爺さん(元国王)旅に出る!
作者kannta.bile
ジャンル冒険
爺さん(元国王)旅に出る!
試合の直後。
フリードを伴いサミュエルは人気の無い路地裏を探し歩いていた。
大男から受けた傷は徐々に止まりかけてはいたものの、相変わらず出血している。
すると、都合良く人通りが無く、かつ日差しが差している路地裏を探し当てた。
慎重に周囲の様子を確認しながら、早足で路地裏へと入る。
荷物と武器を置き、盾を裏返した。
長年使い込んで傷だらけのその盾の裏側は、鏡面になるまで磨き込んであった。
戦場で仲間への合図と自身の身支度に使用するためである。
鏡代わりの盾の前にしゃがむと、傍らの荷物から針と糸を探し出す。
怪我をした飼い主が心配なのだろう、フリードは口を閉じて高い声で小さく鳴きながら手当の準備をするサミュエルを見つめる。
「・・・大丈夫じゃフリード、ほら、手伝ってくれ。」
兜を取り傍らに置くと微笑みながらフリードと目線を合わせ、自身の顔を指さすサミュエル。
飼い主の意図を察したフリードは、血で染まったサミュエルの顔面を一生懸命に舐め始める。
時折、乾いた綺麗な布で傷口を拭きながら、完全に血が止まるまでサミュエルはフリードに舐めさせた。
(よし、こんなものじゃろうて。)
血が止まりつつある事を確認すると、荷物の中から強い酒と軟膏を取りだし傷口に塗りたくった。
小さくうめき声を上げたサミュエルだったが、治療の手は止めない。
そして、鏡面になるまで磨いてあった盾の裏側を鏡にし、ザクザクと傷口を縫合した。
戦場と妻、その両方の手ほどきで身につけた技術である。
その後やや大げさに包帯を巻いた。
変装の一環も兼ねる為である。
すっかり治療が完了した事を盾の裏側を使って確認すると、荷物を仕舞い兜を再び被って、路地裏をフリードと共にあとにした。
一息つくために宿屋を探し歩くサミュエルとフリード。
この町は観光業も盛んな事も手伝ってか、すぐに見つける事ができた。