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十年ぶりに帝都へ戻った水原澄子は、あろうことか初恋の相手とこんな形で再会することになろうとは、夢にも思わなかった。
このところ、胸にずっと痛みがあった。気になって病院で検査を受けたが、途中で担当医は「少し難しい症例なので、主任を呼んできます」と言い残し、検査室を出ていった。
澄子はなす術もなく、落ち着かない心地でベッドの縁に腰掛けていた。
検査室のドアが再び開き、あの見覚えのある姿を目にした瞬間、彼女は固まった。
「この症状は、いつからですか?」
低く、重く、鼓膜を震わせるその声に、澄子はびくりと体を強張らせた。
男はマスクで顔の下半分を隠し、縁なし眼鏡の奥で、黒い瞳がまっすぐに彼女を見つめている。
「さ……三ヶ月、前から……です」 射すくめるような視線から逃れるように、澄子は慌てて目を伏せた。指先が白くなるほど、スカートの裾を強く握りしめる。
(今すぐここから逃げたい)
帝都に戻ってきてまだ二ヶ月。まさか佐伯司に会うことになるなんて。
頭の中は真っ白で、どう反応していいかわからなかった。
「横になって、服をまくり上げてください」 感情を削ぎ落としたような低い声が、再び再び響いた。
澄子がおそるおそる顔を上げると、再び視線が合った。息が乱れた。
司がなかなか動こうとしない彼女を見て、声に少し苛立ちをにじませた。「何か問題が?」
「いえ、すみません」澄子は深く息を吐き出すと、意を決して診察台に横たわり、強く目を閉じた。
それからというもの、一分一秒が永遠のように長く感じられた。冷たい器具が肌に触れるたび、思考は千々に乱れ、鼻の頭にはじっとりと汗が滲んでくる。
「痛かったですか?」
不意に投げかけられた言葉に、澄子は短く首を振った。「いえ……」
どれほどの時間が経っただろうか。ようやく、「はい、結構です。服を下ろして」という解放の合図が聞こえた。
司が立ち上がる気配がし、足音が遠ざかっていく。その音が完全に消えるのを待ってから、澄子は震える瞼をようやく開けた。
慌てて服を整え、乱れた呼吸を落ち着かせるためにしばらくベッドに座り込む。それからようやく、重い足取りで彼の待つデスクへと向かった。
司は背筋を凛と伸ばし、電子カルテを打ち込んでいる。
あの長く整った指はほとんど変わっていなかった。学生の頃と同様、ピアノの先生が褒め称えたあの手だ。
残念ながら彼はピアノではなくバイオリンを選んだ。校内外にファンが溢れ、隣の市から遠征してくる熱狂的な信者までいたほどだ。
そんな彼が、当時は自分にこれっぽっちも関心のなかった「そばかすだらけの太っちょ」とネット恋愛をしていたなんて、誰が信じるだろうか。
「どのくらい続いていますか?」司が彼女を一瞥した。
澄子は居住まいを正し、ごくりと喉を鳴らす。「二十日くらいです」
彼女は確信した。司は私に気づいていない。
彼女はもうあの頃のそばかすだらけのぽっちゃり娘、「水原詩織」ではない。
名前を変え、必死にダイエットに励み、遺伝だと諦めていたそばかすもすべて消した。実の母親でさえ一瞬誰だかわからなかった変貌ぶりだ。十年間一度も会っていない彼が気づくはずがない。
そう思うと、澄子の心にわずかな冷静さが戻ってきた。
「普段、夜更かしはしますか?」
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