戦神が情劫を超えるには、十度の輪廻が必要だった。 そのすべての生で、相手となるのは決まって私だった。 彼は司命仙君の庇護を受け、記憶を抱えたまま転生する。 だが私は、毎回彼に殺され、愛という名の試練に弄ばれ続けた。 最後の世では、一族を皆殺しにされ、そして私も斬られた。 瞳にわずかな悔いを滲ませながら、吐き出した言葉は凍りつくほど冷たい。 「凡人は我らの情劫のための道具にすぎぬ。選ばれたことを光栄に思え」 魂となった私は九洲を彷徨い、玄衣の男に出会う。 神剣に封じられた彼は、私を見ると目を輝かせた。 「この剣を抜けるなら、おまえを蘇らせ、復讐を遂げさせてやろう」 私は剣の柄を握りしめ、冷たく答えた。 「生まれ変わりなどいらない。あの男を、この世で生かせはしない」
戦神が情劫《じょうごう》を渡るには、十世の輪廻が必要であった。
その全ての世において、相手は私だった。
彼は司命仙君《しめいせんくん》と誼みを通じ、記憶を宿したまま転生を繰り返す。
だが私は、どの世でも彼の手にかかって命を落とし、情劫の苦しみをなめ尽くした。
最後の世、彼は私の家族を皆殺しにし、最後に私を手にかけた。
その眼には愧じらいの色が浮かんでいたが、紡がれた言葉は骨の髄まで凍らせるほどに冷酷だった。
「定命の者は、我ら神仙が劫を渡るための道具に過ぎぬ。この私に選ばれたこと、光栄に思うがいい」
やがて、私の魂は九洲へと流れ着き、ひとりの玄衣の男と相見えた。
男は一本の神剣によって封じられており、私を見るなり、その瞳を輝かせた。
「お前がこの剣を引き抜けるのなら、余がお前を蘇らせ、復讐を遂げさせてやろう」
私は剣の柄に手を置き、凍てつくような声で応じる。
「蘇りなど望まぬ。ただ、奴を……この世で生かしてはおかぬ!」
01
封印されし魔の名は、玄淵《げんえん》。
その身を貫く神剣は、おそろしく抜き難い。
玄淵が言うには、私のように深い怨念を抱いて死んだ、執着の塊のような魂でなければこの剣は抜けぬのだと。
彼は千年もの間、ひたすらに私を待ち続けていた。
柄に手を触れた瞬間、氷のごとき冷気を帯びた剣気が、我が身を引き裂かんばかりに襲いかかる。
それでも私は柄を強く握りしめ、一歩も引かなかった。
玄淵の顔は禍々しい符文に覆われ、その貌は窺い知れない。ただ、一対の墨色の鳳眼だけが見えた。
「そうだ、その調子だ。さらに力を込めよ!」
私は唇を固く結び、胸に燃える憎悪を、十世にわたる無惨な死を想う。すると、どこからか力が湧き上がり、ついに剣をわずかに引き抜くことができた。
この剣は、玄淵を千年封じてきた代物。
剣身が微かに動いただけだというのに、彼の体からは黒々とした魔気《まき》が流れ出す。
魔気が漏れ出すのは、定命の者が血を流すのと同じようなものだろう。しかし玄淵は苦痛の色も見せず、むしろ愉快げに言った。
「孟涼歌、お前の恨みはその程度か?」
「どうやら、心ではまだあの葉黎初を愛しているとみえる」
私を煽っていると分かっていた。だが、私は眉をひそめ、顔を曇らせずにはいられない。
「あの男の名を、二度と口にするな!」
言うが早いか、私は両手で柄を握り、片足を玄淵の体にかけ、ありったけの力を込めて一息に引き抜く!
「抜けろ――ッ!」
我が絶叫に応えるかのように、剣は肉を裂く音を立て、玄淵の体から完全に解き放たれた。
その瞬間、天地は鳴動した。
頭上で黒雲が渦を巻き、天を引き裂くかのように雷霆が降り注ぐ。
玄淵の胸からは未だ魔気が流れ出ていたが、剣が抜かれたことで封印は解かれ、これまで符文に隠されていた素顔が露わになる。
それは、葉黎初をも凌ぐほどの美貌であった。
精緻に整った目鼻立ちに、雪のような白い肌。濃い墨のごとき瞳は妖しい光彩を放っている。
しかし、その美しさに感嘆している暇はなかった。
天の雷が、私めがけて落ちてくる!
私は剣を投げ捨て、その場から逃れようとした。
だがその刹那、玄淵が私をぐいと腕の中へ抱き寄せた。
「あの神仙どもを、いかにして始末するか知りたくはないか?」
彼は私を見下ろしながら、中指を立て、無造作に天へと弾いた。
一条の青い閃光が迸る。
すると、天を覆っていた雷霆も黒雲も、彼の一指しで、たちまち霧散してしまった。
九洲の風がその漆黒の髪をなぶる。玄淵は口の端を吊り上げ、地の底から響くような声で言った。
「力こそが、唯一の理だ」
「我がそばに来い。九重天《きゅうちょうてん》へお前を導き、あの葉黎初を八つ裂きにしてくれよう」
第1章十世の怨嗟、魔との誓い
27/08/2025
第2章仙涙は復讐の種火となりて
27/08/2025
第3章神剣認主
27/08/2025
第4章戦神の涙
27/08/2025
第5章神剣の主
27/08/2025
第6章戦神の弱点
27/08/2025
第7章鳳凰の真血
27/08/2025
第8章麒麟の玉佩
27/08/2025
第9章
27/08/2025
チャプター 10
27/08/2025
第11章
27/08/2025
第12章
27/08/2025
第13章
27/08/2025
第14章
27/08/2025
第15章
27/08/2025
第16章
27/08/2025
第17章
27/08/2025
第18章
27/08/2025
第19章
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第20章
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第21章
27/08/2025