さよなら賢妻、こんにちは最強の私

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藤咲あやめ

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三年もの間、南奏絵は完璧な良妻を演じ続けた。それでも瀬戸晋佑の心は一度も自分に向かなかった。挙げ句の果てに、あざとい女のために離婚を突きつけられる。 ――いいわ、離婚なら離婚。もう二度とあなたの世話なんてしない。 彼女は自分の痕跡を世界から消し去り、姿を消した。そして現れたのは、彼が喉から手が出るほど欲しがる最高のビジネスパートナーとして。 冷たい視線で元夫を見据える。「私と組みたい?……あなた、誰?」 男なんて必要ない。私は一人で輝く。 だが、追いかけるほどに彼は知ってしまう。伝説のハッカーも、世界を唸らせるシェフも、国際的名医も、玉細工の匠も、地下レースの覇者も……すべて彼女。 終わりの見えない“妻追いロード”に、瀬戸晋佑は叫ぶ。 「お前、俺の知らない顔、あと何枚隠してるんだ!?」 「……秘密よ。」 全能で、最強な私を、あなたはまだ知らない。 もっと追えば。

チャプター 1 離婚された (パート1)

「離婚しよう」

結婚して三年。瀬戸晋佑は相変わらず言葉を惜しむ男で、その冷ややかな一言に、ひとかけらの情もなかった。

奏絵は彼の背後に立ち、すらりとした背中を見つめた。窓ガラスに映る険しく無情な横顔を見て、胸の奥が底まで冷え込んでいく。

手は体の脇で音もなく握りしめられ、細かく震えていた。

ずっと恐れていた言葉が、とうとう口にされた。

晋佑が振り返る。輪郭のくっきりした端正な顔立ちは、三年の毎日に見慣れたはずなのに、なお胸を高鳴らせる。

「……離れたくないと言ったら?」

喉を通すのもやっとの声。瞳には今にも崩れそうな光が宿り、それでもわずかな望みを含んでいた。

晋佑の眉間がわずかに寄る。素顔の奏絵を見つめ、その赤くなった目に視線を留め、さらに眉をひそめた。

濃い化粧映えする美人ではないが、雪のように白く澄んだ肌に、柔らかな雰囲気を纏った顔立ちは、素朴でいて人を惹きつける。

澄んだ大きな瞳に必死の願いを宿し、右目の下の小さな泪ぼくろが儚げに光る。まっすぐ伸びた黒髪が耳元にかかり、触れればほどけてしまいそうなほど柔らかだった。

だが晋佑の目に映るのは、ただ柔らかく、そして鈍い女。

妻として非の打ちどころはない――ただ、愛してはいなかった。

三年前、瀬戸晋佑は不慮の事故で高位脊髄損傷を負い、医者から「もう二度と立てないかもしれない」と宣告された。その時、愛していた女性とも無理やり別れさせられ、母からは「一生面倒を見てくれる医者の嫁を探せ」と縁談を迫られた。そして彼が大勢の見合い相手から選んだのは、背景もなく、物静かで口数の少ない介護士――南里奏絵だった。

「三年間、俺に付き添い、世話をしてくれた。2億――これが君への償いだ」

そう告げる男の瞳は、わずかも揺らがず、そこに情の色は微塵もない。「あるいは……他に欲しいものでも?」

「……どうして?」

奏絵は初めて彼の言葉を遮った。赤く縁取られた目には執着と、そして――諦めきれない想いが宿っている。「どうして、今になって離婚なんて言うの?」

明日は、二人が結婚してちょうど三年目の記念日だった。彼女はたくさん計画を立てていた。三年がまた三年、さらに二十回続けば、それが一生だと思っていた。

「分かっているだろう。俺が愛しているのは、君じゃない」

冷え切った声に、一縷の希望さえ残されていない。「茜が戻ってきた。俺は彼女と結婚する」

奏絵の頭上に、雷が直撃したような衝撃が走った。華奢な体は、その重みに耐えきれず、わずかに揺らぐ。

三年間必死に守り抜いたこの結婚も、「私、戻ってきた」という一言には敵わなかった。

「旦那様……!」

執事が慌ただしく駆け寄ってきた。「須藤さんが、さっき口にしたものを全部吐き戻されまして……しかも血まで!」

晋佑の静かな表情に、ひび割れのような変化が走る。奏絵をすり抜け、客間へと急ぎ足で向かいながら低く命じた。「車を出せ、病院へ行く」

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さよなら賢妻、こんにちは最強の私
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チャプター 1 離婚された (パート1)

15/08/2025

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チャプター 6 命を取りに来た

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第7章いい時代は、もう終わり

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