/0/19465/coverorgin.jpg?v=5be7d38759bc97012002865b5658cd56&imageMogr2/format/webp)
「少し痛むかもしれない、我慢しろ」
冷たく、鋭い男の声が耳元で響いた。
栞は我に返り、困ったように眉をひそめた。「女の先生に、代わっていただけませんか」
目の前の男は、背が高く、すらりと伸びた立ち姿で、マスク越しにも顎のラインが鋭く浮き出ていた。有無を言わせぬ威圧感が、全身から滲んでいる。
医者というものは、もっと穏やかなものだと思っていた。こんなにも冷たく、張り詰めた空気をまとう医者を、彼女は知らなかった。
男は俯いたまま、手早く器具を揃えながら言った。「今日は女の先生はみんな手が離せない、代えるなら、日を改めてもらうことになる」
栞はしばらく黙っていたが、結局、台のそばまで歩いていった。
……まあいい。男の先生でも。このまま放っておいたら、いつか取り返しがつかなくなる。
観念して、栞は台に横たわった。
「力を抜いて」
男の声が、さらに近づいた。
台に横たわったまま、栞はぎゅっと目を閉じた。
医者なのだから、余計なことを考えるのはやめようと、自分に言い聞かせた。
不意に、ひやりとした器具が肌に触れた。
その冷たさに、栞は思わず身をすくめ、小さく声を漏らした。
これが、彼女の病だった。体の一部が、わずかな刺激にも過敏に反応してしまう。
空気が、一瞬、張りつめた。
清征は手を止め、低く落ち着いた声で尋ねた。「……大丈夫か」
栞は火照った顔を背けた。心臓が早鐘みたいに暴れている。「……だ、大丈夫です」
「緊張しなくていい」
そう言いながら、手の動きは知らず知らずのうちに、柔らかくなっていた。
診察室が静かすぎて、栞は自分の鼓動まで聞こえてしまいそうだった。
ふと、耳元で、男の低くて落ち着いた声がした。「だいぶ過敏になっているようだな。これも症状のひとつか」
栞の顔が、一瞬で、耳の先まで真っ赤に染まった。
/0/24818/coverorgin.jpg?v=0a2ccf7a763aa6da4a09d13229d1e1db&imageMogr2/format/webp)
/0/22428/coverorgin.jpg?v=9a242a24ee9037b3054bbe04bc0e0723&imageMogr2/format/webp)
/0/1701/coverorgin.jpg?v=fc917824bf7fbd0559d83bdf358790e5&imageMogr2/format/webp)
/0/19544/coverorgin.jpg?v=e1953564de1828a5426e2ec59ac2278b&imageMogr2/format/webp)