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『蓮、ごめんなさい…もう、あなたとは一緒に居られない』
何度も見る夢、醒めるのはいつも同じ場面だ。もうあれから何年も経つのに、未だに俺の心はあの日に囚われたまま動けないでいる。艶やかな長い髪が風になびいて、サラサラと揺れ動く姿、別れたあの日、どんな表情でいたのか、もう思い出せない。それなのに、心は動かない…。
「蓮、さっき先方から連絡があったわ。先日のお話、お断りしますって」
朝起きぬけの働かない頭のままでリビングに入れば、母親が仁王立ちで待っていた。今やこれもよくある日常だったが、俺は何の話をしているのか、すぐには結びつかない。
「んー…あー、なんだっけ?」
「お見合いよ!この前行ったお見合いの話!お相手の方、他に好きな方がおられたそうよ。もう、それなら最初からお見合いしなきゃいいのに…まったく…」
母親の口から「お見合い」という単語が聞こえて、ようやく合点がいく。母親は相手の事情を知って、納得がいかないのか、ぶちぶちと文句を言いながらキッチンへ歩いて行った。その後ろ姿をぼうっと眺めながら、俺は安堵していた。
今回もうまくいった。特に今回はお見合い相手に彼氏がいたから、説得は簡単だった。両親に反対されていて、断れないお見合いだったと言っていたけど、お見合いした彼女にとっても、俺にとっても、これが最善の道だ。これで暫くは、母親も大人しくしてくれると良いのだが…。
世の中はそんなに甘くないのが現実だ。俺の淡い期待は、夕方帰宅した玄関で儚く消えていった。
「母さん!何で玄関に見合い写真があるんだよ!今日の今日で何考えてんだよ」
仕事から帰宅して早々、玄関で見覚えのある物に迎えられる現実は、俺の期待を砕いた。その場で靴をぬぐことなく、俺は打ちひしがれた。疲労感が増す中で、何とか自分を奮い立たせてリビングへ入ると、母親は朝と同じ場所で、今度は上機嫌で俺を待っていた。
「今日は今日でしょ。それにそれは今度の週末のお見合い話よ!そんなことより、今度のお見合い相手は好物件なのよ!父さんの取引先の社長さんからの紹介なんだけどね」
「好物件って、言い方失礼だろ。大体何、その…父さんの取引先の社長さんとか、どういうこと?あんたら両親は息子について何って話してるの?俺の人権は?プライバシーとか個人情報とか、どうなってんのよ?」
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