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冷酷な医師の夫に棄てられて

冷酷な医師の夫に棄てられて

霧島藍(Kirishima Ai)
5.0

誰もが知っていた。彼は一流の婦人科医でありながら、女には一切近づかないことで。 どれだけ若く瑞々しい身体が目の前にあろうと、視線ひとつ上げることはなかった。 私はずっと自分だけは特別だと思い込んでいた。けれど、共に過ごした10年の間、彼は私に触れることを許さなかった。 私の指先が偶然に衣の端へ触れただけでも、 返ってくるのは冷たく硬い一言――「規律を守れ」。 またしても彼の寝床に近づこうとして拒まれたその夜、彼は私の前に10人の男を並べ、順に私を抱かせた。 その後、私は泣きながら彼を責め、拳で叩いた。けれど彼の声はただ平板だった。 「いつまでも未亡人のようにさせるわけにはいかないだろう」 11度目、彼に用意された男が私を押し倒したとき、私は狂ったように睡眠薬を200錠飲み干した。 次に目を覚ましたとき、彼は初めて私の触れ方を受け入れた。 私はそれをきっかけに、少しずつ心を溶かせると信じた。 だが翌日、彼の所有する別荘で、私は彼がある女を腕に抱き、 髪に口づける姿を目にしてしまう。その眼差しには、私が一度も見たことのない熱が宿っていた。 問いただす私に、彼は冷ややかに言い放った。 「彼女はお前とは違う。汚れた下心なんて持っていないし、男を誘惑することもない」 私は唇を強く噛みしめ、血の味が広がるまで堪えた。 「……もういい。私たちは終わりにしましょう」

彼女は娘を連れて去り、元夫は狂気に沈む

彼女は娘を連れて去り、元夫は狂気に沈む

遠空青(Tōzora Ao)
5.0

彼を追い続けて8年目、彼女は酒に酔った勢いで彼と一夜を共にした。 やがて身ごもったことで、彼はようやく結婚を承諾する。 彼女は「ついに自分の想いが届いた」と信じた。だが結婚初日、母親は彼の姪に車で轢かれて命を落とす。 翌日には、父親の命を盾に取られ、泣く泣く告訴を取り下げるよう迫られる。 その瞬間、彼女は悟った。――彼が本当に愛していたのは、ずっとその姪だったのだと。 姪に殴られて病院送りにされれば、彼は和解書にサインさせようとする。姪が父の酸素チューブを引き抜けば、彼は彼女に土下座して謝罪させようとする。 言うことを聞かなければ、すぐに離婚を口にした。 彼は思っていた。妊娠した彼女は決して自分から離れられない、と。 しかし、それは大きな誤算だった。 彼女は子を産み、娘を連れて彼の宿敵のもとへ嫁いでしまう。 その時になって初めて、彼は狂ったように悔やむ。冷徹で傲慢だった男は、地に膝をつき、哀願する。「お願いだ……もう一度、俺を見てくれ。命を賭して償うから」 けれど彼女は娘の手を引き、背を向けたまま一瞥すら与えなかった。 「――だったら、死ねばいい」