拳で床を叩く音が、乾いた部屋に響く。その拳の持ち主が戦慄いているのを、樋后宗明は遠い景色のような面持ちで眺めていた。
「このようなことが、赦されて良いものか」
呻くように一人ごちる相手に、宗明は細い息を吐き出した。
「赦されるも何も、そうなってしまったからには、致し方あるまい」
「ですがッ! 口惜しゅうござりまする」
歯が折れてしまいそうなほど食いしばっている相手に、苦い顔を向ける。神坂領主となって在位二年目を迎えようとしていた折、現領主の性癖は荒廃しておる故、弟である成明を領主とせよ、と国主、味多義明よりの通達が届いたのだ。
「ここで拒めば、兄弟の要らざる争いを行わねばならん。領主の地位など、私は惜しくはない。それよりも、醜いお家騒動が起こることのほうが、好まぬ」
「――宗明様」
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