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夫は大学教授である。
口下手だが実直で、穏やかな人だった。
彼の退勤を迎えにいく途中、喉が渇いたのでミルクティーを注文してもらった。
手渡されたのは、氷抜き・微糖のミルクティー。
私は一口も飲まず、それを彼の研究室のゴミ箱に叩き込んだ。
「沈南、離婚しましょう」
彼は呆然とし、心底不可解だという表情で聞き返した。「……何だって?」
彼が新しく受け持った博士課程の学生、林年年が間に入ってとりなす。
「たかがミルクティーじゃないですか。お気に召さないなら飲まなければいいのに。奥様も、そんなに意地悪なさらないでください」
沈南も眉をひそめた。
「江佳年、気に入らないなら買い直せばいいだろう。何をヒステリーを起こしているんだ」
私は背を向けて歩き出す。「明日、離婚協議書を持ってきます」
……
振り返っても、沈南は追いかけてこなかった。
林年年が、おずおずと彼の腕をつついた。
「沈先生、奥様が怒っていらっしゃいますよ。引き止めなくてよろしいのですか?」
沈南は鼻を鳴らし、苛立たしげに吐き捨てる。
「ミルクティー一杯で大袈裟な。彼女がどんな味を好むかなんて、知るものか」
「いつものことさ。離婚を切り出すのも初めてじゃない。放っておけばそのうち機嫌も直る」
林年年の口元に、微かな笑みが浮かぶ。彼女は沈南との距離をさらに詰めた。
風が二人の服の裾を弄び、まるで意思があるかのように絡み合わせる。
林年年の髪が乱れると、沈南は無意識にそれを彼女の耳にかけてやった。
二人の耳は、血が滴るほど赤く染まっていた。
まるで恋人のように親密なその仕草を、どちらも避ける素振りは見せない。
私は携帯を取り出し、弁護士をしている親友に電話をかけた。
「数日前に香港の企業からチームを率いてほしいと誘われたの。明後日には発つつもりよ」
親友は絶句し、驚きに満ちた声で言った。
「沈南には話したの? あなた、彼と遠距離恋愛なんて耐えられるの?」
私は肩をすくめ、乾いた笑いを漏らす。
「遠距離恋愛じゃない。離婚を切り出したの。だから、離婚協議書を作ってほしくて」
彼女は再び言葉を失い、やがて深いため息をついた。
「あなたたちみたいな模範的な夫婦でさえ、七年目のジンクスには勝てないのね……」
私と沈南は、かつて誰もが羨む理想のカップルだった。
大学一年の時から交際を始め、卒業と同時に結婚して、七年になる。
だから、彼のことは誰よりもよく分かっている。
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