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冒険の中に生く~冒険に憧れたプレイヤーは、現実となったゲームの世界を攻略なんて無視して冒険する。家、武器、道具、鎧そして料理。全部作るから街には戻らない。世界の果てを見てきてやる~

冒険の中に生く~冒険に憧れたプレイヤーは、現実となったゲームの世界を攻略なんて無視して冒険する。家、武器、道具、鎧そして料理。全部作るから街には戻らない。世界の果てを見てきてやる~

Amano Hoshikuzu

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「ゲームから出れないなんて最高じゃないか。起きてるときも寝てるときも大自然の中にいて冒険ができる。こんな最高なことはない」 多くのプレイヤーに期待される中ついに始まったVRMMORPG《The Other World》は、ログアウトすることの出来ない異世界だった。 『ログアウト出来ない異世界』をむしろ望んでいたプレイヤー、ムウは、志をともにする仲間たちとともに準備を整え、一人冒険に出る。        「知らない人との助け合いにも攻略にも興味はない。俺はただ、見たことのない景色と大自然を求めて進むだけだ」       トップクラスの生産職や最速攻略プレイヤーと知り合いになりながらも、ゲームとして異世界を攻略し脱出しようとする彼らを置いて、ムウは冒険へと突き進む。 武器とする弓、料理、探索のためのピッケルスパイクその他の道具果ては拠点となるログハウスまで、全て自分で作れるようになったムウは、もはや街に戻ること無く一人大自然の中を進んでいく。世界の隅々まで、見たことのない景色と見たことのない強敵を求めて。 これはゲームを異世界への手段と考え冒険に憧れたプレイヤーが、ゲームの攻略を無視して大自然を冒険していく物語。 トップクラスの生産職や攻略組すら驚くほどのペースで用意を整え大自然へと挑む少年は、未知なる景色とモンスターとの邂逅に心躍らせながら異世界を体感する。

チャプター 1 1.冒険の始まり-1

いつからだろうか。ファンタジーの世界に魅了されたのは。

雄大な自然があり、巨大なモンスターや人間がその中に住む、広大な世界。人が自然を支配するのではなく、自然と共存して生きている世界。

表し方は人それぞれだろう。

俺の場合は、目に見えて機械的な機械文明の存在しない世界に憧れた。

それ以上の説明が俺には出来ない。電気の代わりに魔法で明かりを灯す、そんなのは嫌いではない。だが、電気の代わりに魔法で車が走っている、というのは嫌だ。

人々の生活は?

西洋の中世のような、あるいはアジアの国々のような、はたまた現代の人々が着ているような服装。どれを着ていたとしても嫌だとは思わない。

では人々の住まう家は?

現代のマンションもアパートも嫌だ。見た目は日本であれ西洋であれ、中世以前のものがいい。けれど、水道や明かりは現代に近いものがあっても嫌ではない。

強大なモンスターと、大自然が存在する世界であれば良いのか?

いや、そんなことはない。人が重機や銃、兵器を用いてモンスターと戦っている世界は、俺の望んでいる異世界ではない。やはり、機械文明の姿が色濃いものは嫌なのだ。

ファンタジーの世界への憧れは、いつしか、そんな自分でもはっきりと説明できない、曖昧な、言葉としての異世界への憧れに変わっていた。

きっかけは何だったのだろうか。

幼い頃に見た魔法の出てくるアニメや映画?それとも、小学校高学年からはまっていったたくさんのファンタジー小説?あるいは、友人や妹の誘いではまったファンタジーRPGゲームだろうか。

おそらく、その全てだろう。その全てが、それぞれに違いはあれどこことは違う世界を描いていた。そしてそんなものに魅了された結果、現実の世界での大自然を体感しても、何か違うという違和感がつきまとうようになった。

この世界でも、人の手のほとんど入っていない森に入り、世界三大瀑布を眺め、雄大な山に挑めば、大自然を体感する事ができる。巨大な洞窟や、海の中は、それこそ人の手の入らない自然が残っているだろう。

だが、それらを体験することを考えても心は踊らない。なぜなら、そこにたどり着くまでに機械の手を借りることになるとわかっているから。それまでの人生で、機械の力を借りて生きていたとわかっているから。

つまり、俺が憧れているのは、異世界そのものではなく、明らかに機械的な機械の存在しない世界での生活?

そうかもしれない。いや、おそらくそうだろう。考えてみて初めてしっくりと来た。

ノックの音がして、続いて部屋の外から妹の奏が俺を呼ぶ声が聞こえる。

「兄さん、そろそろ夕食作りませんか?疲れているなら私が作りますけど」

「いや、大丈夫だ。ちょっと考え事してた」

ベッドから起き上がって扉を開けると、奏はまだそこで待っていた。

「え、兄さんまだ制服のままだったんですか?」

「え?」

言われてようやく、自分が制服のままベッドに寝転がっていたのに気づいた。思えば、家に帰ってすぐにベッドに座り込んで物思いにふけっていたのだ。

「すまん、着替えてから行くから、先に始めといてもらえるか?」

「わかりました。でも、ちゃんと制服は着替えないとだめですよ。すぐ皺になるんですから」

少し怒っているふりをして奏が注意してくるので、素直に謝っておく。

「ああ、悪い。気をつける」

謝ると、奏はニコリとわらって返してくれる。

「それじゃあ、先に行っておきますね」

奏に先にキッチンに行っておいてもらって、俺は私服に着替えてから後を追う。

キッチンに行くと、奏がすでに料理を始めていてくれた。

「すまん遅れた。今日は何作るんだっけ?」

「今日は生姜焼きと、野菜炒めと、コンソメスープですね」

「了解」

母と父はいつも仕事で帰ってくるのが遅いので、料理はいつも俺と奏の二人でしている。男と女の兄妹だが、大きくなってもこうして仲良く出来ているのは嬉しいことだ。

料理をしながら、明日のことについて話す。

「明日は昼はどうする?」

「私は続けてプレイするので出てこないです。久しぶりだからとても楽しみですし、多分やめられません」

「そうか。まあ俺もだな。久しぶりだからかなり楽しみだ」

俺と奏が先程から話しているのは、VRMMORPGと言われるタイプのゲームについてだ。夏休みが始まる明日からそのゲームの正式サービスが始まるので、ゲームが好きな奏も俺も、一週間以上前から楽しみにしていたのである。夏休みはずっと遊ぶため、提示された宿題も事前に大部分終わらせている。

VRMMO。それは、多くのゲーム好きたちの夢であった、画面を見てコントローラーで遊ぶのではなく、ゲームに入り込んでプレイすることを可能とするゲームの中でも特に多人数同時参加可能のものをさす。

VRMMORPGはその中でも、ファンタジーを題材とした魔法や剣のある世界に入り込むことを可能としたゲームを指し、明日から正式サービスの始まる〈The other world〉は、それらの中でも初めて、完全な仮想現実への没入、言ってみれば、五感の全てを伴ってゲームの中へ入り込むことを可能としたものとなる。

すでにゲームの世界に五感をともなって入り込む技術自体は完成しており、これまで試合形式での銃の撃ち合いを可能としたFPSや、仮想世界でスポーツをできるゲームはいくつか発売されているが、ファンタジーの世界での冒険を可能としたゲームというのは〈The Other World〉が初めてなのだ。

「βテストの頃も楽しかったですけど、あのときはβテスト用のフィールドっていう話でしたからどう変わってるかすごい楽しみですね」

「そうだな」

「今度こそ、兄さんも私と一緒に遊んでくれますよね?」

念を押すように奏が俺の方を見上げながら言ってくる。

俺も奏も、すでに〈The Other World〉、略してTOWをプレイしたことがある。正確には、3ヶ月前に行われていたそのゲームのβテストに参加していたのだ。

βテストでは正式サービスと同じフィールドを実装して不具合を確認するのではなく、スキルやプレイヤーの行動などに関わる部分だけを正式サービスに近いかたちで実装して確認や調整を行っていたようで、あまり楽しんで冒険の出来る場所は少なかった。

そのため、実を言うと俺はβテスト時はそれほど熱心に攻略をしていない。フィールドもかなり制限されたものだったし、冒険して面白そうな要素が見つからなかったからだ。それでも、かなりの時間あの世界で過ごしたからわかる。あれは、|本物《・・》だった。本物の、俺が望んでいたファンタジー世界だった。

ただ、そうしてゲームとして遊ぶこと無く自分の鍛錬をやっていたせいで奏と一緒に遊ぶことはほとんど無く、なぜか俺を慕ってくれている奏にはそれが不満だったらしくβテストの頃も幾度も文句を言われた。

「ずっとは無理だぞ。俺は俺でやりたい事があるからな」

「兄さんずっとそればっかりじゃないですか……。やりたいことは私と遊ぶより大事なんですか?」

俺が答えると、奏が拗ねた様子でそう言うので、慌てて説明する。

「別にそう言うわけじゃない。ただ、俺はTOWの世界で遊ぶっていうよりは、冒険するつもりなんだ、って前も言わなかったっけ?」

「何回も聞いてます。でもいくらなんでも遊んでくれなさすぎだと思います」

「まあ、それはすまん。とりあえず明日は一緒に遊ぶと約束する」

俺がそう言うと、奏が一瞬驚いた顔をした後嬉しそうに笑う。

「ホントですか?」

「流石にβテストの頃はお前と全然遊んで無かったしな。正式サービスなら一緒に戦ったりレベル上げするのも楽しくなるだろうし。だが、奏にもβテストの頃のパーティーメンバーはいるんだろ?」

奏と遊ぶことはほとんど無かったが、彼女が他の仲間と一緒に戦っているところは見たことあるし、現実での友人から話を聞いたこともある。奏は数名の仲間と仲良くプレイしていたらしい。

「いますよ。だから私もずっと兄さんとだけ遊ぶのは無理ですけど、たまには遊びたいです」

正直、奏がなぜここまで俺を慕ってくれるのかはよくわからない。昔は兄妹なら当然かとも思ったのだが、現実での知り合いは妹や弟とは仲が良くなかったりするらしいので当然のことでもないらしい。だが、俺も妹として奏は好きなので、嬉しいことではある。

「わかった。それじゃあとりあえず明日は一緒に遊ぼうな」

「はい!」

嬉しそうな笑顔が眩しい。ファンタジーの世界での冒険を一人でしてみたいとは思うが、こういう顔をされるとしなくてもいいかなと思ってしまう。もちろん冒険は絶対にするのだが、ある程度満足できたら程度を考えるようにしよう。

料理を終えて両親の分を取り分けておき、二人だけで夕食にする。

「そう言えば、明日は夕方に匠と合うんだけど奏も来るか?」

「ゲームの中ですか?」

「ああ。フレンド登録をしたいからな」

「私も行きます。最近匠さんとは話してなかったんですよね」

匠は近所に住んでいる俺の同級生であり、奏とは互いにゲーム好きなことから、小さな頃からよく楽しそうに話したり一緒に遊んだりしていた。彼も俺たち同様にTOWにβテストから参加しているプレイヤーの一人である。

「わかった。それじゃあ遊んだ後だな」

「そうですね」

食事を終えた後は、二人で片付けをして部屋に戻る。いつもなら居間でだらだらしたりするのだが、今日は明日が楽しみすぎてだらだらしている気にはなれない。

TOWの世界でなら、俺がずっとしたかったファンタジーの世界での冒険もできるはずだ。それが楽しみで仕方ない。異世界だなんだと考えたが、自分の力で冒険ができるというのも大事な要素だ。戦いも楽しみである。

ああ、本当に、楽しみだ。TOWで経験できるであろう全てが、楽しみで仕方がない。

今日はおとなしく眠ろう。起きていても何も手につかないだろう。

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