結婚して3年、夫の上杉大晴は、初恋の相手・白石蓮音に狂っていた。 私が交通事故に遭い、妊娠2ヶ月で大出血し、生死の境をさまよったあの日—— 病院の血液は、すべて夫によって蓮音のもとへ回された。 医師が「奥様と赤ちゃんの命が危ない」と食い下がっても、彼は冷たく言い放った。 「蓮音の安全を最優先しろ」 その電話の向こうで、命を繋ごうとしていたのが私だとは、彼は知らなかった。 私の子は、実の父親に——知らぬままに——命を断たれた。 絶望の果て、私は密かに綴ってきた『訣別の日記』を、ついに最後の頁まで書き終えた。 離婚届を机に置き、私は彼を捨てて大阪へ向かった。 ——これからは、自分の人生を生きる。
結婚して3年、夫の上杉大晴は、初恋の相手・白石蓮音に狂っていた。
私が交通事故に遭い、妊娠2ヶ月で大出血し、生死の境をさまよったあの日——
病院の血液は、すべて夫によって蓮音のもとへ回された。
医師が「奥様と赤ちゃんの命が危ない」と食い下がっても、彼は冷たく言い放った。
「蓮音の安全を最優先しろ」
その電話の向こうで、命を繋ごうとしていたのが私だとは、彼は知らなかった。
私の子は、実の父親に——知らぬままに——命を断たれた。
絶望の果て、私は密かに綴ってきた『訣別の日記』を、ついに最後の頁まで書き終えた。
離婚届を机に置き、私は彼を捨てて大阪へ向かった。
——これからは、自分の人生を生きる。
第1章
―― 川端花純 ――
夫は初恋の相手を追いかけ、私と子を殺した。訣別の日記は、まもなく最後の一頁を迎える。
結婚して3年目、夫である上杉大晴は、私、川端花純を愛していなかった。私の無償の愛を当たり前のように受け取り、初恋の相手である白石蓮音に夢中だった。私はその絶望の中で、密かに「訣別の日記」をつけていた。彼への想いを綴るためのものではない。私がこの結婚を終わらせる日まで、心がもつように——そう願って始めた、失望の記録だった。一頁、また一頁と、彼の裏切りを書き留めるたび、私の心は少しずつ冷えていった。
ある日、その日記をソファに置き忘れた。大晴が帰宅し、それを見つけた。しかし、彼はそのノートを拾い上げることすらなかった。ちらりと一瞥しただけだった。彼にとってそれは、ただの紙くずだった。
彼は私に言った。
「かすみ、俺の書斎には私物を置かないでくれ。」
彼の書斎。そこには蓮音との思い出の品が溢れていた。初デートの映画の半券、初めてプレゼントしたネックレス、蓮音が描いた絵画。すべてが大切に飾られていた。私自身の私物など、そこに置く余地はなかった。置く資格もないと、彼は無言で語っていた。
私は気づいていた。大晴は私の存在を完全に無視している。しかし、彼は私たち夫婦の関係が、いつ破綻してもおかしくない状態にあることなど、夢にも思っていないだろう。それは、私にとって皮肉であり、同時に悲しい事実だった。私は日記を握りしめた。これ以上、この婚姻関係を続けることはできない。
その日の夜、大晴の携帯電話が鳴った。緊急の電話だった。蓮音が事故に巻き込まれたという内容だった。大晴の顔色が一瞬で変わった。彼は血相を変え、急いで家を飛び出した。
私は彼の後を追った。彼が蓮音のためにどれだけ狂っているのか、この目で確かめたかった。事故現場はひどい状態だった。崩れた建物の瓦礫が散乱し、煙が立ち込めていた。大晴は危険を顧みず、瓦礫の中に突進しようとした。周りの人々が彼を止めようと叫んだ。
「上杉さん! やめてください! 危険です! あなたの将来にも関わります!」
しかし、大晴は彼らの言葉を聞き入れなかった。
「蓮音のためなら、すべてを捨てる!」
彼は叫んだ。その声には、狂気にも似た愛情が込められていた。
私はその場に立ち尽くした。周りの人々の話が聞こえてきた。
「上杉さんは昔から白石さんに執着していたからな。」
「次期社長の座まで捨てて、あの人のレストランの支配人になったんだろ?」
私はその会話を聞き、ようやく理解した。彼の初恋。それは、私が想像していたよりもはるかに深く、彼の中で生き続けていた。私はずっと彼の愛を信じていた。それらすべてが、蓮音への執着から来るものだったと知った。私の胸が締め付けられた。呼吸が苦しくなった。吐き気が込み上げてきた。
大晴は瓦礫の中から蓮音を救い出した。しかし、自身も負傷し、その場で倒れてしまった。救急隊員たちが駆けつけ、彼らを病院に搬送した。
私は、私たちの初めての出会いを思い出した。大学のキャンパスで、偶然ぶつかり合ったあの日。彼が私にプロポーズしてくれたときの言葉。
「かすみ、君と結婚したい。」
あの時の彼の瞳は、私にだけ向けられていると信じていた。しかし、今思えば、あのプロポーズも蓮音との関係が絡んでいたのかもしれない。
私は、彼が蓮音を深く愛していることを知りながらも、諦めきれずにいた。いつか、彼が私を見てくれる日が来るはずだと、日記に希望を託していた。しかし、失望の記録は増える一方だった。彼の無関心、蓮音への偏愛、そして私の存在の軽視。この日記が最後の一頁に辿り着く時、私の結婚生活も終わる。その時が、もうすぐそこまで来ていた。
私はまだ知らなかった。彼の無関心が、やがて私の命そのものを奪うことになるとは。
蓮音の安全を最優先しろ——そう言って、あなたは私たちの子を救わなかった
漆黒蓮
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