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結婚式当日、三年付き合った恋人に捨てられた瀧ノ上清穂。「田舎者」と見下され、彼が選んだのは”初恋”。しかし彼女の正体は、海都一の財閥令嬢。失恋をきっかけに、莫大な資産と誇りを取り戻す。復讐、逆転、そして新たな恋——傍に現れたのは、冷徹と噂される実業家・藤原。「おまえが俺の妻でよかった」と言う彼は、誰よりも彼女を信じ、甘く守る。裏切りの先に咲く、もう一度の恋に心が揺れる——
瀧ノ上清穂は、ついに北条渉と結ばれるのだ。
厳かに響く結婚行進曲のなか、純白のウェディングドレスに身を包んだ瀧ノ上清穂は、ゆっくりと赤いバージンロードを歩き、祭壇の向こうに立つ北条渉のもとへと向かう。
北条渉は白いタキシードに身を包み、金色のライトが彼に降り注ぐ。その柔らかな光が、彼の持つ穏やかで上品な雰囲気をより一層引き立て、まるであの頃の少年のようだった。
ふたりが出会って三年――数々の困難を共に乗り越えてきた。そして今、彼女の願いはようやく叶おうとしている。
ただひとつ残念なのは、この結婚が家族には祝福されていないということだった。
北条渉が一歩前に出て、彼女にブーケを手渡したその瞬間――瀧ノ上清穂の目には、喜びの涙がにじんだ。
「新郎よ、あなたはこの女性を妻とし、彼女と結婚の誓いを交わすことを誓いますか? 病める時も健やかなる時も、いかなる理由があろうとも、彼女を愛し、支え、敬い、受け入れ、生涯をかけて貞節を尽くすと誓いますか?」 神父は祭壇に立ち、優しい眼差しでふたりの新郎新婦を見守っていた。
胸の高鳴りを必死に抑えながら、瀧ノ上清穂は期待を込めて北条渉を見つめ、その口からの「はい」を待ち望んでいた。
北条渉の表情は険しく、感情のこもった返事はなく、口を開こうとしてもためらっていた。
そのとき――
「お兄ちゃん、たいへん!」泣きじゃくって涙で顔をぐしゃぐしゃにした北条理彩が突然外から駆け込んできて、北条渉の言葉を遮った。彼女はまるで迷子の子どものようにしゃくり上げながら言った。「陽香お姉ちゃんが……その……」
瀧ノ上清穂の胸に、得体の知れない不安が込み上げる。眉が知らぬ間に曇り、北条渉を見つめる眼差しには緊張の色が滲んでいた。そして、彼の手を握る指先に、自然と力がこもる。
南雲陽香――その名が北条渉にとってどれほど大きな意味を持つか、瀧ノ上清穂は痛いほど知っていた。
彼にとっての「儚い月明かり」、この人生でどうしても手に入らなかった愛。
かつて北条家が没落したとき、南雲陽香は海外に渡るチャンスを取るために北条渉を手放した。誇り高い彼は、そのことを許せず、陽香とのすべての縁を断ち切り、代わりに選んだのが瀧ノ上清穂だった。
だが――一ヶ月前、南雲陽香は突然ふたたび姿を現した。
北条渉の顔色が一変し、張り詰めた声には動揺がにじんだ。「陽香が……どうした!」
「陽香お姉ちゃん、血がいっぱい出て……全然止まらなくて……!お医者さんが、命が危ないかもしれないって……!」と、理彩は声を震わせて訴えた。
その言葉を聞いた瞬間、北条渉は瀧ノ上清穂の手を振り払って、足早に式場を飛び出していった。
「行かせない……!」瀧ノ上清穂は一歩前に出て、北条渉の手を必死に掴んだ。身体は微かに震え、視線は彼から離さなかった。 「北条渉……今日は、私たちの結婚式なのよ。それでも行くっていうの?」
観客席からはひそひそとささやく声と、あからさまではないが皮肉めいた視線が次々と彼女に注がれ、それは鋭い刃のように瀧ノ上清穂の胸を突き刺した。
涙で赤く染まった目で北条渉を見つめながら、彼女は懇願するようなか細い声で言った。「北条渉……お願いだから、せめて式だけでも最後まで……」
「陽香は……俺を助けようとして事故に遭ったんだ。放っておけるか!」
北条渉は再び彼女の手を振り払おうとしたが、目の前の女は頑なにその手を離そうとしない。その表情は次第に険しさを増し、目には冷たい怒気が宿った。「瀧ノ上清穂……お前もわかってるだろ?俺たちの結婚は“取引”だったはずだ。お前はただ「北条の妻」としての役割を果たせばいい。俺のことに口を出すな。」
取引――
瀧ノ上清穂の瞳孔が震え、信じられないという表情のまま、冷ややかな北条渉の顔を見つめる。その目の驚きは、やがて薄ら笑いに変わっていった。
やがて彼女の口元に、嘲るような笑みが浮かんだ。かすかな悲しみを含んだ声が、ふと震えた。「……あなたにとって、私たちって……ただの『取引』だったのね? !」
チャプター 1 クズ野郎の儚い月明かり
29/07/2025
チャプター 2 この目は…
30/07/2025
チャプター 3 彼女を腰に巻き付けた (パート1)
30/07/2025
チャプター 4 彼女を腰に巻き付けた (パート2)
30/07/2025
チャプター 5 北条渉、別れよう!
30/07/2025
チャプター 6 計画
30/07/2025
チャプター 7 命知らずにもほどがある
30/07/2025
チャプター 8 私の演技が下手だったかしら
30/07/2025
チャプター 9 心臓の鼓動がひとつ飛んだ
30/07/2025
チャプター 10 分不相応な考え
30/07/2025
チャプター 11 屈辱の夜
30/07/2025
チャプター 12 裏に意図がある
30/07/2025
チャプター 13 獲物を仕留めようとする猛獣のように
30/07/2025
チャプター 14 心の防壁を揺らした男
30/07/2025
チャプター 15 あの女の顔、引き裂いてやる
30/07/2025
チャプター 16 おあいこ
30/07/2025
チャプター 17 十五階から見える景色
30/07/2025
チャプター 18 跪いて謝らせてやる
30/07/2025
チャプター 19 出過ぎた真似はやめろ
30/07/2025
チャプター 20 興師問罪
30/07/2025
チャプター 21 その口って潤滑剤でも塗ってるの (パート1)
30/07/2025
チャプター 22 その口って潤滑剤でも塗ってるの (パート2)
30/07/2025
チャプター 23 悲恋に溺れる哀れなカップル
30/07/2025
チャプター 24 どういう関係 (パート1)
30/07/2025
チャプター 25 どういう関係 (パート2)
30/07/2025
チャプター 26 言葉にできない微かな落差 (パート1)
30/07/2025
チャプター 27 言葉にできない微かな落差 (パート2)
30/07/2025
チャプター 28 心変わりは本能、忠誠は選択
30/07/2025
チャプター 29 素冠荷鼎 (パート1)
30/07/2025
チャプター 30 素冠荷鼎 (パート2)
30/07/2025
チャプター 31 ぐいと抱き寄せられる
30/07/2025
チャプター 32 無理やり手をだす
30/07/2025
チャプター 33 掌に落ちる雨粒の感触
30/07/2025
チャプター 34 俺の一生は――君に決めた
30/07/2025
チャプター 35 俺の想いには理由なんていらない (パート1)
30/07/2025
チャプター 36 俺の想いには理由なんていらない (パート2)
30/07/2025
第37章どういう関係
31/07/2025
チャプター 38 遅かれ早かれ俺のもの
31/07/2025
チャプター 39 掌に残る柔らかな感触
31/07/2025
チャプター 40 納得のいく説明
31/07/2025