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「いやー、大騒ぎの結婚式だね。聞いた? 長谷川弁護士の幼馴染が、ホテルの屋上で自殺騒ぎを起こしてるって!」
ドアの外から漏れるひそひそ話に、橘明音の心はずきりと痛んだ。
これが、桜井静香による99回目の自殺未遂だ。
もう慣れっこだと思っていた。
けれど、今日は違う。
今日は、明音と長谷川冬樹の結婚式なのだ。
静香がこうして騒げば、自分がまた一歩引かなければならないことを、明音は理解していた。
冬樹と付き合って五年、静香もまた五年間、騒ぎ続けてきた。
そのたびに、冬樹は真っ先に彼女の元へ駆けつけ、なだめてきたのだ。
この恋において、自分こそ日陰者の浮気相手なのではないかと錯覚するほどに。
だが前回、自分を置いて静香の元へ向かった際、冬樹は約束してくれた。「これが最後だ」と。
明音は彼の「最後」という言葉を信じ、今日の結婚式を迎えた。
『死にたいなら勝手に死なせろ!俺に電話して何になる?』
明音はハッとして顔を上げた。バルコニーのドアは完全に閉まっておらず、冬樹の低く冷淡な声が隙間から漏れ聞こえてくる――。
『飛び降りるだと? できないだろうな!彼女が今まで何度自殺騒ぎを起こしたと思ってる? 一度でも血を見たことがあったか?』
最後に、冬樹は声を潜めて何か指示を出したが、あまりに小声だったため、明音には聞き取れなかった。
通話を終えた冬樹が振り返ると、ちょうど明音と目が合った。
明音の心臓が早鐘を打つ。今回、彼は静香のところに行かなかった……。
つまり、彼、嘘ついてなかったんだ?
本当に、これが最後なのか?
「何そんなに見てるんだ? もうすぐ式が始まる。準備はいいか?」冬樹の顔には何の感情も浮かんでいない。
それでも、明音は嬉しかった。
彼女は知っている。冬樹という男は、生まれつき感情が欠落しており、他人に共感することが難しい質だということを。
青春時代の淡い恋心から始まり、心からの愛を捧げるに至った今、明音はようやくその思いが実を結んだと感じていた。
彼にとって、自分は特別な存在のはずだ。
そうでなければ、結婚なんて承諾するわけがない。
明音は花のような笑顔を浮かべ、彼の腕に身を寄せ、「冬樹、私たちやっと結婚できるんだね……」と感慨深げに言った。
冬樹は相変わらず無表情のまま、「ああ、わかってる」とだけ答えた。
控室のドアが開く――。
「さあ、新郎新婦の入場です!」 司会者のよく通る声が、瞬時に会場の空気を掌握した。
明音は幸せいっぱいの表情で、冬樹の腕を組み、ステージへと歩き出した。
「皆様、盛大な拍手を……」
言葉の途中、唐突に冬樹の携帯電話が鳴り響いた。
司会者の顔に気まずさが走り、会場からはどっと笑い声が上がる。
明音の笑顔が凍りついた。その着信音は、彼女にとって悪夢のような音――静香専用の着信音だったからだ。
冬樹は懐から携帯を取り出し、電話に出た。『もしもし、また何かあったのか?』
司会者は慌てて場を取り繕い、再び雰囲気を盛り上げようとする――。 長年司会をしていて、こんな事態に遭遇するのは初めてだろう。
だが、彼が口を開くより先に、冬樹の声が響いた。
『すぐに行く』
冬樹はその一言を残し、大股でステージを降りていった。
一瞬にして、会場全体が騒然となる。
「行かないで……」明音はウェディングドレスの裾を持ち上げて追いかけ、すがるような表情で訴えた。「最後だって言ったじゃない」
冬樹はわずかに眉を寄せ、冷徹に損得を計算しているかのようだった。
数秒後、彼は冷静に説明した。「静香が本当に飛び降りたらしい。行って確認しなきゃならない。お前は客の相手をしててくれ、すぐ戻る」
「冬樹!」明音は彼の手首を掴み、離さなかった。「もし行くなら、私はもう結婚しない!」
冬樹は無造作に彼女の手を振りほどいた。「なら、後悔するなよ」
明音の心は粉々に砕け、涙が不意にこぼれ落ちた。
その涙を見て、冬樹の心臓がわずかに震えた。しかし彼は、これも明音の妥協のサインだと解釈した。
いつものように。
彼女は自分を見捨てられないはずだ。
明音がいかに自分を好いているか、冬樹は知っていた。箱入りのお嬢様でありながら、家族と絶縁してまで宮都で働く自分についてきたのだ。
何があっても、彼女は常に自分の味方だった。
彼女の最大の願いは、彼と結婚することだ。
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