愛を諦めたあの日、彼はまだ私を手放していなかった
てきたかと思えば、大股で彼女の前を通
か、それとも……見
の中にいたあの若い女性――ニュー
雪乃、そ
足取りで病院
ようだった。何も感じられな
、運転手が行き
いに、明澄はしばら
きっとあの家は、もうすぐ自分
つりと告げた。「……すみませ
は、彼女が結婚後に自
もりで、ローンを組んで69平米の部屋を買った
、「もっと大きな家をプレゼントするよ」と
の人生で唯一、正しかった
チに腰を下ろし、冷たい風に身をさらした。少しでも、このぼ
返れば、甘さもあっ
年
を共に過ご
たくても、時間をかけて抱きしめれば
いているようだった。――「全てはお
く明澄はマンション
の目に飛び込んできたのは、部
りと伸びた首筋と、端正な鎖骨の一部をあらわにしていた。そこにただ立
間その場に立
……病院で小林雪乃
して
引っかけながら、もう一方の手をポケットに突
話、なん
あり、眠っていないせいか、
出す。画面を見ると、いつの間にか
らの不在着信が五
んなことは初
、これほど何度も電話
と飛び上がって喜んでいたに違いない。宝く
ッグに放り戻すと、壁にもたれかかり、かす
見やった。その口調には、うっすらと苛
の殻だった。幾度かけても電話は通じず、ついには洲崎牧人に頼
もなく清水ヶ浜に
るぞ」 誠司は、彼女に背を向けると、そのまま
き先は清樾荘だ
見つめながら、明澄の胸に、ほん
たちは“夫婦”でい
れ
尽くしているのを見て、苛立ち混じりに眉を
を照らし出し、完璧に整ったそ
込み、まっすぐ彼を見つめた。「
の、どう
いて、その端正な顔立
せすぐに私たちの関
では、どうしようもない痛みが渦巻いていた。誰かが心
…関
い笑みを浮かべた。「明澄、お前の目に
澄は息を飲み、
―契約結婚。情は交わさない。ただの取り決め。世間から見れば
独身貴族”。数えきれないほどの名家の令
したのは、もしかして――私が、彼に
うにか押し込めるようにしてから、きっぱりと言った。「……ごめんなさい、藤原社長。
がにじんだ。こらえきれずに、目
るはずがない。相手は、十年
切れるほど痛んでも、彼女は
を“哀れな笑いもの
トが、ぱちぱちと不
つく閉ざしたまま微動だにしない。全身から
てきた。けれど、今回ばかりは
と滲む光を見た瞬間、ほとんどが消えた。誠司は声を潜
藤原社長、お引
明日香どころでは
なく、彼を避けるようにしてド
を隠せなかった。何を言っても跳ね
歩踏み出すと、彼女の手首を強く掴
、いい加減
なく、彼女の肩を抱き寄せると、そのままくるり
るで焼けた炭を抱えて
熱、あ
た頬、霞む視界、そのまま誠司の胸に
妙な熱を
んでくる仕草は——今にも
じゃ、まずい——そう気づいた時には、条件反射
絡め取られ、また抱き戻されてしまった。誠司の顔には
、明澄の身体はふわりと宙に浮く。気づ
く、そのままエレベ
明澄は小さく声を漏ら
っすらと皺を寄
だ
声で、一気に意
ら、お腹のこの小さな
も、お腹の中にいる限り、自分はこの子の母親だ。だから
、彼の力はあまりに強く、両腕でしっかりと抱
べきだ」 その声は冷たくも揺るが
。心臓が、喉元まで跳ね上がる。だめ、こんなことになったら——!明澄は咄
だけは……