海を渡る橋の上で
今まさに、二台の車が命を賭けて激しく追いすがっていた。まるで生きるか死ぬかのスリリングな映画のワンシーンのようだった。
安田真紗は、腹部を刺すような鋭い痛みに必死で耐えながら、ハンドルをぎゅっと握りしめた。そして、もう一度アクセルを思いきり踏み込む。
バックミラーに映る黒い車。――あの誘拐犯の車が、じわじわと彼女に追いついてきている。
すぐにも、ぶつけてこようとしているのがわかる。
三時間前、彼女と勝田成子は同時に誘拐された。安田真紗は全身全霊で逃げ道を切り開き、ようやく勝田を連れて脱出することができた。
だが予想に反し、相手は蛇のように執拗に彼女たちを追い詰めてくる。
助手席では勝田成子が恐怖に顔を強張らせていた。「真紗、もし私に何かあったら、宮新隼人は絶対に君を許さないから!」
安田真紗は氷のような視線を彼女に向ける。「黙って」
彼女はアクセルを踏み込みながら、頭の中で両車の距離を暗算していた。
「ドアを開けて、いつでも飛び降りられるようにして」
そう言いながら、自分の側のドアはすでに開けていた。
勝田は声を震わせた。「怖いよ……そんなの、無理……」
安田真紗の目が鋭く光る。「飛び降りなきゃ、死ぬだけよ!」
車はすでに橋の上にさしかかり、まもなくトンネルの入り口に入る。
「今よ、跳んで!」
そう言うなり、安田真紗はアクセルから足を離し、ためらうことなく車から飛び降りた。勝田成子もその指示に従う。
元々、極めて危険な場所だった。彼女たちの突然の行動に、後ろを追っていた車は反応しきれなかった。
「ドンッ!」
二台の車が、瞬時にして激しく衝突する。