ハーパー・チューはペロペロキャンディを食べながら、道具箱を慣れた手つきで開けると、同僚のディエゴ・グオに話しかけた。「少し難しそうね。 今度はちょっとした大物だからどう切ればいいかわかんないや」
「ハーパー、君は法医学の専門家だろう。 死体を調べている間くらいは何も食べず、もう少しプロらしく行動出来ないのか?」 そんなふざけてそうなハーパーを見てディエゴは少し困ったような顔で尋ねた。 これは彼が前から言いたかったことでもあった。
ハーパー・チューはとても美しい女性だが、 その美貌にもかかわらず、彼女は28歳になってもまだ独身で、 その美貌を見るとすぐ言い寄ってきた男たちも 彼女の死体を解剖することへの熱意に気づくと、全員が逃げ出した。
「ディエゴ、甘い砂糖が脳細胞を活性化するのに良いって知ってる? それって本当だと思うわ。 あなたも、試してみるべきね」と提案すると、ディエゴへのペロペロキャンディをバッグの中を探し、 そして、かわいい笑顔でそれを彼に手渡した。
自分に向けられたキャンディを見てディエゴ・グオの顔は暗くなった。 「遠慮するわ。 このことは忘れて、仕事に戻ろう。 この死者、結構お偉いさんだそうだ。 どうやらたくさん機密情報を知ってるらしてくな、 それを踏まえるとたぶん口封じのために殺されたんだろう。 我々のリーダーが何を考えていたのかはわからないが、 なぜこの死体を調べるために私たちをここに送ったんだ? リーダーもこれが危険な仕事だと知っていたはずだ...」
「ちょっと黙ってて」 ハーパーは彼の話を遮って、 死んだ男の腹を切り裂くとすぐに、胃の中に鍵を見つけた。 「ほら! ここに鍵があるわ」
「何の鍵だ?」 ディエゴは不思議そうに尋ねると、よく見ようと前かがみになった。
「貸金庫の鍵よ。 被害者は攻撃される前に鍵を飲み込んだに違いないわ」と鍵をきれいにし、注意深く見ながら答えた。
「彼が死んだ時家も荒らされていたと聞いたわ。 殺人犯がこの鍵を探していたのか?」 ディエゴは、深く考え込んで尋ねた。
「ディエゴ、すぐにリーダーにこの発見について知らせてちょうだい。 けれど、他の誰にも内密に」と、歯ぎしりしながら警告した。
「わかった」 ディエゴはすぐに振り返ると、ハーパーを鍵と死体と置き去りにした。 彼がいなくなると、彼女は何も起こらなかったかのように死体検査を続け、 そして検査を終え死体を縫う直前、冷たい銃が彼女の頭に向けられた。
「それを渡すんだ」という聞き覚えのある声が、彼女の行動を止めようとしていた。
「まさか… ディエゴ、なぜあなたが?」 この声が同僚のディエゴのものであることに即座気づいたハーパー はそう尋ねた。
「ハーパー、君を殺したくない。 大人しく鍵を渡すんだ」 と言いながら銃を持っていたディエゴの手が震え始めた。 「俺は本気だ! 鍵を渡せば、身の安全は保障する。 ここでのことも何も見なかったことにしてあげる。
ディエゴが言葉を終える前に、ハーパーが動いた。 彼女はメスを使って彼の手首を切ると、その手にある銃を払い落としたが、 助けを求める声を上げる前に、胸に鋭い痛みが走った。 血が彼女の体からにじみ出始め、白衣をゆっくりと赤色に染めた。
「彼女は殺さない約束のはずだ!」 ディエゴは怒り狂ってハーパーを撃った警備員に向かって叫び、 そして床に倒れかかろうとした彼女のぐったりした体をつかんだ。 彼女は全身に悪寒が走るのを感じると、 目を閉じ、同僚が何を言おうとしているのか聞こえなくなった。
ハーパー・チューが再び目を開けると、その視界にあるのは冷酷な死刑執行人がナタを持つ姿だった。 目の前の光景は、歴史劇や時代劇にある囚人の首が切り落とされるシーンとよく似ていた。 首を切り落とされそうになっていることに気づくと彼女はパニックになり、必死にもがき始めた。 しかし、首が痛くて頭が爆発しそうになった上、 たくさんの記憶が脳に押し寄せると、彼女は危うく気絶するところであった。
そう遠くない距離で、彼女の妹が泣き出し始めた。 彼女は「姉さん、私たちを置いていかないで…」と叫んだ。
ハーパー・チューは脳みそを絞ってゆっくりと現在に至るまでの記憶を思い出すと、 自分がタイムトラベルしたことに気づいた。 その身分も 現代の法医学の専門家から、古代ブライト王朝のチュー家の嫡女に変わり、 さらに将軍であるマクスウェル・ジャンの側室の赤ちゃんの出産を助ける時にトラブルに巻き込まれ、 将軍のまだ生まれていない息子を殺したと濡れ衣を着せられたのだ。
そして、目の前で必死に泣いていた妹こそ、彼女を罠にはめた共犯者の一人だった。
息子を死なれて激怒していたマクスウェルの 怒りを和らげるために、皇帝は彼女を斬首すると決めた。 そしてチュー家のものは、すでに彼女を見捨て、 唯一見送りにやってきた妹も、自分が斬首されるところを見たいだけであった。
「もう正午だ! 今すぐ死刑を執行せよ!」 高台の上で、今回の死刑執行の責任者である 九皇弟のマシュー・ジュン親王が命令を出すと、 死刑執行人はナタを持ち上げた。 そして迫ってくる危機を見ると、ハーパーはすぐに叫んだ。