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国家機密レベルの任務を終えた直後、一本の電話がかかってきた。
「お母さん!一年間準備してきた世界連盟事務局のインターン、ついに受かったの!」
娘の声は、弾むような歓喜に震えていた。
そのままビザの準備に取りかかり、「何を持っていけばいい?」と立て続けに3つも音声メッセージが届く。
だが――一週間後。娘のGPS腕時計の座標は、学校の管理棟3階から一向に動かない。
嫌な胸騒ぎがして、秘密裏に帰国して学校を訪ねたとき、目に飛び込んできたのは――壁の隅に、まるで犬のように繋がれた娘の姿だった。
その傍らで、嘲りに口元を歪めた少女が言い放つ。
「貧乏人のくせに、うちのパパからもらった世界連盟の職を騙るなんて―― 死にたいの?」
それに追従するように、担当の教員までが卑屈にうなずいた。
「蘇原いおりさんのお父様はこの国で一番の資産家で、お母様は国家級の専門家。このポジションは彼女以外あり得ませんよ」
眉間に、ぴくりと皺が寄る。
世界連盟の事務局職――
それは、娘が全身全霊をかけて勝ち取ったものではなかったか?
“この国で一番の資産家”と“国家級の専門家”。
それは、どう考えても私と、あの「ヒモ夫」のことだろう。
私は迷いなく、ある番号に電話をかけた。
「……外に“娘”がいるって聞いたんだけど?」
...............
「仕事でちょっと疲れてるんじゃない?」
「君と歓を大事にするだけで精一杯だよ。ほかの誰かを気にかける余裕なんて、あるわけないだろ」
雪村思遠のいつもと変わらぬ優しい声に、胸の奥の小さな疑念は、あっという間に霧のように消えていった。
雪村思遠は、業界でも評判の“理想の夫”。この十年間、私と娘への愛情は一度も揺らいだことがない。
女友達との集まりでは、決まって誰かが茶化すように聞いてくる。「どうやって夫をそんなに手懐けてるの?」と。
けれど、秘訣なんてない。
私たちは、いわゆる学生結婚組。大学に入ってすぐに出会い、恋に落ちた。
あの頃、私は資産家の娘であることを隠していた。彼は、バイトでどうにか食いつなぐ苦学生だった。
それでも彼は、毎朝欠かさず、街で一番高い胃にやさしい朝ごはんを買ってきてくれた。
真冬の凍える朝には、周りの目も気にせず、頑なに教室の一番暖かい席を取ってくれていた。
結婚後、私は会社の経営をすべて彼に任せたが、彼は私と娘に対して少しも手を抜くことなく、むしろいっそう丁寧に接してくれた。
電話口の彼は、相変わらず体調を気遣う言葉をかけ続けていた。
けれど、私は慌ただしく通話を切った。
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