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アッパーイーストサイドにある個室の診察室の静寂は、平穏なものではなかった。それは重く、圧迫感があり、まるで今にも崩れそうで崩れない雷雨の前の空気のようだった。美悠は診察台の端に腰掛け、Hermèsのバッグの革製ストラップを握りしめる指の関節は白くなっていた。彼女が浅い呼吸をするたびに、下に敷かれた紙シーツがカサカサと音を立てた。
佐野医師が入室してきた。彼に笑顔はなかった。彼はマンハッタンのエリート層の跡継ぎの半数を取り上げてきた男であり、どのような状況が祝福を必要とし、どのような状況が慎重さを要するのかを心得ていた。彼の手にはマニラファイルが握られており、そのファイルをゆっくりと、意図的に開く様に、美悠は胃がねじれるような思いがした。
美悠は、彼が超音波検査の報告書に目を通すのを見つめた。彼は眉をひそめた。眉間に皮膚が寄るだけの小さな動きだったが、美悠にはそれが悲鳴のように感じられた。
「ご懐妊ですよ、上杉夫人」と佐野医師は言った。
美悠ははっと息を呑んだ。彼女の手は無意識に平らな腹部へと動き、シルクのブラウスの上からそこを覆った。この瞬間を、彼女は幾千回と想像してきた。頭の中では、いつも喜びの涙と、自分の手に重ねられる純也の手と、そしてこれほど冷たくはない未来の約束がそこにはあった。しかし、純也はここにいない。彼のスケジュールによれば、純也はロンドンにいるはずだった。
「ですが」と佐野医師は声を一段低くして続けた。「妊娠を継続できるかどうかについて、お話しする必要があります」
美悠は凍りついた。ほんの一瞬きらめいた喜びは、冷たい恐怖の波によって即座にかき消された。
「美悠さん、あなたの子宮壁は非常に薄い。貧血の既往歴と血液検査のストレスマーカーを合わせると、これはハイリスク妊娠に分類されます。極めてハイリスクです」
その言葉が二人の間に漂った。ハイリスク。それは子供のことではなく、まるでビジネスの取引か、ストックオプションのように響いた。
美悠は頷いた。話そうとしたが、喉が砂で満たされているかのように感じた。熱く、刺すような涙が目に込み上げてきたが、彼女はそれを流すことを拒んだ。彼女は結婚によって上杉家の人間となったのだ。上杉家の人間は、たとえ医療スタッフであっても、使用人の前で涙を見せることはない。
「ストレスは影響しますか?」と彼女は囁いた。その声は細く、か弱く、自分の耳にはまるで他人の声のように聞こえた。
佐野医師は眼鏡を外し、彼女が嫌悪する憐れみの目で彼女を見た。「ストレスは今、最大の敵です、美悠さん。これはいくら強調してもしすぎることはありません。絶対安静が必要です。穏やかに過ごすこと。いかなる大きな精神的、肉体的ショックも流産を引き起こす可能性があります」
美悠は診察台から滑り降りた。足元がおぼつかず、まるで荒波に揺れる船の甲板を歩いているかのようだった。彼女はマタニティビタミンとプロゲステロンのサプリメントの処方箋を受け取った。
「今日は現金で支払います」と美悠は突然、鋭い声で言った。「そして、このカルテは封印してください。保険請求もなし。ファミリーポータルへのデジタル更新もなし。できますか?」
佐野医師は驚いた様子で彼女を見たが、ゆっくりと頷いた。「もちろんです、美悠さん。患者の守秘義務は最優先事項です」
「ありがとうございます」と彼女は言った。
彼女はクリニックを出て、3ブロック先の小さな個人経営の薬局に立ち寄った。上杉家お抱えの薬剤師に処方箋を見られたくなかったのだ。彼女はビタミン剤とジェネリックの制酸剤を一本買った。薬局のトイレの個室で、彼女は制酸剤をゴミ箱に捨て、何でもないように見えるボトルにマタニティビタミンを移し替えた。処方箋のラベルを剥がし、ジェネリックの用法書きだけを残した。
彼女は五番街に出た。風は身を切るように冷たく、コートを突き抜け、個人的な悪意でもあるかのように無遠慮に彼女の顔を打ちつけた。タクシーの騒音と観光客の喧騒に囲まれて歩道に立ち、彼女は人生で初めて、何か根源的な感情が突き上げてくるのを感じた。
彼女は自分のお腹を見下ろした。膨らみも、生命の兆候も、何も見ることはできない。しかし、彼女にはわかっていた。そこに何かがいる。自分だけの何かが。
純也に伝えなければ。
その考えは、啓示のような力強さで彼女に浮かんだ。最近、二人の結婚生活は冷え切っていた。いや、凍りついていた。彼はよそよそしく、上の空で、いつも携帯をいじり、いつも旅に出ていた。しかし、赤ん坊がすべてを変える。赤ん坊は架け橋だ。赤ん坊は新たな始まりだ。彼が知れば、彼は変わるだろう。変わらなければならない。彼は上杉家の人間なのだ。彼らにとって、家族は何よりも大切なものなのだから。
彼女はバッグから携帯電話を取り出し、お抱えの運転手に電話をかけた。
「JFKまで」と彼女はわずかに震える声で言った。「国際線到着ロビーにお願いします」
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