
北海道から上京してきた、世間知らずの美大生だった私。東京の不動産王、一条蓮に、身も心も奪われた。
秘密の関係は、火花が散るように激しかった。彼は私のすべてをカメラに収めながら、ささやいた。「俺たちだけのものだ」と。
でも、真実が私の世界を粉々に破壊した。
蓮が、私たちの関係すべてが計算ずくの嘘だったと告白するのを、聞いてしまったのだ。
私を、そしてあの写真を、義理の兄が立ち上げたIT帝国を潰すための「ネタ」として利用する計画だった。
私の信頼を勝ち取るために、自作自演の強盗事件まで仕組んでいたなんて。
優しい仕草も、守ってくれるような素振りも、すべてが残酷な芝居だった。
彼の金色のペントハウスは、いつしか金色の鳥籠に変わっていた。
私を支配するためなら、身体的な危害を加えることさえ厭わない。彼の策略はどんどんエスカレートしていった。
私は、自分が参加していることさえ知らなかったゲームの、ただの駒だった。
どうして、こんなにも盲目だったんだろう?
屈辱が燃え盛る。でも、その炎は氷のような怒りを呼び覚ました。
あのケダモノが私の信頼を食い物にし、私の愛を、たった一人の家族に向ける武器に変えたのだ。
でも、蓮は私を甘く見ていた。
私はもう、ただの被害者じゃない。私は烈火だ。
私は冷静に、全ての証拠を消去し、完璧な逃亡計画を立てた。
彼は日本中を追いかけてきた。壊れた男が、慈悲を乞いながら。
でも、彼が見つけたのは…私だった。
バージンロードを歩く、私。
本当に私を愛してくれる男性のもとへ向かう、私を。
彼の世界が崩れ落ちるのを見届けること。彼の破滅を仕組んだのが私だと知らしめること。
それが、最高の復讐だった。
第1章
小野美咲は、東京の豪華なマンションの天井を見つめていた。シルクのシーツが肌にひんやりと心地いい。
一条蓮。年上で、圧倒的な力を持つ、北海道での生い立ちが決して教えてくれなかったタイプの男。彼はスマホの角度を調整していた。
「もう一枚だけだ、烈火」
低いハミングのような彼の声は、いつもなら私をとろけさせる。
「俺たちのために」
彼の言う「俺たち」とは、秘密の世界のこと。もう1年半も続いている。
蓮が、私の兄である大和の、宿敵ともいえるビジネスライバルだから、この関係は隠さなければならなかった。
渋谷でIT企業を経営する大和。両親が養子として迎え、実の息子同然に愛した、いつも私を守ってくれた兄。
彼はこの関係を憎むだろう。蓮を憎むだろう。
美咲はそれを知っていた。蓮も知っていた。それが、私たちの関係にスリリングで危険なスパイスを加えていた。
スマホのカメラが立てるカシャッという小さな音が、贅沢な静寂の中に響き渡る。
美咲は身じろぎした。その瞳に、不安の影がよぎる。
「蓮さん、本当にこんなにたくさん必要なの?」
私は奨学金で東京藝術大学に通う美大生だ。蓮が言うところの、私の「特別な才能」は、世界を見るその視点。彼はそれを称賛し、私自身を称賛してくれている、はずだった。
でも、いつも二人きりの時に、いつも彼の強い希望で行われるこの撮影会は、アートというよりは…何か別のものに感じられた。はっきりとは言えないけれど、胃が締め付けられるような、何か。
蓮はスマホを下ろし、カリスマ的な笑顔を浮かべた。その笑顔は、いつも私を瞬時に武装解除させる。
「俺たちの愛の証だよ、美咲。フィルターなしの、情熱的な。俺の目だけが楽しむためのものだ」
彼は身を乗り出し、私の額にキスをした。
「俺の美しくて、純粋なミューズ」
熟成されたウイスキーのように滑らかな彼の言葉は、いつもなら効果てきめんだった。彼を信じたかった。信じる必要があった。この愛、この秘密は、私が今まで経験した中で最も強烈なものだったから。
彼はよく私を「俺の烈火」と呼んだ。そのニックネームは、私を大切にされていると感じさせると同時に、少しだけ無謀な気分にさせた。
彼は高価な腕時計に目をやった。
「行かなくちゃ。あの退屈な慈善パーティーだ」
彼は素早く服を着て、恋人から不動産王、一条蓮へと姿を変えた。
「30分後に下に車を回しておくから」
彼は私の唇に軽くキスをした。
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