触れられない身代わり彼女

触れられない身代わり彼女

abao

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交際一年。恋人は決して、彼女に触れなかった。 その歪な関係が、中島桔依の精神を病魔で蝕んでいく。 深夜。姉の写真に口づけする恋人。悟ったのは、己がただの「代替品」に過ぎないという残酷な真実。 悪化する病状。すがる思いで駆け込んだ病院。担当したのは、若く端正なエリート医師。 診察室。崩壊しかける理性。翌日。出社した彼女を待っていたのは驚愕の事実。昨日の担当医――彼こそが、空降りの新社長だった。 赤の他人を装う中島桔依。だが運命は嘲笑う。下されたのは、新社長の専属アシスタントへの大抜擢。 「社長、私には恋人が。まさか略奪を?」 社長室。怒りに頬を染める中島桔依。だがやがて――彼女は振り返ることなく、新しい男の手を取った。 狂乱する元恋人。血走った眼。哀願。「桔依、やり直してくれ!別れないなら、何でもする!」 中島桔依は、冷笑とともに吐き捨てる。「悪いけど。不能男に興味はないの」

触れられない身代わり彼女 第1章横になって、彼が診察するから

「脱いで横になって!」

低く冷たい男の声が響いた。

中島桔依の心臓がドクンと跳ねた。

彼女はいつの間にか、口にするのも恥ずかしい病気にかかっていた。

発作が起きると、無性に「したく」なるのだ。

時間も場所も選ばず、仕事や私生活にも深刻な支障が出ていた。

桔依は耐えきれず、勇気を振り絞ってこのプライベートクリニックの婦人科を受診した。

プライバシーが徹底的に守られているのが決め手だったが、診察代は普通の病院の数倍もする。

だが、予約したのは40代の女性主任医師のはずなのに、どうして目の前にいるのは若くて背の高い男の医者なのだろうか。

桔依は極度に緊張し、おずおずと尋ねた。

「絶対に……下着を脱がないとダメですか?」

見知らぬ男の前で下着を脱ぐなんて、相手が医者だと分かっていても、やはり恥ずかしすぎる。

村上颯馬は真顔で答えた。「脱いでもらわないと、診察できないでしょ」

桔依は顔を真っ赤にして、モジモジしながら言った。

「でも、私……」

目の前の男はマスクをしているが、その鋭い視線は底知れず、ミステリアスだ。

突然、彼にベッドへ押し倒され、好き勝手にされるような錯覚に陥った。

桔依は慌てて首を振った。

(なんてこと! なんでそんなこと考えちゃうの?)

相手はただの医者で、1日に何十人もの患者を診ている。

これが彼の日常業務なのだ。

桔依は自分に言い聞かせ、恥ずかしさを必死にこらえてゆっくりと下着を下ろし、診察台に横たわった。

颯馬は消毒の準備をしながら尋ねた。

「どこが痛む?」

桔依の顔が再び赤く染まった。「私、あそこが……」

彼女が言葉に詰まっているのを見て、颯馬は淡々と問い返した。「やりすぎ?それとも傷つけた?」

彼女のような若い女性が婦人科に来る場合、大抵はそれが原因だ。

だが、桔依は顔を赤らめて首を振った。「違います。私、経験がないので……」

颯馬は手を止め、驚いたように彼女を振り返った。

目の前の女性は顔立ちが整っており、肌は水が滴るほど瑞々しい。色気とあどけなさが同居する、目を引くような美貌の持ち主だ。

一度見たら忘れられないほど印象深い。

ーーこれほどの美女なら男には不自由しないはずなのに、経験がないだと?

男の深い眼差しに見つめられ、彼女は赤面しながら口ごもった。

「私……その……あそこが……ちょっと……ムズムズして……」

颯馬が消毒用の綿棒を握る指先が、ふと強張った。

だが表面上は平静を装い、彼女を見据えて言った。「ムズムズする?」

桔依:「……」

(どう説明すればいいのだろう)

彼女は赤い唇を噛み、ためらいながら言った。

「えっと、その……」

颯馬は真っ赤に染まった彼女の顔を見て、わずかに喉を鳴らした。

体の奥から、抑えきれない熱が込み上げてくる。

彼はその衝動を押し殺して尋ねた。「原因は分かるか?」

桔依は言葉を濁した。恥ずかしくてとても言えない。「えっと、その……私……」

性欲が異常に強くて、本当はすごく「したい」なんて言えるわけがない。

結婚して1年以上経つのに、夫の田中翔太は全く彼女に触れようとしない。

しかも、彼女の欲望はどんどん膨らみ、欲求不満は募るばかりだ。

翔太は逆に彼女を避けるようになった。

彼女がそっちの要求をしてくるのを、極端に恐れているのだ。

桔依は仕方なく、自分でなんとか処理するしかなかった。

だが、それでは全然足りない。

ーー欲しい。 もっと欲しいのだ。

颯馬は彼女の反応をうかがいながら尋ねた。「結婚してるの?」

桔依は無意識に頷いた。

なぜか、彼は少しがっかりしたような気分になった。

颯馬は瞳を暗くして言った。「まずは横になって。診察するから」

桔依はおとなしく仰向けになった。

細い両手で、ギュッと拳を握りしめる。

顔から火が出るほど熱い。

颯馬は彼女を見つめ、なぜか少し低く掠れた声で言った。「動くな」

「……」

桔依はただでさえ羞恥心が強く、今や爆発寸前だった。

その上こんな病気を抱えているのに、大人しく診察を受けられるわけがない。

彼女は気まずそうに要望を口にした。

「女性の先生に代わってもらえませんか?」

颯馬はさらに目を細めて言った。「俺じゃ不満?」

桔依は慌てて弁解した。「ち……違います……」

だが、彼女が言い終わる前に、彼は冷たく言い放った。「今日君が予約したのは俺だ。診察を受けたくないなら帰っていいよ」

(なんて意地悪な男。 後で絶対にクレームを入れてやる)

でも、彼女の病気はこれ以上放置できない。

とりあえず、一度だけ彼の腕を信じてみよう。

桔依は彼にお願いした。「他意はありません。先生、どうか私を治してください」

颯馬が代理で診察をするのはこれが初めてだった。

まさかこんな特殊な女性患者に当たるとは思ってもみなかった。

彼女の病気はあんなだし……おまけにこんなに美人だなんて……。

まるで男としての自制心を試されているようだ。

彼は再び喉を鳴らし、低い声でたしなめた。

「無駄口を叩くな」

手袋をはめ、消毒用の綿棒を手に取り、ゆっくりと彼女に近づく……。

桔依は恥ずかしさのあまり、たまらず目を閉じた。

夫の翔太にさえ見せたことがないのに。

今、別の男に見られようとしている。

相手が医者だと分かっていても、どうしても心の抵抗が拭いきれない。

桔依は思わず声を漏らした。

「あっ!」

甘く艶めかしい声だった。

颯馬は頭が痺れ、全身を強張らせながら、少し手を引いた。

「痛かった?」

桔依の美しい瞳は、うっすらと涙ぐんでいた。

赤い唇を開いたが、どう言えばいいのかわからない。

理性では我慢すべきだとわかっているのに、病気のせいで体が勝手に……。

彼女のそのか弱く可憐な姿は、理性を吹き飛ばすほど魅力的だった。

颯馬は軽く咳払いをして視線を逸らし、言った。「じゃあ、優しくするよ」

彼は一心不乱に診察を続けた……。

診察が終わると、桔依はかえって虚無感に襲われ、余計に苦しくなった。

彼女は少し震える声で尋ねた。

「先生、私、すごく悪い状態ですか?」

颯馬は感情を抑え込み、ゆっくりと手袋を外して言った。

「ホルモンバランスの乱れからくるヒステリー症状だ。長期間、行為をしていないことが関係しているね」

ーー行為をしていない?

桔依は目を伏せ、一瞬だけ気まずそうな顔をした。

していないどころか、全く経験がないのだ。

夫の翔太は極度の潔癖症で、付き合っていた頃から結婚して今まで、スキンシップはほとんどなかった。

だが、そうされればされるほど、彼女は逆に飢えていった。

まるで全身の細胞が、抱きしめられたくて、触れられたくてたまらないかのようだ。

颯馬はパソコンの前に座り、薬を処方しながら言った。

「炎症を抑える薬と、ホルモンバランスを整える薬を出しておくよ。

でも、家に帰ったら旦那さんと……もっと回数を重ねることをお勧めする。そうすれば、その症状はかなり和らぐはずだ」

桔依の顔はとうに血が滲むほど真っ赤になっていた。

下着を身につけ、診察台から降りる。

颯馬から処方箋を受け取り、頭を下げた。「ありがとうございました」

彼女が診察室を出た直後、白衣を着た女性医師が裏口から入ってきた。

駆けつけた村上明美が、怒って弟を叱りつけた。

「颯馬、あんた私がいない隙に私の患者を診たわね?」

颯馬は落ち着き払って答えた。「昔、医学部で俺がずっとトップで、姉貴が万年2位だったのを忘れたのか?俺がタダで診てやったんだから、患者にとってはラッキーだろ。それに、今はこの病院全体が俺のモノなんだからな」

明美は彼を睨みつけた。「あんたって子は!」

こいつは本当に屁理屈ばかりだ。

しかし、この弟は昔から潔癖症で女を近づけないのに、今日に限って自ら進んで女性患者を診るなんて珍しい。

颯馬は片手をポケットに突っ込み、桔依が消えた方向を見つめながら言った。「そんなに俺が邪魔なら、もう帰るよ」

明美は慌てて弟を呼び止め、猛プッシュした。「帰るってどこへ? 今日あんたを呼んだのは、うちの病院に新しく来た心臓外科の高橋先生に会わせるためでしょ!若くて美人で腕も良くて、うちの病院のマドンナなのよ。何より今はフリーで彼氏もいないし……」

颯馬は全く興味がなさそうに、適当に返事をしてその場を去った。

「また今度な」

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