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第2章怖いもの知らず
文字数:3631    |    更新日時:09/02/2021

「ジャック…ちょっと寒いわ」 ローズは魅惑的な甘い微笑と声で、ジャックの中の獣に呼びかけた。 彼女は、どんな理性的な男性でも抵抗できないと思わせる柔らかく甘い声を持っていた。

それを証明するかのように、ジャックはすぐにローズの腰を抱え「そうだな。車の中で暖まらないとな」といそいそと車に乗り込んだ。

ジャックにとって、セックスは食事をするのと同じ。当たり前で、日常のことで、生活の一部であった。

しかし、彼の最もお気に入りの女性はエミリーだ。 ジャックは前々からエミリーを抱きたくてたまらなかったが、エミリーには無理強いしないよう、ジャックの理性を総動員して徐々に攻めて落とした。

彼は、攻めるよりもエミリーに身を任せてほしかったからだ。

……

ジャックとエミリーの交際は3年ほどだったが、エミリーは身も心もジャックに捧げていたといっても過言ではなかった。 そんなエミリーだ。信じて疑わなかった恋人のジャックと親友だと信じていたローズの2人から、しかも同時に裏切られるとは。エミリーはただただ震えるばかりだった。 ぼんやりと、エミリーの足はバーに向っていた。酒以外、何にこの悲しみを溺れさせればよいというのか。

時刻はすでに 午前2時だった。 エミリーは完全に酔った状態で、1人、バーから出てきた。ハイヒールを脱いで片方ずつ手に持ち、 道をフラフラと素足で歩いていた。

ギラギラとした明めの車のヘッドライトがエミリーを照らした。エミリーはその場に立ち止まった。 ただただ、ぼうっと黒いマイバッハが自分 に向かって走ってくるのを見ていた。

「痛い!」マイバッハがエミリーの目の前で止まると、エミリーはフラフラと倒れた。

一方、マイバッハの車内では、急ブレーキの衝撃で、目を閉じて休んでいた後部座席の人物の身体が大きく前後し、 不満そうに眉間にしわを寄せつつ目を開いた。 後部座席の男性は、車を運転していたサムに厳しい視線を送った。サムとは後部座席に座る人物の運転手兼個人秘書だった。

「どうかしたのか?」

「ヤコブ様…」 と、サムは答えつつ、額からは玉のような汗が滴っていた。 「どこからともなく車の前に人が…それで私は急ブレーキを踏んでしまいました」サムは続けた。 「私は確かにその人を轢いてはおりません! きっとゆすりでしょう…」

「降りて確認してきなさい」

「はい、 ヤコブ様」

サムはすぐに車から降りて車の前を確認した。 車の前でサムが目にしたのは、街灯に照らされ横たわる美しい女性だった。 恐る恐るサムが近づいてみると、その女性の吐く息から強いアルコールを感じた。 とりあえずゆすりではないということはわかった。

「おい、お嬢 さん!起きなさい!」

サムが車の前に倒れている女性をゆすると、顔がちょうど街灯に照らされた。サムは大きなショックを受けた。

その泥酔している女性は、ジャックお坊ちゃまの ガールフレンドのエミリー・バイではありませんか! どうしてエミリーがここに、しかもこんな状態でいるのか。 サムの頭の中は「?」でいっぱいだった。

運転していたのが安全運転を心掛けているサムでよかった。もしこれが他の誰かだったならば、 エミリーは車で轢かれていたかもしれない。

サムは自発的な行動を慎んでいたので、 急いで後部座席に座る自分のボスに指示を仰ぐために車へ戻った。 「ヤコブ様、お車の前に倒れられているのはエミリー様でございます。ジャック様のガールフレンド、 エミリー・バイ様です。 かなり、いえ、非常に酩酊されてらっしゃいます」

サムのその言葉にヤコブ・グーの目が大きく開いた。 ヤコブはエミリーを思い出した。ジャックが以前、自宅に連れて来た女性だということを。 ヤコブの中では、エミリーは愛らしい笑顔をする素敵な女性と記憶されていた。 一寸の間を置き、ヤコブは「彼女を車に乗せなさい」とサムに指示を出し、サムはすぐさまエミリーを抱き上げて車で運んだ。

車内に寝かせられたエミリーは、座席の限られた空間のなかで身体が自由に動かない不快感を感じていた。

それからエミリーは何かをつぶやき、目を開け、自分の横に座り、眉間に皺を寄せ ている男性をぼんやりと見つめていた。 「あなたは…誰?」エミリーは尋ねた。

横に座る男性は無表情で彼女を見ている。

少しずつ頭の中がハッキリとしてきたエミリーは眉毛をあげて目を開いた。そしてついに隣の男性が誰であるかを知った。 「ヤ…ヤ…コブ? …ヤコブさん。 あなたでしたか…」

ヤコブはエミリーを無視し、

サムにジャックの家に向かうように伝えた。 「ジャックのところは勘弁してください!私、彼とは別れたので!」 エミリーの言葉には怒りが感じられた。

「別れた?」 ヤコブはポツリその言葉を繰り返し、クイッと眉を上げた。

「はい。私たちは別れました..」 エミリーは鼻をすすった。 頭の中では、その日エミリーに起こったことが初めから再生されていた。と、ともに次から次へと、ポロポロ、ポロポロとエミリーの目から涙がとめどなく流れた。 エミリーはもう気持ちが抑えられなかった。「彼、ジャックは別の女性と一緒に寝ていたのです。セックスです。 浮気です。そして、売春防止法違反で警察に逮捕され事情聴取を受けていたのです」

エミリーは小学生が先生にクラスメイトの悪事を告げ口する優等生のような口調でヤコブに事の経緯を説明した。

ひと通りエミリーの説明を聞き終えたヤコブは、 その細めの切れ長の目を細めた。 ― 売春だと?ジャックには灸を据えたはずが、足らなかったらしいな。― ヤコブは考えた。

実はヤコブとジャックには血縁関係がなかった。だから遠慮がちになったのか、ヤコブはジャックに躾というか、世間一般の常識を教えてはこなかった。 ジャックが”売春”などの犯罪に手を染めてグー一族の名に泥を塗るようなことをしない限り、ヤコブは彼の女遊びには目をつぶってきた。

「ヤコブさん。あなたがジャックに常識を教えなければなりません!」

エミリーの口調に怒りが増したことを感じたヤコブは、意図的に彼女を無視し続けた。 逆にエミリーは自分の言っていることが聞こえないと思い、ヤコブに近づいた。 「ヤコブさん!私の声、聞こえていますか?」エミリーはヤコブの襟元をギュッと掴み、ヤコブの顔を自分に近づけて訴えた。

そんなエミリーを鬱陶しく思ったヤコブは彼女を押しのけた。するとバランスを崩したエミリー。顔がヤコブの股間にすっぽりはまってしまった。

興奮してヤコブにジャックについて訴えていたエミリーだ。おのずと、彼女の荒い口呼吸は車内にアルコール香りを、ズボンと下着の2枚の生地の先にあるヤコブの股間に温かさを広げた。

ヤコブは不意を突かれた。

「あなたは彼に世の常識というものを教えるべきですわ…」 エミリーの話し方は柔らかく、声は魅力的だった。そんなエミリーに心を奪われ、心をかき乱されない男性などいないのではないかと思わせるほどに。

「私は君には最初に『常識』を教えるべきだな」 ヤコブはエミリーの耳元で「さぁ、顔をあげて」と囁いた。

エミリーは彼の車の車内で彼を誘惑したというのか?! エミリーは意図して彼の股間に顔をうずめたのか?

「私はジャックがひどい男性だと言っているんです!そしてあなたも…あなたも悪い人に違いない!…世界中、男はみんなアホなの?…」 エミリーは 言った。 エミリーはヤコブに寄りかかり、 まっすぐ進行方向に向かって座わろうとはしなかった。 まるで駄々っ子な女の子のように。

こういう状況下でなければ、エミリーがヤコブと面と向かうことすらなかったことだろう。なぜなら、彼の無慈悲な面を知っていたから。 しかしこの時は、酔った勢いで、後先など考えることもなく、エミリーは頭に浮かんだことを次から次へとヤコブにぶつけていた。

「ジャックは、恋人以外の女性と寝ることに慣れろ、と私に言ったの!そんな非常識なアホをねじ伏せてみなさいよ!ジャックを!」 エミリーの怒りの矛先が、 ジャックではなくヤコブに切り替わった。

「きっとあなたもジャックと同じなのね。あなたの場合、あなた自身がCEOですものね。サッカースタジアムを埋め尽くすほどの女性たち、しかもみんなあたなに夢中な女性たちに囲まれているのでしょうね…」

ヤコブの我慢の限界が近づいてきていた。徐々に彼の顔色が変わってきた。 ほとほと、ヤコブは酔った女性を上手にあしらう事がいかに難しいかを痛感していた。ヤコブがエミリーを押しのける。エミリーはヤコブにもたれかかる。また押しのける。またもたれかかる。そんな押し問答のようなすえに、エミリーはヤコブにガムのようにベッタリしがみついた。 エミリーはヤコブにガムのようにベッタリしがみついた。 羞恥心も酔いとともに飛んで行ったらしい。

エミリーの暴走はそこで止まらなかった。 彼女は手を伸ばしてヤコブの方に腕をまわした。 「ヤコブ。あなた、腎臓病を患っていませんか?そうでしょ?」 エミリーはいやらしい笑みを浮かべていた。

そのひと言がヤコブの箍を外すこととなる。 今、エミリーは彼のプライドと男らしさを軽く見ていた。 ヤコブの我慢は抑えきれないところに達していた。

しかし、エミリーは恐れることなく、微笑みながらヤコブの瞳をのぞき込んでいた。 本来エミリーが持つ美しく魅惑的な瞳は、今は腫れてはいるが、それでも吸い込まれるように魅力的で、月明かりの下でダイヤモンドのようなまばゆい輝きを放っていた。 ヤコブの目に映るエミリーは、すごく愛おしい存在として舞っていた。

言葉を発するたびに動くエミリーの瑞々しい薄紅色の唇は、情熱的なキスをせがんでいるようにしか見えなくなっていた。

ヤコブは、ついさっき、自分の股間で、この唇が燃えるようなアルコールの香りを広げたことを思い出した。 この女は男に飢えている!

「畜生!なんて女なんだ、君は!君が最初に 私を誘惑したのだ。君は自業自得なんだよ」

ヤコブは大きな手でエミリーの後頭部を鷲づかみにして顔を近づけると、情熱的に唇を押し付けた。酔った女性の言葉を鵜吞みにしたとは言え、ヤコブは、突然に理性を失った自分に嫌悪感を抱いた。

「…」 エミリーの酔いに任せて放たれた言葉の数々は、ヤコブのディープキスによって飲み込まれてしまった。

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1 第1章針小棒大に考えるな!? 2 第2章怖いもの知らず3 第3章言われて当然4 第4章首元のキスマーク5 第5章闇が襲う6 第6章先に私を誘惑したのは君だよ7 第7章なんて馬鹿げた考え8 第8章よくも彼女に触れたな9 第9章セックスフレンドをかくまっているんだろう10 第10章なぜまだここにいるの? 11 第11章まだ君には学ぶべきことがあるようだ12 第12章ゴミ以外の何ものでもない13 第13章エミリー、出ていけ!14 第14章愚かなる人15 第15章おめでとう16 第16章あなたはクビです17 第17章片手だけでは拍手はできない18 第18章彼は彼女を許すつもりはない19 第19章決して裏切らない20 第20章あなたと遊んでいる暇はないの21 第21章約束を反故にするおつもりですか? 22 第22章虎の威を借る狐23 第23章さっきのキス10万元だ24 第24章あなたが倒産するまでキスするわ!25 第25章恥ずかしくないの? 26 第26章真実が明らかに27 第27章謝罪28 第28章私は食べ物には好き嫌いがない29 第29章どうして言うことを聞かないんだ? 30 第30章おとなしくして食事をきちんととって31 第31章私にキスして32 第32章白昼夢33 第33章初心だけどすごくかわいい34 第34章本気で言っているの? 35 第35章唐辛子スプレー36 第36章どんな違いがあるの? 37 第37章善は急げ38 第38章禁断の恋愛みたいじゃない? 39 第39章お願い、行かないで40 第40章私とキスしたい? 41 第41章あなた次第42 第42章俺じゃない43 第43章キスをして44 第44章私は必要ないって? 45 第45章俺に連絡を取るのはやめてくれ46 第46章彼らに騙された47 第47章企みとは何だったのか48 第48章彼女の情け深い心49 第49章自然災害50 第50章彼はいったい何者か51 第51章もし私たちが死ぬのなら、一緒に死ぬんだ52 第52章嘘ばかり53 第53章俺を遠ざけようとしているのか? 54 第54章痛みで死んだらどうなの? 55 第55章約束するわ56 第56章エミリーはどうなった? 57 第57章助けてくれた人間を簡単に見捨てる能力58 第58章俺も寝たきりだった59 第59章抱きしめさせて60 第60章おいしかった? 61 第61章美しいもののために死ぬのが本望なんだ62 第62章エミリーさんも宴に参加するようです63 第63章同じドレス64 第64章私の無礼を責めないでちょうだいね65 第65章君は下品なままだね66 第66章脚を折るからね67 第67章お互いだましあって68 第68章結婚? 69 第69章ひざまずいて謝罪70 第70章それか今すぐ出て行け71 第71章あなたに失望した72 第72章病気になったヤコブ73 第73章誰が私に触れて良いと言った? 74 第74章おめでとう、あなたの勝ちよ75 第75章ジャック、私たちは終わりよ76 第76章このお兄ちゃんと遊ぶといいよ77 第77章あとくされなくわかれる78 第78章愛人は誰? 79 第79章慰謝料として1000万円払うか80 第80章会いたくない人に限ってよく顔を合わす81 第81章妊娠しているの? 82 第82章君は中絶するべきだ83 第83章その子の父親は私でなければいけない84 第84章思い切って私をふってみる? 85 第85章君はわざとだよな? 86 第86章とっても可愛らしい87 第87章彼女のことはエミリー様と呼びなさい88 第88章馬鹿とは話をしたくない89 第89章私の女の周囲を嗅ぎまわるとはな…90 第90章私を怖がらせようとしているのか? 91 第91章私たちの子供には君みたいに鈍くなってもらいたくないからね92 第92章私の施しだわ、分かる? 93 第93章もうあなたのことは愛していないわ94 第94章赤ちゃんが本当に動いている!95 第95章私がふさわしいというなら、ふさわしいんだ96 第96章画鋲97 第97章ヤコブになんかもったいないんだ98 第98章頭がおかしくなった99 第99章胎児教育100 第100章妊娠していないの?