代々名医を輩出する一族の後継者だった彼女は、思いがけず宰相家の嫡長女に転生してしまう。母を早くに亡くし、父からも愛されない娘だった。 しかも転生したその日、侯爵夫人の命を狙った犯人に仕立て上げられてしまう。 絶体絶命の窮地を覆し、どうにか身の潔白を証明した彼女。 これで苦難は終わったと思ったが、その先には底知れぬ深淵が待ち受けていた。 宰相家の嫡女でありながら、周囲は敵ばかり。誰もが彼女を踏みにじる。 父は娘の生死にさえ関心を示さず、継母や妹たちは彼女をいたぶって楽しんでいる。ろくでなしの許婚は、彼女を踏み台に出世することしか頭にない。母を同じくする実の弟まで、身内を裏切ってよそに味方する始末だ。 ならば、こちらも黙ってはいない。許婚に立ち向かい、継母を痛い目に遭わせ、弟や妹たちにもきっちり灸を据える。 向かうところ敵なしの勢いで悪党どもを懲らしめていた彼女は、いつの間にか戦王殿下に目をつけられていた。 彼女が悪事を働けば、彼が見張りに立つ。彼女が人を殺そうとすれば、彼が埋める穴を掘る。 とうとうたまりかねて、彼女は尋ねた。「戦王殿下、私がこの理不尽な世を滅ぼしたいと言っても、お力を貸してくださるのですか?」 彼は少しもひるまずに答えた。「お前さえそばにいるのなら、天下とて、お前にくれてやれる」
「おのれ、この毒婦め、まだ息があったか!妻の仇、今度こそ斬り殺してくれる!」
蘇青璃(スー・チンリー)は目を開けたばかりで事態も呑み込めないうちに、中年の男が傍らの護衛から剣を引き抜いて斬りかかってくるのを見た。反射的に身をかわす。
(どういうこと?私は死んだはずじゃないの? ここはどこ?この人たちは誰なの?)
その時、無数の記憶が脳裏へなだれ込み、蘇青璃は頭が割れるような激痛に襲われた。
やがて彼女はようやく自分の置かれた状況を把握した。まだ生きている。だが元の世界ではなく、天元王朝という見知らぬ場所にいるのだ!
しかも、自分と同姓同名の蘇青璃ーー宰相とその正妻の間に生まれた長女の体に生まれ変わっていた!
もっとも、生きているとはいえ、死にかけているも同然の状況だが!
蘇青璃は妹の蘇青玉(スー・チンユー)と共に、慶陽侯夫人の誕生日の宴に招かれていた。
慶陽侯夫人は蘇青璃をたいそう可愛がっており、彼女だけを自室に招き入れた。ところが、蘇青璃が退室した直後、夫人が毒を盛られて死んでいるのが見つかったのだ。
そのため、蘇青璃が殺人犯に仕立て上げられてしまった!
愛妻が蘇青璃に毒殺されたと知った慶陽侯は、その場にあった花瓶で、この体の元の持ち主をあの世へ送ったのである!
事の次第を理解した蘇青璃は、慶陽侯の一撃をかわすと、その腕をねじり上げて長剣を奪い取り、刃を彼の首筋に突きつけた!
「侯爵様!」
「近づくんじゃないわ!」 蘇青璃は袖で顔の血を拭い去った。「一歩でも前に出てごらんなさい、あんたたちの主人の命はないわよ!」
「お姉様、慶陽侯夫人を毒殺しただけでも大罪ですのに、慶陽侯様まで人質に取るなんて!」 桃色の華やかな絹の裾を引く蘇青玉が、険しい声でなじった。「一族全員を道連れにして死ななければ気が済まないの?」
「黙りなさい!」蘇青璃は一喝した。「私は誰も殺していないわ!」
「お前が妻の部屋から出てきた直後に、妻は毒殺されていたのだぞ!お前ではなくて誰が殺したというのだ!」慶陽侯が怒鳴り返す。
「慶陽侯、私があなたの夫人を殺して、何の得があるというの?」
蘇青璃は問い返した。「この慶陽侯府の財宝が手に入るわけでもなければ、侯爵夫人の座に収まれるわけでもないでしょう?」
慶陽侯は一瞬言葉に詰まった。「お、おそらく妻の言動が気に障り、腹を立てて毒を盛ったに違いない!」
「夫人はいつも私にとても良くしてくださったわ。害する理由なんてどこにもない!」
「ええい、苦しい言い逃れを!」
「お姉様、どうかお願いですから、これ以上無茶をするのはやめて、早く侯爵様を解放してあげて」 蘇青玉は姉を思う妹の顔を作って訴えた。「ご自分のことはどうでもよくても、蘇家のことを考えてちょうだい。これ以上、罪を重ねないで」
「侯爵様、夫人を殺したのは本当に私ではありません」 蘇青璃は気持ちを落ち着かせた。「けれど、夫人は私を可愛がってくださいました。真犯人をこのまま野放しにはいたしません」
「お前がその犯人なのだ!」慶陽侯は頑として吠えた。
「侯爵様、私に3時辰だけ時間をください。もし犯人を見つけられなければ、その時はどのように処分されても構いません」(注記:時辰=昔の中国の時間の単位。1時辰は約2時間)
「犯人を捜すだなんて真っ赤な嘘よ!時間を稼いで逃げるつもりでしょう!」 侯爵府の筆頭侍女である絮児(シューアル)が憎々しげに叫んだ。「うちの奥様を殺したばかりか、侯爵様まで人質に取るなんて、陛下が必ず蘇家の罪をお裁きになるわ!」
「蘇青璃、今すぐおとなしく縄につけば、蘇家の者にまで責任を問うつもりはない。そうでなければ……」慶陽侯は奥歯を噛みしめた。たかが小娘に捕まるとは、なんという恥辱だ!
蘇青璃は慶陽侯を人質に取ったまま周囲と睨み合った。慶陽侯は聞く耳を持たず、蘇青玉は自分がここで死ぬのを今か今かと待ち望んでいる。これほど大勢の人がいながら、味方になってくれる者は誰一人いないというのか?
ふと、蘇青璃の視線が少し離れた東屋に座る人物に留まった。
黒い錦の衣をまとったその男は、全身から人を寄せつけない冷気を放っていた。だが何より彼女の目を引いたのは、その美しい紫色の瞳だった。
私の悪事に手を貸すのは、私にひたすら甘い戦王様!
Rabbit4
歴史
チャプター 1 第1話 彼女が犯人だ
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チャプター 2 第2話 戦王・墨雲霆(モー・ユンティン)
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チャプター 3 第3話 手がかり
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チャプター 4 第4話 犯人は誰?
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チャプター 5 第5話 完璧な計画のほころび
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チャプター 6 第6話 どう報いるか
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チャプター 7 第7話 呂夫人の言いがかり
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チャプター 8 第8話 救援を求めて
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チャプター 9 第9話 婚約破棄
今日10:21
チャプター 10 第10話 疑念
今日10:21
チャプター 11 第11話 趙王世子への書
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チャプター 12 第12話 罪を問う
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チャプター 13 第13話 趙太妃の追及
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チャプター 14 第14話 ご要望通りに
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チャプター 15 第15話 10着分の弁償
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チャプター 16 第16話 祝福されない者
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チャプター 17 第17話 芽生える疑念
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チャプター 18 第18話 戒め
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チャプター 19 第19話 千糸纏
今日10:21
チャプター 20 第20話 狐の巣窟の白兎
今日10:21
チャプター 21 第21話 皇室に父子の情なし
今日10:21
チャプター 22 第22話 宝物庫に忍び込んだ盗賊
今日10:21
チャプター 23 第23話 贈られた薬
今日10:21
チャプター 24 第24話 落花生と蓮の実
今日10:21
チャプター 25 第25話 柳夫人
今日10:21
チャプター 26 第26話 処罰
今日10:21
チャプター 27 第27話 利益を得る者
今日10:21
チャプター 28 第28話 父娘の探り合い
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チャプター 29 第29話 柳夫人の病
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チャプター 30 第30話 蘇青璃(スー・チンリー)は蘇青璃ではない
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チャプター 31 第31話 腹の底の企み
今日10:21
チャプター 32 第32話 下心ある旧友
今日10:21
チャプター 33 第33話 目上への反逆
今日10:21
チャプター 34 第34話 殿下、お待ちください
今日10:21
チャプター 35 第35話 身内の裏切り者
今日10:21
チャプター 36 第36話 仇を母と慕う愚か者
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チャプター 37 第37話 亀裂を生む言葉
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チャプター 38 第38話 暗に込められた棘
今日10:21
チャプター 39 第39話 新たな毒計
今日10:21
チャプター 40 第40話 人を利用して討つ計略
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