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Yokubo no Yamini Furisosogu eien no Shunkan

もう戻らない――あなたの妻には

もう戻らない――あなたの妻には

四季 香織
昼は優しく、夜は情熱的。それが、陸名悠弥の時水恋に対する評価だった。 しかし、浅井静が余命半年だと告げると、陸名悠弥は時水恋にためらいもなく離婚を切り出す。 「彼女を安心させるためだ。半年後にまた復縁すればいい」 彼は時水恋がずっとその場で待っていると信じていたが、彼女はもう目が覚めていた。 涙は枯れ果て、時水恋の心も死んだ。 こうして偽りの離婚は、本当の別れとなった。 子を堕ろし、人生を再出発させる。 時水恋は去り、二度と振り返らなかった。 だが、陸名悠弥は――狂ってしまった。 ――後に、噂が流れた。かつて傲岸不遜を極めたあの陸名家の御曹司が、血走った目でマイバッハを飛ばし、狂ったように彼女を追い続けた、と。ただ、憐れみの一瞥を乞うためだけに……。
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秋も終わりに近付いた日の朝、 夜明けが夜の闇を追うにつれ、太陽はひんやりとした空気を暖めていく。

まだ夜も明けきらぬ頃、ルオ家の地下室にある石油ランプに光が灯った。 その光の大半を遮り、ゼン・ルオという若い男がテーブルの前に姿勢よく座って、 静かに糸で綴じられた使い古された本を取り出した。

ゼン・ルオは、17歳になったばかりの痩せた、平均的な見た目の男だったが、 円熟した人間味を感じさせる何かを持っていた。 柔らかな見た目とは対照的に、その目は燦然とし、石油ランプの薄暗い光の中でさえ、魅力的に輝いていた。

「天論憲問を読み終わるのに1ヶ月も掛かった。  その論点は大体的を得ていて、とても勉強になったが、どうもその本が言う、仇を恩で報いるだけは、どうしても納得が行かない」と、石油ランプの中の、丁度豆くらいの大きさの炎を見つめながら呟き、 その顔にはもの悲しさが広がっていた。 「もし父さんがこの言葉を信じるほどのお人よしでなかったら、氏族の直系の子孫である僕もこのようにはならなかっただろう、そして父もまだ生きていたはず…」

「ガチャ」という地下室のドアのロックが解除される音で現実に引き戻されると、 ゼンは、自分に纏っていた憂鬱を隠し、代わりに厳粛な表情に変え、 それから、石油ランプを吹き消し、ぼろぼろの綿のキルトで身を覆った。

地下室のドアが開き、足音が近付き始め、 男が前に現れてゼンのベッドを踏みつけた後、「まだ寝てるのか? まだルオ家の若様気取りしてんのか?とっとと起きやがれ!」 と、金切り声で叫んだ。

その男はルオ家の執事で、 卑劣な顔をしていた。 額のイボが、人々の嫌悪感を掻き立てたのだ。

ゼンは上半身を起こし、わざと目をこすって、 キルトを押しのけてから、向きを変えて足を地面に付けた。 そして、静かに服を着替え、靴下と靴に足をを滑らせた。 それらの服は摩耗していたが、元々几帳面な性格だったゼンはできる限りの手入れ を怠らなかった。

執事の男はその様子を批判のこもった目であきれ返って眺め、手を振って合図を送った。 すると、何人かの男がゼンを取り囲み、無理矢理厚い革の鎧と手枷足枷を付けた。

それが終わると、ゼンは地下室を出てルオ家の武道館に向かう使用人達の後を歩いた。

ルオ家は数百の鉱山と数百万エーカーの肥沃な土地を所有していて、 C郡では大きく強力な一族として知られていた。

しかし、数え切れないほどの裕福な家族を含む数千の郡都市がある東部地域ではルオ家も一無名氏族にすぎなかった。

ゼンは何人かの男に付き添われながら暗い地下室から這い出た。 これがお馴染みの毎日の儀式だ。 武道館へ行くには、多数の東屋、橋や回廊を超えて行かなければならない。

武道館はひらけていて、 ルオ家の子供たちが修行に来る場所だった。 その入り口は雄ライオンと雌ライオンの白い大理石の彫刻で飾られていて、 地面は大きな黒い玄武岩の一枚板でできていた。 建物の入り口に立つだけで、中から発せられる力を感じることができる。

武道館の真ん中では、何十人ものルオ家の子供たちが先生の指導の下で武道の特訓を受けており、 皆揃いの灰色のローブを着ていた。

輪になっている子供たちの間で、掛け声が何度も何度も響いた。

この子供たちは皆10代程度の若さでありながら、家族の中で地位を獲得するために、皆熱心に勉強し、 武道にも励まなくてはならなかった。

この晩秋の日、道場に訪れる骨の髄を刺すような冷たい風に吹き晒されていた にもかかわらず、訓練中の子供たちは額に汗をかき、 更にその頭の周りに漂う熱気を冷たい風と接触され、蒸し暑い白い霧を頭頂に纏わせる者までいる。

武道館の反対側には、ゼンと同じように革の鎧と手枷足枷を身に着けた十数人の男性が立っていて、 皆一様に意気消沈して全身に出血や怪我を負っていた。

ゼンは武道ホールに案内されると、 用心棒どもに負傷した男の中に入れられた。

これらの男のほとんどは地元の刑務所からルオ家によって買いだされた死刑囚であり、事実上ルオ家の奴隷だった。 これらの奴隷は、ルオ家の子供たちが鍛えるための、訓練を実戦に移す時の生きたサンドバッグとしてこき使われている。 子供たちは、これらの奴隷をまさしくサンドバッグのように好き勝手に攻撃することができるので、 その暴行によって、殺されたり、廃疾者にされた奴隷は後を絶たず、 今となっては、道場で命を落とした人の数を数えることさえ不可能だった。

ゼンは死刑囚ではなく、一族に買収されたわけでもなかった。 元々、彼はルオ家の嫡流長男であり、 一族のものに若様と呼ばれるような気高き存在だった。 その高貴なご身分から、従兄弟からは会うたびに辞儀されるように敬われ、 叔父叔母といった家族の年長者でさえ彼には礼儀正しかった。

しかし、2年前にC郡で悲劇が起こり、 ルオ家当主であったゼンの父は、兄弟の手によって毒殺され、 その場で亡くなった。

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