末期がんと、義兄への秘愛

末期がんと、義兄への秘愛

Gavin

5.0
コメント
クリック
14

末期の膵臓がんと診断された日, 私は愛する義兄が大手製薬会社の令嬢と婚約したことを知った. 六年前, 母の再婚によって, かつての恋人だった黒川潤一は私の義兄になった. 彼は, 私の母が彼の家庭を壊したと信じ込み, 私を憎み続けている. 彼は私の病気を知らず, 妊娠していると誤解し, 「その腹の子を堕ろせ. お前のような女に吐き気がする」と冷たく言い放った. 私は彼への愛を抱きしめたまま, 誰にも看取られず, 一人で死んでいった. しかし, 私の死後, 親友の口からすべての誤解が解き明かされる. 潤一は, 私が彼を愛し続け, 彼の子供を一人で産もうとしていたこと, そして病に苦しみながら亡くなったことを知る. なぜ, 愛し合ったはずの二人が, ここまで憎しみ合わなければならなかったのか. 彼の絶望的な後悔と贖罪の物語が, 今, 始まる.

第1章

末期の膵臓がんと診断された日, 私は愛する義兄が大手製薬会社の令嬢と婚約したことを知った.

六年前, 母の再婚によって, かつての恋人だった黒川潤一は私の義兄になった. 彼は, 私の母が彼の家庭を壊したと信じ込み, 私を憎み続けている.

彼は私の病気を知らず, 妊娠していると誤解し, 「その腹の子を堕ろせ. お前のような女に吐き気がする」と冷たく言い放った.

私は彼への愛を抱きしめたまま, 誰にも看取られず, 一人で死んでいった.

しかし, 私の死後, 親友の口からすべての誤解が解き明かされる. 潤一は, 私が彼を愛し続け, 彼の子供を一人で産もうとしていたこと, そして病に苦しみながら亡くなったことを知る.

なぜ, 愛し合ったはずの二人が, ここまで憎しみ合わなければならなかったのか.

彼の絶望的な後悔と贖罪の物語が, 今, 始まる.

第1章

玲子 POV:

末期膵臓がんと診断され, 余命宣告を受けたその日, 私は愛する義兄が, 大手製薬会社の令嬢と婚約したと知った. 私の残された時間は, 彼への愛を抱きしめるには短すぎた.

医者の言葉は, まるで冷たいナイフのように私の心臓を貫いた. 『末期の膵臓がん, 余命は…そう長くはありません』.

世界が一瞬で白黒に変わった. 私の頭は, その事実を処理しきれずに, ただただ痛みに震えていた.

黒川潤一. かつての恋人であり, 今は私の義兄.

私たちの関係は, 母と彼の父の再婚によって, たった一夜にして歪んでしまった.

あれから六年. 愛しい記憶は埃を被り, その上には憎しみと冷酷さが降り積もっていた.

黒川家に入ってからの日々は, 常に嵐の中を歩くようだった.

潤一の瞳には常に私への軽蔑と怒りが宿り, それが私の母にも向けられていると感じていた.

私は, この家庭の中で, まるで不要な異物のように感じていた.

潤一が鍋島凛々子と婚約したというニュースが, 私の凍りついた心にさらに冷たい水を浴びせた.

製薬会社の令嬢. まさか…彼が本当に.

私は急いでタクシーを拾い, 震える手で住所を告げた. 一刻も早く, 彼の元へ行きたかった.

家に着くと, 私は迷わず潤一の書斎へと向かった.

そこは, 普段なら私が入ることを許されない, 彼の聖域だった. ドアノブを握る手が, 汗で滑る.

心臓が, まるで喉元まで跳ね上がってくるようだった.

ドアを開けると, 彼は書類の山に囲まれて座っていた.

顔を上げ, 私を見ると, その瞳に冷たい光が宿った.

「潤一さん, あの, 鍋島さんとの婚約の件…本当なの? 」私の声は, ひどく震えていた.

「ああ, そのことか」彼は冷笑し, ペンを置いた. 「そんなこと, わざわざ私に確認しに来るようなことか? お前には関係ないだろう. 」

彼の声は, まるで氷のようだった. 私の期待は, 音を立てて砕け散る.

「まったく, お前は何を考えているんだ」彼は立ち上がり, 私に近づいてきた. 「相変わらず愚かな女だな. 」

彼の言葉が, 私の胸に突き刺さる. 息が詰まる.

「私の人生を, これ以上邪魔するな」彼の声は低く, 脅迫的だった. 「お前の母が私の家庭を壊したように, 今度は, お前が私の幸せを壊そうとしているのか? 」

彼の言葉が, 私の全身を硬直させた. 私はその場に立ち尽くし, 何も言えなかった. 彼の憎悪が, 私を飲み込もうとしていた.

喉がカラカラに乾き, 言葉が出てこない. 反論したいのに, 唇が震えるばかりで, 何の音も発せられない.

私は, いつも彼の前では無力だった.

この六年, 彼が私に向けてきた冷たい視線や突き放すような態度. それは, 単なる義兄としての距離感ではなかった.

深い, 根源的な憎しみが, ずっと彼の心に巣食っていたのだと, 今, はっきりと理解した.

「そんなこと…」私は無理に笑ってみせた. 頬の筋肉が, 引きつるように痛む. 「私は, ただ…」

苦しい言い訳は, 彼の前では通用しない.

私自身, 本当に彼のことを心配しているのか, それとも, ただ彼の幸せを妬んでいるだけなのか.

その感情の複雑さに, 私は自分でも混乱していた.

もう, 彼との間に希望はない. あの純粋な恋の日々は, 完全に過去のものとなってしまった.

それは, 私にとって, 死の宣告と同じくらい重い現実だった.

「でも, 潤一さん, 鍋島さんは…あなたに本当にふさわしい人なの? 彼女は, その, 少し…」

私は言葉を選んだ. 彼の婚約者についての悪い噂を, 彼に伝えるべきか, 迷った. しかし, 心の奥底で彼には本当に良い相手と結ばれてほしいと願っていた. 彼が, 私のような不幸な存在と関わることで, さらに不幸になるのは見ていられなかった.

「お前のような底辺の女に, 私の婚約者の品定などできるはずがないだろう」彼はあざけり笑った. 「身の程を知れ, 古川玲子. 」

「お前と彼女では, 立つ場所が違う. 住む世界が違うんだ. 」彼の言葉は, 私の心を深くえぐった.

彼の瞳は, 私をゴミを見るような軽蔑に満ちていた. その視線が, 私の全身を焼き尽くすようだった.

彼はゆっくりと椅子から立ち上がった. 窓から差し込む夕日が, 彼の鋭い輪郭を逆光で浮かび上がらせる.

その表情は, 影に隠れてはっきりとは見えない. しかし, 彼の全身から放たれる冷たいオーラは, 私を凍りつかせた.

「いいか, 古川玲子. お前はもうこの家の人間ではない. 私の家族の事情に口を出す権利など, お前には一切ないんだ. 」

「私は…私は, この家の財産なんて, 何も求めていません! ただ…」私は必死に訴えようとした.

しかし, 彼は私の言葉を聞き流し, 背を向けたまま, 書斎のドアに向かって歩き始めた.

ドアノブに手をかけ, 彼は迷いなく部屋を出て行こうとした.

「お兄, ちゃん…! 」私の口から, 思わず, この六年一度も口にしたことのない呼び名が漏れた.

その言葉に, 彼の背中がびくっと震え, 彼は凄まじい勢いで私の方を振り返った.

その瞳は, 獲物を睨みつける獣のように凶悪だった.

「今, 何と言った? 」低い声が, 部屋いっぱいに響き渡る. 「誰がお前の兄だ? 二度と, その汚い口で私をそう呼ぶな! 」

私と母がこの家にやってきてから, 彼は私を「兄」と呼ぶことを許さなかった.

彼の母親が家を出ていったのは, 私の母のせいだと, 彼は今でも信じている. その誤解が, 私たちをここまで引き裂いたのだ.

彼はずっと私を憎んでいた. 愛しいはずの私を, 彼の人生を狂わせた元凶として, ずっと憎み続けていたのだ.

私がどんなに困難な状況にあっても, 彼が一度たりとも私に手を差し伸べなかった理由. それは, 愛ではなく, 憎悪だったのだ.

確かに, 私は彼の前で, 一度も「お兄ちゃん」と呼んだことはなかった. 彼に嫌われるのが怖くて, その距離を保ってきたのに.

「ごめんなさい…でも, 私…」私の声は, 哀願するように細くなった.

心臓が, まるでガラスのように砕け散る感覚に襲われた. 体中の細胞が, 悲鳴を上げているようだった.

「その呼び名には, 吐き気がする」彼は嫌悪感を露わにした. 「親子関係はともかく, 私とお前は, 永遠に赤の他人だ. それだけは, 絶対に忘れるな! 」

彼の言葉が, 私の頭の中で木霊する. 目の前が真っ暗になり, 平衡感覚を失った.

足元がおぼつかなくなり, 私はそのまま床に倒れ込んだ. 冷たい大理石の床が, 私の頬に凍えるような感触を与えた.

「また芝居か」彼は冷たく吐き捨てた. 「お前のそういう, わざとらしい態度には, もううんざりだ. 」

「もう我慢の限界だ. そんなに苦しいなら, 自分で死んでしまえ. それが一番, 手っ取り早いだろう. 」

彼は私のことなど気にも留めず, 冷たい視線を残して, 書斎から去っていった. ドアが静かに閉まる音が, 私の心臓に鉛の塊を落としたようだった.

私は震える腕で床を支え, ゆっくりと体を起こした. 全身が鉛のように重い.

鼻の奥から, ツンと鉄の匂いがした. そっと指で触れると, べっとりとした血が, 指先に付着していた.

手のひらに付いた血が, 私の視界を赤く染める. 目の前がぼやけて, 世界が歪む.

末期がん. 体は, もう限界だった. 彼の冷たい言葉は, 私の命をさらに削り取っていく.

あと少し, ほんの少しでいいから, 彼からの温かい言葉が欲しかった. 彼が私を気遣ってくれる, たった一言でも良いから.

膝から力が抜け, 私は再び冷たい床に崩れ落ちた. もう, これ以上立つ気力もなかった.

手のひらの血を, 必死に服で拭おうとする. しかし, 血は止まらない.

拭いても拭いても, 鼻からは赤い液体がとめどなく流れ出る. 止まらない. 私の体は, もう私の言うことを聞かない.

私はその場に座り込み, 膝を抱え込んだ. 全身が震え, どうすることもできない.

声も出せずに, ただ, 涙だけがとめどなく溢れ出した. 頬を伝う涙は, 血の味と混じり合った.

なぜ, こんなにも私だけが苦しまなければならないのだろう. 神様は, 私に一体何を望んでいるの?

愛し合ったはずの二人が, こんなにも憎しみ合うなんて. この愛は, 一体どこで道を間違えてしまったのだろうか.

余命いくばくもないという現実. そして, 愛する人からの, 心臓を抉られるような言葉.

私は, もう何も感じたくなかった.

足元がふらつくまま, 私は書斎を出た. 廊下に出ると, ぼんやりとした光が, 私の目を刺した.

「玲子, 大丈夫? 潤一さんと, 何かあったの? 」母が心配そうな顔で, リビングのドアの向こうから私を見ていた.

彼女の顔には, 私を待っていた焦りがはっきりと見て取れた.

続きを見る

Gavinのその他の作品

もっと見る

おすすめ

あなたとではない、私の結婚式

あなたとではない、私の結婚式

Gavin
5.0

五年前、私は軽井沢の雪山で、婚約者の命を救った。その時の滑落事故で、私の視界には一生消えない障害が残った。視界の端が揺らめき、霞んで見えるこの症状は、自分の完璧な視力と引き換えに彼を選んだあの日のことを、絶えず私に思い出させる。 彼がその代償に払ってくれたのは、私への裏切りだった。親友の愛理が「寒いのは嫌」と文句を言ったからという、ただそれだけの理由で、私たちの思い出の場所である軽井沢での結婚式を、独断で沖縄に変更したのだ。私の犠牲を「お涙頂戴の安っぽい感傷」と切り捨てる彼の声を、私は聞いてしまった。そして彼が、私のウェディングドレスの値段にケチをつけた一方で、愛理には五百万円もするドレスを買い与える瞬間も。 結婚式当日、彼は祭壇の前で待つ私を置き去りにした。タイミングよく「パニック発作」を起こした愛理のもとへ駆けつけるために。彼は私が許すと信じきっていた。いつだって、そうだったから。 私の犠牲は、彼にとって愛の贈り物なんかじゃなかった。私を永遠に服従させるための、絶対的な契約書だったのだ。 だから、誰もいない沖縄の式場からようやく彼が電話をかけてきた時、私は彼に教会の鐘の音と、雪山を吹き抜ける風の音をたっぷりと聞かせてから、こう言った。 「これから、私の結婚式が始まるの」 「でも、相手はあなたじゃない」

すぐ読みます
本をダウンロード