時空を越えた邵元元を待っていたのは、重傷を負い、精神にも変調をきたした「戦神」と称えられる将軍との結婚だった。 陰謀や策略に翻弄される暮らしは望まない。自由を手にするため、彼と手を組むことにした元元。 商会を興し、医術で人々を救い、非凡な才を発揮していく。 やがて彼女は、将軍にとってこの上なく頼もしい存在となった。 ところが、いざとなると将軍は約束を守ってくれない。 離縁してくれるという話は、いったいどこへ?
「このあばずれ!いつもその顔で男をたぶらかすのが大好きだったでしょう? ちょうどいいじゃない、妓楼に入れたんだから。これからは相手をしきれないほどの男に、さばききれないほどの客がつくわよ……」
狂ったように鞭が体を打ちすえる。耳元では、知らないはずなのにどこか聞き覚えのある声が、得意げに甲高く笑っていた。邵元元(シャオ・ユエンユエン)は激痛に冷や汗を噴き出し、はっと目を開けた。
だが目の前の光景がはっきり見えた途端、凍りついた。
目に入ったのは、古風な彫刻が施された木の寝台と、けばけばしい桃色の薄絹の帳。香炉からは、むせ返るほど甘ったるい香りが漂っている……
ーーここはどこ? 国際医学フォーラムに向かう途中、飛行機事故で死んだはずじゃなかったの?
考える間もなく、鞭がまた嵐のように降りそそいだ。
少し離れたところに立つ淡い桃色の衣の女が、ころころと得意げに笑いながら鞭を振りかぶり、彼女めがけて容赦なく叩きつけてきた。
「妹のあたしを恨まないでよ。恨むなら自分の卑しい運命を恨みなさい。取り柄ひとつない役立たずのくせに、正妻の娘というだけで、何年も偉そうにして。男に騙されて妓楼に売られるのがお似合いよ!」
頭が割れそうに痛む。それでも鞭が振り下ろされるのを見た瞬間、邵元元の目つきが鋭くなった。
彼女は鞭をつかむと、巧みに力を込めて引いた。相手はそのまま引きずられ、床に倒れ込んだ。
「きゃあっ!」
桃色の衣の女は床に転がり、痛い痛いとわめいた。
邵元元は冷たく笑い、手首を返して鞭を奪い取った。
女は憎しみに満ちた顔で怒鳴った。「このあばずれ!あたしに手を上げるなんて――きゃあっ!」
邵元元は問答無用で鞭を振り下ろした。狙いすました一撃が、容赦なく女の口を打った。
「口の利き方を母親に教わらなかったようね。今日は私が教えてあげる!」
「ピシッ、ピシッ、ピシッ!」
続けざまに鞭が飛び、女の皮膚は裂けて肉がのぞいた。
女は痛みに床をのたうち回り、あっという間に顔も体も目を覆いたくなるような鞭の痕だらけになった。それでも邵元元は手を止めようとしなかった。
ひとつには自分の怒りをぶつけるため。もうひとつは、この体の元の持ち主の恨みを晴らすためだった。
つい先ほど、元の持ち主の記憶が流れ込んできた。それで初めて知ったのだ。自分が武朝の工部侍郎家の、冷遇された嫡女に生まれ変わってしまったことを。
実の母は早くに亡くなり、父は冷淡で、父の側室は意地が悪かった。少女は幼い頃から辛酸をなめ尽くし、屋敷では犬にも劣る暮らしを強いられてきた。
年頃になると、父は彼女を、もはや死にかけている威武将軍のもとへ、病気平癒を願う婚礼の花嫁として嫁がせようとした。
絶望した元の持ち主は、ろくでもない男の言葉を信じて駆け落ちし、そのまま妓楼に売り飛ばされた。
最後になってようやく知ったのは、すべてが父の側室が産んだ妹、邵嘉儀(シャオ・ジャーイー)とその男の仕組んだ罠だったということだ。
妓楼に売るだけでは飽き足らず、さらに辱め、痛めつけようとしたのだ。
元の持ち主が死の間際に抱いた、すべての望みが絶たれた絶望が、邵元元の心にも重くのしかかった。
「誰か!早く来て!」
「このあばずれを縛り上げなさい!八つ裂きにしてやるわ!」
床に転がって悲鳴を上げていた邵嘉儀が、うろたえながら怒鳴った。
外で見張っていた護衛たちがようやく物音に気づき、勢いよく飛び込んできた。
邵元元は目つきを鋭くすると、鞭を投げ捨て、邵嘉儀の髪をわしづかみにして窓辺へ引きずっていった。
「きゃあ!何するつもり!放して!」邵嘉儀は慌ててもがいた。
邵元元が窓を押し開けると、その下には緑の湖が広がっていた。彼女は冷たく笑った。「何をするかって? 決まってるでしょう、頭を冷やさせてあげるのよ!」
邵嘉儀が何か反応する前に、彼女はその体を持ち上げ、窓の外へ放り投げた。
「きゃあああ!助けて!」
「ドボン――」
飛び込んできた護衛たちは大慌てだった。「早く助けろ!」
その騒ぎに紛れて、邵元元もこっそり抜け出した。背後から、邵嘉儀の豚を絞めるような金切り声が響く。「このあばずれ、あばずれ! あの女を捕まえなさい!八つ裂きにしてやる!」
だが邵元元が怡紅院を出るより早く、出口は人に塞がれてしまった。
離縁するなら死ぬだなんて、将軍様は卑怯すぎます
Rabbit4
歴史
チャプター 1 第1話 妓楼に売られて
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チャプター 2 第2話 逃げ道を塞がれて
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チャプター 3 第3話 奇妙な男
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チャプター 4 第4話 取引の申し出
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チャプター 5 第5話 こんな理不尽はごめんだ
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チャプター 6 第6話 庶妹をしつける
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チャプター 7 第7話 まさかあなたが
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チャプター 8 第8話 離縁の合意書がほしい
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チャプター 9 第9話 抱きついて眠る
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チャプター 10 第10話 姑を手玉に取る
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チャプター 11 第11話 疑い
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チャプター 12 第12話 対決
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チャプター 13 第13話 私をご存じ?
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チャプター 14 第14話 一族の長老への挨拶
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チャプター 15 第15話 当主の座を譲れと
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チャプター 16 第16話 ここぞとばかりに
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チャプター 17 第17話 屋敷に押しかけて
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チャプター 18 第18話 嫁を差し出せ
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チャプター 19 第19話 この機に人を送り込む
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チャプター 20 第20話 一つの屋敷に2人の主
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チャプター 21 第21話 盗まれた鍵
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チャプター 22 第22話 自分の家で、何が盗みか
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チャプター 23 第23話 あなたのためなのです
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チャプター 24 第24話 お宅の秘宝をいただきたいのです
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チャプター 25 第25話 人を驚かす腕前
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チャプター 26 第26話 大旦那様との鉢合わせ
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チャプター 27 第27話 害意
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チャプター 28 第28話 害しているのはあなたです!
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チャプター 29 第29話 賭けをしましょう
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チャプター 30 第30話 命の恩人
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チャプター 31 第31話 露見
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チャプター 32 第32話 仕返しが怖くて
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チャプター 33 第33話 嫁入り道具の検め
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チャプター 34 第34話 嫁入り道具の差し引き
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チャプター 35 第35話 平妻
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チャプター 36 第36話 全員追い出して
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チャプター 37 第37話 陽動の一手
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チャプター 38 第38話 将軍がいなくても私がいる
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チャプター 39 第39話 軍営に女は要らぬ
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チャプター 40 第40話 叔父の擁護
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