陰キャに誰が好き好んで……)
「うちの部、今年が創部四十周年なんです。それで、秋の定期演奏会の来場記念に会場で特典映像を配ることになりました」
「なるほど、それで?」
「はい、毎日の練習風景から、春の定期演奏会、そして今年の吹奏楽コンクール地区大会までのビデオクリップを――」
「僕に撮影しろと?」
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